26話 元王妃は、隣国王子と薬草採取をする。
河辺では、さっそくヒダネという薬草の採集へと入る。
その見つけ方には少しコツがあった。
「見た目は雑草類と変わらないから、見つけるのは至難の業なのだけど、魔力を吸い込むと、きらりと光るんです」
「……ということは、ここ一帯に魔力を流せば、すぐに見つけられるな。ただ、かなりの魔力が必要になりそうだが」
「そこは大丈夫ですよ。これを持ってきましたから。どうぞ」
私はそう言うと、魔力回復ポーションを取りだして、彼に手渡す。
これは、魔力の回復量を一時的に速める効果のあるポーションで、この一週間の間にギルドからの依頼で作成をしていた。
今日のために、数本だけ自分用に多く作っていたのだ。
「準備がいいな」
「まぁ、薬師っていうのは、そういう職業ですから」
私はそう答えると、地面にしゃがみ、手元から魔力を地面に放出する。
が、どの雑草も光ってはくれない。それどころか、そもそも魔力の行き渡る範囲が狭い。
が、ルベルトは格が違った。
「……すごい」
と、思わず感心してしまう。
彼が魔力を宿した剣を地面へと突き刺せば、湖に石を投げ入れたときの波紋みたく、魔力は円状に一気に広がっていった。
すると、きらりと川べりに群生していた雑草のうち数本がたしかに光った。
私はすぐその場所まで駆け寄って、持参してきたスコップを取りだす。
そのうえで、始めたのは、土を掘り返す作業だ。
ヒダネは、根っこが薬に使うことのできる原料となる。
上から乱雑に引っこ抜いて、根が傷ついてしまったら、元も子もない。
ある程度までスコップで堀ったあとは、手を使って、掘り返していく。
当然、自然の環境だ。虫なども中からは出てくるのだが、私はそれを手で払いながら掘り続ける。
「……お前、本当にすごいな。尊敬する」
そして、ルベルトは、それを十分すぎるぐらい距離をとったところで、見ていた。
顔を歪めて、明らかに引いた顔だ。
少なくとも、尊敬する相手に向けるまなざしではない。
が、そんなことは気にせず、掘り進めて、私はやっと一本を手に入れる。
資料集などでは見ていたものの、手にするのははじめてのことだった。
まるっと膨らんだ根に、これが実物かと私が少しの感慨を覚えていたら、やっとルベルトが近寄ってくる。
「それが、ヒダネか」
「えぇ、はい。これがいくつか欲しいですね」
「では、もう一度やろう。……掘るのは手伝えないが」
「ふふ。そこは、任せてもって構わないですよ」
私たちは、一連の作業を何度か繰り返していく。
そのうち気づけば、水平線上にいた太陽は随分と高いところまで昇っていた。
少し昼休憩をとったあとは、続いて、別のものの採取に移る。
次に狙ったのは、マツホという丸い傘状のキノコだ。じめじめした場所に生えるキノコで、消化促進などの妙薬として用いられる。
私がそれを興奮気味に語れば、
「……キノコか」
まったく乗り気でない様子だ。苦虫をかみつぶしたような表情で、ため息を一つつく。
どうも彼は、キノコが苦手らしい。
変に部下と張り合ったり、ところどころ、子どもっぽいところがあるから面白い人だ。
「ツキヤという似た見た目の毒キノコもありますから、それには気をつけてください。斑点が多いものは、だいたいツキヤだと思ってもらっていいです」
「……分かった」
「とりあえず、二手に分かれましょうか」
「あまり遠くには行くなよ」
「分かってますよ」
こうして、マツホ探しが始まる。
すると、どうだ。意外なことに、ぽんぽんと見つかる。
本で読んでいた知識では、ツキヤのほうが数が多く、見つけるのが困難という話だったが……
どういうわけか、それはほとんど見つからない。
いや、正確には刈り取られた跡は、何か所か見つけたから、何者かが採取していったのかもしれない。
このぶんだと、間違ってではなく、故意に採取されている可能性もある。
ツキヤの毒は、即効性のあるものではないが、長期間服用していれば、身体の一部が漆黒の色になり、あらゆる機能に悪影響を及ぼすうえ、その毒に侵された人間の肌を触れれば、毒がうつるという、かなり面倒なものだ。
それで私は少し採取の手が緩むが、今考えても仕方がない。
「また食べているのか、それ」
「今回のは、ミントですね。口の中が爽やかになりますよ。どうです?」
「……貰っておこう」
途中で見つけた食べられるハーブ類を、自分の作り出した水で洗ってつまんだりしながらも、次々に採取を進める。
そうして、どんどんと川沿いを上流へと登って行った先で見つけたのは、切り立つ壁に空いた大きな穴だ。




