第27話 隣国王子とともに、魔石を採掘していると?
「……これって」
「魔石の採掘ができる洞窟だな。もう少し上流のほうにあるかと思っていたが、いつのまにかこんなところにまで来ていたとはな」
「魔石の採掘ですか……」
魔石といっても、いろいろな種類がある。
基本的には魔道具等の動力源や、武器の一部として使われることが多いが、中にはポーションや丸薬などに使われる種類のものもあって、そういったものが気にならないかと言えば、嘘だ。
そうした採掘もしてみたいと思っていたし、妃だった頃には、憧れてもいた。
ただまぁ、今回の目的とは異なるし、あまり目移りしていてもしょうがない。
「ここはまた別日に来ましょうか」
と、私はルベルトに投げかける。
それに彼は一つ頷いて、先々引き返そうとする。
そんななかでも、少しだけ後ろ髪をひかれる思いがあって、最後まで未練がましく見ていたら、
「……時間的には問題ない。中を見ていくか。魔物も出る場所だが、そう強くはないと聞いている」
後ろからこう声がかかった。
「でも、採取する道具とか持ってませんし」
「それなら、俺が持ってきている。なにに使うか分からないからな。行きたいなら行っておこう。次がいつになるか分からない」
たしかに、そうだ。
自分一人ならともかく、彼が一緒に来られるタイミングはそうあることじゃない。
「じゃあ、お願いしてもいいですか」
「……構わない。行こうか」
ルベルトはそう言うと、私を置いて、先々、洞窟の中へと入っていく。
もしかすると、私が遠慮しているのを察して、そう振舞ってくれたのかもしれない。
「ありがとうございます」
その優しさに感謝をしながら、私も洞窟の中へと入る。
天井の高さは、身長の約二倍とそれなりの余裕はあった。
しかも、中には魔導灯までところどころに吊るされていて、管理されているのが窺える。
だが多少暗かったから、私は指先に火を灯した。
「……やはり二つ使えるのはいいものだな」
「まぁ生活魔法程度にしか使ってませんけどね」
私たち二人は先へと進む。
その途中では、何人かの冒険者が壁をハンマーで叩いているのにも、途中で遭遇した。
「ここは、うちの領土内では有数の魔石採掘地だ。冒険者たちもよく訪れているし、彼らによって、管理もされている」
「……みたいですね。かなり安全かも……」
「そう思ってくれて問題ない。よし。このあたりで採掘に入ろうか」
ルベルトは、洞窟の突き当たり、比較的周りに人が少ない場所を見つけると、ハンマーとピッケルを取りだして、それらを床に置く。
それから、採掘の手順について、細かに教えてくれた。
やみくもに色々な箇所を叩くのではなく、少し削って当たりをつけてから叩くのが、コツであるとのことだ。
実際、やってみると、結構に難しい。
力任せにやってもうまくいくものではないし、かといって、ある程度は力も必要になる。
が、こうして悪戦苦闘する時間は嫌いなほうではなかった。
苦難の末、やっと魔石の一部が壁の表面に露出する。
それを慎重に取りだそうと、小さなハンマーで叩いていたら、「少し力が入りすぎているな」との指摘が後ろからある。
「この石と壁の隙間に入れるイメージだ」
そして、だ。
彼は後ろから私の手を取り、サポートに入ってくれた。
いつのまにか、ほぼゼロ距離まで、身体が接近していた。しかも、手はがっしりと掴まれている。
息遣いを感じられるほどの距離感だった。
それを意識してしまえば、体温が一気に上がっていくような感覚になる。
むしろ、身体が硬直していく。
ただの指導だと思っても、だめだった。
まともに恋愛をしないまま、結婚をして妃になったがゆえに、あまりこういうことには慣れていないのだ。
「えっと、離してもらえますか」
と、どうにか絞り出す。
「……悪い」
「いえ、そういうつもりじゃないのは分かってますから」
一瞬、微妙な空気が流れるが、それを気にしないためにも、私はひたすらハンマーを振り下ろし続けた。
そのうち、ようやく魔石の全貌が見えてきて、揺すってみると、ぐらつくようになる。
それで、少し力をこめて、魔石を掴んでみたところ、思わぬことが起きた。
突然にぐらぐらと、あたりが揺れ始めたのだ。




