29話 まだいけますか。
「ぐっ……」
やったのは、焼灼止血だ。
出血箇所を、熱い鐵具で焼き付けることで、強制的に止血する。
かなり荒っぽいもので、やけども負うが、その止血効果は確かだ。
それに、毒素が身体に回ることも阻止できる。
水が沁みるのとはわけが違う痛みに、ルベルトは顔全体を強くしかめて、苦悶の声を漏らす。
が、私は決して腕をぶらさないように、彼の手を強く握った。
「我慢してください」
そうして、しっかりと血が止まるのを確認したあと、私はナイフを彼の腕から離した。
そのうえで、薬箱に入れてきていた魔力増強ができるポーションを手渡しながら、
「まだいけますか」
こう聞けば、ルベルトはふっと軽く笑う。
「手厳しいな、なかなか。甘えさせてはくれないか」
「当り前でしょう。今は、勝って生きて帰ることがすべてです」
「やはり、かなり肝が据わっているな。死ぬ人間の顔じゃない。いい顔だ」
死ぬだなんて、微塵も考えていない。
頭にあることといえば、
「ふふ、そうでしょう。帰ってやることを考えてるくらいです。無事に帰れたら、そろそろ庭の手入れを進めたいですね。忙しくて、まだ手が付けられていませんから」
こんなものだ。
「……なるほど、それはいい。俺も参加させてもらえるか」
「もちろんです。男手があると助かります」
ルベルトは、「雑用か」と鼻で笑いながら、立ち上がる。
「いい予定ができた。全身全霊でやる。ナイフを貸してくれるか」
「はい」
大蛇の動きは、さっき注ぎ込んだ毒の影響か、明らかに鈍くなっていた。
反対にルベルトはといえば、毒牙に噛みつかれたあとだというのに、さっきまでより明らかに魔力の出力が上がっている。
私の肌がぴりつくくらいには、強力だ。
これなら、いけるかもしれない。
そう私が思うと同時、ルベルトは一気に駆け出していた。
大蛇の頭へと刃渡りの短いナイフで斬りかかる。
そして、その刃は見事に、蛇の頭を切り裂いていた。
牙をむき出しにした状態で、ごろっと頭が地面に落ちる。
さすがの生命力だ。
その後もしばらく身体の痙攣は続き、その場で地面を揺らしながらのたうち回っていたが……、やがてそれは収まっていき、最後にはまったく動かなくなった。
それを見届けてから、ルベルトはこちらを振り返る。
そして、すぐにまた膝から崩れ落ちた。
私はすぐに対処に当たる。
幸い、消毒液など応急処置をできるものは持ち歩いていた。
それらで手当てを行っていく。包帯を巻いたところで、彼は口端を歪めながら、ぼそりと言う。
「ふがいないな。もっと楽に倒せるようにならなければ」
まったくもって、そんなことはない。
ちょっと自分に厳しすぎるのだ、この人は。
私は包帯の端と端を強く縛る。みしっと、布が音を立てるくらい、しっかりと。
「……痛いな」
「ふふ、とんちんかんなことを言っているので、その罰です。あなたは十分すぎるくらい、よく戦ってくれました。ありがとうございます」
「感謝を伝える態度ではない気がするが」
「これが私なりの感謝ですよ。それより止血剤を飲んでください。ちょっとまずいですけど」
「……アスタ。お前が作る薬は大概まずいな」
「そのぶん効果は確かですよ」
それから私たちは、少し休んだのち、私たっての希望で、大蛇の牙から毒液を採取したのち、洞窟の外へと出る。
そして無事に、街まで帰り着いた。
一応、ルベルトを狙う連中の仕業であの大蛇が差し向けられた可能性も考慮して、あたりを警戒していたが、襲われるような事態には発展しなかった。
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ここで二章が一区切りとなります!
まだまだ元王妃の薬師ライフは続きますので、引き続きどうぞ、当作品をお楽しみくださいませ。
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