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捨てられた元王妃は国を逃れて、隣国王子に溺愛されながら、幸せ薬師ライフを送ります!  作者: たかたちひろ@『巻き込まれ転生幼女』2/28 発売!
三章

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第36話 元王妃は、隣国王子に送り出される




やっとのことで、有用な情報を手に入れたその夜、私はさっそく行動に出ていた。


事前に予約していた馬車を捕まえ、荷物とともに乗りこむ。


デアーグに教えてもらったカーター商会が拠点としている町・フラーレンは、ルベルトの治める領土内であるとはいえ、ここトレールの街から北西に馬車で約半日と少し距離があった。


商会の営業時間内に到着しようと思うと、今、出発しておきたかったのだ。



ギルドの身分証を提示して、門前で検閲を受ける。

少し前までなら、捕まるのではないかとドキドキしていたところだが、今はそんな心配もいらない。


確認が済むのをただ待つのだけれど、一向に終わってくれない。


なにか問題があったのかと思って、私は馬車の窓から顔を覗かせる。


そして、ぎょっとした。

門番の詰所から出てきたのは、見まごうわけもない。


僅かな月の光の元ですら輝く白磁の肌。夜空に星を散りばめたみたいな、美しすぎる藍色の瞳。夜風に悠然となびく、青の髪。

いや、もはやそれだけではない。

全身が、高貴さと美麗さと主張してくる容姿は、何度見ても新鮮味を持って圧倒される。


「……ルベルト様、なんでこんなところに」

「お前が一人でフラーレンに行くと聞いたからな」


どうやら、デアーグが余計な報告をしたらしい。


「というか、熱だったんじゃ?」

「それなら今日の昼頃に下がった。もう問題ない」


いやいや、それは十分に病み上がりだと思うのだけれど。

彼はあくまで平然と続けた。


「アスタ、フィーネの毒を貰ったそうだな」

「……え、なんでそれを」


誰にも、その話はしていないはずだ。

どういうことかと思っていたら、


「デアーグの奴が気づいた。夜会で見たフィーネの様子と、お前が腕を伸ばす様子が、似ていたらしい」


出てきた話に、私は驚くほかなかった。


書庫で肩車をしてもらったときのデアーグは、私を持ち上げるのに精いっぱいといった感じで、そんな余裕があったようにはまったく見えなかった。


だが、そんな状態でも、彼は私の異変に気付いていたというのだから、なかなかの観察眼だ。

たぶん、この間の夜会に参加した際に、フィーネの様子のおかしさにも気づいていたのだろう。


彼女が自分でデアーグに打ち明けるとも思えないから、それも見抜いていたのかもしれない。



なるほど、さすがはルベルトの側近だ。

なにも家柄だけで務めているものではなく、能力もきちんと伴っているらしい。


……まぁ、それはそれとして。

私にしてみれば、余計なことを余計な人に話してくれたなぁ、とは思うのだが。


「なかなかリスクのあることをするものだな」

「……このほうが効率的ですから」

「なるほど」


ふっ、とルベルトは軽く笑って、言葉を継ぐ。


「カーター商会のところに行くのだろう。そこの会長は厄介者だ」

「えぇ、聞きました。自分の認めた人間としか取引しないとか」

「そうだ。俺は一応、面識も取引実績もある。そして、明日までは休みを取っている」

「……ついてきてくれると?」

「もちろん、アスタさえよければだが」


ありがたい話といえば、そうだった。


クセのある人と交渉するときは、その人のことを知っている人と一緒に席につくのがいい。

これは、交渉事の世界なら常識とも言える。


だが、私は首を横に振った。


「……そうか」

「えぇ。病み上がりの方はまずしっかりと休んでください」


本当のところ、理由はそれだけじゃない。


今回ばかりは依頼者の思いを知っているだけに、彼に頼るのは反則に当たる気がした。


私が彼をどう思っているとかではなく、フィーネの気持ちを考えたときに、自分の治療のために、私とルベルトが一緒になって行動するのは、嬉しいものではないだろう。


『抜け駆けですわ』とか、的外れな指摘をされる可能性もあるしね。


「……健闘を祈ろう」

「そうしていただけると助かります」

「必ず無事に帰ってこい」

「ふふ。戦場に行くわけではないんですよ。じゃあこれで」


私は一つ彼に会釈をする。

同時、彼が門番を見ながら一つ首を縦に振れば、通行許可が降りたらしい。


再びゆっくりと馬車は動き出した。

彼が見送ってくれているから、私は窓から顔を覗かせ後ろを振り返る。


手を振るのも、なにか違う気がした。それに気恥ずかしさが勝る。


「帰ったら今度こそ、庭の整備を手伝ってくださいね」


それで私は、こう声をかけることにした。

ルベルトはそれに、口端だけで笑って、軽く片手を挙げて答えてくれた。




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