22話 元王妃は、光り輝くポーションを作る
「仲良くだなんて。デアーグ様には魔法を教えてもらっていたんです」
「あいつが人にものを教えるとはな」
「まぁ、結構適当というか、感覚的な感じですけどね。それはそれで面白いですよ」
私はそう言いながら、デアーグの指導を思い出して、少しくすりと笑う。
が、一方で、ルベルトの眉間にはどういうわけか逆にしわがくわっと寄った。
顔が整いすぎているばかりに、険しい表情には、やっぱり凄みのようなものを感じる。それで、私が少し引いたのを、もしかしたら察知したのかもしれない。
ルベルトは自分の眉を指で伸ばすようにしてから、私のほうへと向き直った。
「俺が教えようか」
そして彼は、ぶっきらぼうに言う。
それは、まったく思いがけない申し出だった。
「少なくとも、デアーグよりはうまいはずだ」
「……えっと、教えてくれるなら助かりますけど。時間とか大丈夫なのですか」
「その心配はしなくてもいい。数刻は休みがある。まずはやって見せてくれるか」
私はとりあえず首を縦に振って、膝上に置いていた本を横に置くと、立ち上がる。
それから手順をしっかりと踏みつつ、さっきまでやっていたように、手に火と水の二つを宿した。
彼はそれを見るや、自分の右肩を左手の人差し指で軽くさす。
「ここに力が入ってる。それが原因で、少し魔力の通りが悪い」
「……言われてみれば」
「最初に息を吐きすぎないほうがいい。脱力しすぎると、かえってよくない」
私は指摘されたとおりに、もう一度やってみる。
すると、どうだ。たしかに、さっきよりもスムーズに魔力が流れている感じがある。手に火と水が発現するまでの時間も、短縮された気がした。
これを彼は、一瞬で見抜いたらしい。
「すごい、どうして分かったんですか」
「大したことじゃない。俺はどちらかといえば、理論を考えるほうだというだけだ」
「先生に向いてますね、それって」
「少なくとも、デアーグよりはな」
なんだか、やたらと張り合っているような気もするが……、ともかくも本当に的確な教え方だった。
そこからしばらく私はルベルトに見てもらい、魔法練習を行う。
途中からは彼も身が入ってきたようで、実践を交えて丁寧に教えてくれた。細かすぎるきらいはあったが、そういうのは私も嫌いな方じゃない。
要するに、タイプがあっていたのだ。
おかげで、指導が終わる頃には、安定感も発動までの速度も、かなり向上することができていた。
「ありがとうございます。本当に助かりました。どうお礼をすればいいやら」
「……あまり気にするな」
「そうはいきませんよ。なにかはしますから楽しみにしててください」
私はルベルトに最後、こう言い残して、城を早々に後にして家路を急ぐ。
その理由は、お腹が空いたから……ではもちろんない。
今なら、よりいいポーションを作れるかもしれない。そんな不確かながら、賭けてみたくなるような感触が、手元にあったからだ。
私は家に戻ってすぐ、一階にある調薬部屋に籠もって、ポーションづくりを始めていく。
当然、一筋縄ではいかなかった。
感覚のまま、魔力を混ぜて調合してみたところ、ただの失敗作が出来上がる。
ただそれでも諦めずに朝までやり通した結果、最後にはこれまで自作したなかでもっとも光り輝く一本を作り上げることができていた。