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歌う工房  作者: リコヤ
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ここは異世界、となりにドラゴン-4

 ぐぎゅー、とおなかがなった。空を見あげれば太陽は真上だ。わたしの腹時計はお昼にかぎり正確なのである。

「お昼にしよう、グラさん、キーア=ネイン」

 水とくだものしかなくても、日に三度の食事はたいせつだ。グラさんはあんまり食べないけれど、わたしにつきあってくれている。

「くだもの、たりるかなぁ」

 残りを思い出しながら言ったら、キーア=ネインがニヤッと笑った。

「それはデザートにしよう」

 かたわらに置いた大きな荷物をぽんぽんと叩き、

「グライエンに頼まれていたから、ひいきの店の料理を持ってきているんだ。携帯食ではあるけどね。あんたの口にあうといいんだけど。あぁそれより量が心配だな、リツはまだ成長期だろう? 食べ盛りにはちょっとたりないかもしれないねぇ」

「ホント!? 初・料理! うれしい!」

 身をのりだしてガッツポーズしてしまう。少なかろうが携帯食だろうが、調理されたものってだけでじゅうぶんだ。

「ここで食事でかまわないだろう? 火をいれているから、人数分の食器を取ってきて。平皿とカップ、それからフォークを頼むよ」

「はーい!」


 わたしはいきおいよく立ちあがり、部屋に走った。食器棚から皿を取りだそうとして、ふと手がとまる。

 人数分の食器? グラさんの分もか? じゃあ三人分か。

「あ」

 てことはもしかしてついに、グラさんの人型を拝めるのか!? あっ変身するところ見たい!

 大急ぎでお盆に食器をかき集め、猛ダッシュで入り口広場に戻る。全部木製だから軽くてはこびやすいのだ。


 途中から香ばしい匂いが流れてきた。これは!

「お肉だー! あぁあいい匂いー!」

 もうだいぶ長いこと水とくだものだけだったから、ハイテンションになるのは大目に見てほしい。菜食主義でもないので、地味につらかったのだ。

 グラさんは食用にできる獣を狩ってくるかと言ってくれたけど、わたしはそれをさばけない。グラさんもさばけない。ついでに調理器具もないから調理もできない。だからあきらめるしかなかった。


 歓声をあげながら広場に戻ったわたしをふりかえったのは、キーア=ネインと見知らぬ男の人だった。誰だ?

「あれ、お客さん? グラさんはどこ行ったの」

 きょろきょろ見まわしながら言ったら、男の人が眉をひそめた。

「目の前にいるが」

「は? ――――て、えぇ!?」

 お盆を取り落としそうになった。

 目の前にいるのは三十代前半くらいのヒトだ。ガタイがよくて、身長は二メートルくらいかな。黒髪にするどい金の瞳。衣装はわたしが借りているのとよく似ている。

「グラさん!?」

「人型になれると言っただろう」

「そら言ってたけど!」

 よく聞けば声が同じか。


 わたしはじっくりと男の人を見つめた。うーん……金の目はまちがいなくグラさんだと感じるな。でも角もしっぽもない。見せてもらったけど爪が尖ったりもしていない。このようすだと牙もないな。

「ドラゴンの要素がどこにもない……想像してたんと違う……」

 ただのでかい男性である。正直がっかりだ。

「人型に変身してなぜドラゴンの要素を残す必要がある。不便なだけだろう」

「だってさ、グラさん服嫌いだって言うし、したらそういう動作が苦手そうな、ドラゴン要素がけっこう残ってるの想像するだろ」

 こんな感じ、とわたしは手ごろな石を拾い、地面に簡単な絵を書いた。二本足で立つドラゴンっぽいものだ。いつも借りている服も着せてみた。

 それを見たグラさんは、あきれたようなため息をついた。

「……これを指して人型とは言わないだろう」

「あっはっは! うまいじゃないかリツ! でもこの姿だったら服が嫌いでもなっとくするよ。どう考えても着づらいだろうからねぇ」


「そういやなんで服嫌いなの」

「着るのがめんどくさい」

 下着にシャツ・ズボン、上着、そして靴とあれこれあるのがイヤだと。ものぐさのグラさんらしい言い分だ。それでも布地自体は好きだそうだ。嫌いだと言うわりにタンスに服がいっぱいあったのは、だからか。

「それだけじゃないだろう? グライエン。紐でも帯でもむすぶのが苦手だろうに。なんだい、見栄でもはってるのかい?」

「ほー? グラさんぶきっちょなのか」

「……こまかい作業は苦手だし嫌いだ」

「いや服の帯なんてこまかかないと思うけど。練習してもだめだった?」

「これが限界だ」

 ふんっとそっぽをむく。

 練習はしたんだね。したけど今着ている太めでやわらかい生地の帯しか結えなかったと。それもちょっとゆがんでるしな…………そうとうな不器用だな、グラさん。


「ボタンは? あれなら簡単だろ」

「あれは気持ちが悪い。それなら帯をむすぶほうがはるかにマシだ」

 めちゃくちゃ顔をしかめて、吐き捨てるように言う。単品で見るのは悪くないと思うし(もしかして工芸品好き?)、他人の服についているのも気にならない。だけど自分が着るものについていると、とたんに気持ち悪く感じるのだそうだ。そうか、そんな感覚もあるか。

「そんなに服嫌いなのに、なんで急に変身したの」

 今までいくら頼んでもことわってきていたのに。

「食事にするんだろう。ドラゴンのままでは味つけされた料理は気持ち悪い」

「へぇ。味覚が変わるんだ」

 そういやペット用のごはんって味が薄いって聞いたことあるな。それと同じか。


「さぁ準備ができたよ、お二人さん! 食べようじゃないか。リツの腹の虫もそろそろなだめてやらないとね」

 キーア=ネインは布(風呂敷っぽい)を広げ、そこに料理の皿を並べていた。燻製肉の薄切り、豆、それからパン。それから携帯型のコンロのようなものでお湯を沸かし、お茶を淹れてくれていた。おぉ、お茶!

「おいしそう!」

 気持ちとしては正座したいところだけど、地面が固いのであぐらですわる。

「いただきまっす!」


 真っ先に肉に手をだした。体が油を欲している。

 うん……おいしい。世界が違って、食材の正体はまったく未知であるが、おいしい。

 燻製肉は香りがよくて、かなり歯ごたえがある。なかなか飲みこめない。ナッツは甘味があって、ちょっと塩もふってある。見た目よりやわらかいから、次々口にほうりこんでしまう。パンは全粒粉で、酸味があるやつだ。これはわたしが好きなやつだ。お茶は……なんだろうな、ハーブティーっていうのか……くせの強い香りがする。

 しばらく黙々と味わって食べる。


「リツ、こっちのソースもためしてごらん。肉につけるんだ。味が変わるよ」

「うん。あ、それならパンにお肉はさんでいい?」

「もちろん。あぁ、パンを少しあぶろうか。ちょっと待ってな」

「はーい」

 携帯コンロの火を強めて、ささっとあぶってくれる。

「おぉいい香りー! おいしーい!」


 焦がれていた文明的な食事でもあるせいか。手がとまらない。

「よく食べるねぇ。わたしの分もわけてあげよう。なに遠慮はいらないよ! いやしかし、口にあってよかった。リツは好き嫌いはないのかい?」

 笑いながらキーア=ネインがわたしのお皿に料理をわけてくれる。

「ありがとう! ん~好き嫌いなぁ」

 パンをひと口。固めだからよく噛まなくてはならない。

「チーズ乗っけて焼いたやつはだいたい好き。グラタンとかドリアとか。チーズそのものは出されたら食べるくらいなんだけど。それから白米に佃煮とかね! まぁ、なんでも食べるよ」

 嫌いだから絶対にパス、というのはない。

「そりゃあいいことだ」

 米はある、そうだ。それを主食にしている地域はここからは遠いという。同じか似て非なるかは今後のお楽しみだ。

 もりもり食べていたらグラさんも料理をわけてくれて、けっきょくほぼ二人前をたいらげた。満腹!


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