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歌う工房  作者: リコヤ
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ここは異世界、となりにドラゴン-2

 数日がたった。グラさんの言っていたとおり、体力も筋力も完全に回復していた。ひと月、半年かかったっておかしくないのに。

「魔法を使ったからな」

 と種明かしされた。魔法……異世界ならではだ。


 回復していくとはつまり余裕ができるってことで、わたしはグラさんにあれこれ質問した。

 色とりどりの小さな光。これはエーテルという力で、色が違うのは属性なんだそうだ。

 使わせてもらっているベッドやテーブルなんかの家具、食事のときに使っている食器類。これはグラさんのヒトの友人たちが寝泊りするとき用のもので、その人たちが勝手に持ちこんだのだそうだ。彼は『勝手に』と強調してたけど、いやがっていたら手入れなんてしないだろう。ドラゴンのグラさんが絶対に使わないものなんだから。


「いや、友人が来たときは使う」

「どうやって? サイズおかしいだろう」

「ヒトの姿に変化する」

「は!? グラさん変身するんか!?」

 どんな姿になるんだ? どこまでドラゴン成分が残る姿なんだろう。見たい、と頼んだのだけどことわられた。


「変身って手間なのか」

「それはない。服が嫌いなんだ」

 服が嫌い……犬猫がむりやり服着せられてる、あの感じか? てことは、けっこうドラゴン成分多めの姿なのかもしれん。二足歩行の恐竜みたいな……たしかに服は着づらいだろうなぁ。

 想像をたくましくしていたら、グラさんは不愉快そうに目をほそめた。

「……なにか妙な想像をしてないか? おまえが着ている服は俺の服だぞ」

「あ、そうなのか」


 わたしの身長は一六五センチで、まぁ普通の体格だ。借りている服は性別は問わなさそうなデザインなのだが、全体的にサイズがあわなくて、裾をたくしあげたりベルトをきつめにしたり、袖をまくったりして着ている。ということは、グラさんが人型になるとけっこう大きいようだ。二メートルいくのかも。

「いろいろ着ちゃってるけどいいの」

「かまわん」

 タンスにある服は、布地色は暗めだけど明るい色の糸で模様が刺繍されている。すてきだねぇとつぶやいたら「いいだろう」と自慢げに返ってきたので、グラさんはきれいなものが好きなんだと思う。


 ちなみに下着(ぱんつ)はなんとフンドシのようなものをよこされた。手ざわりはいいけどドはでな布でできたそれは、なんだか勝負ぱんつの風格があった。きっちりとラッピングされたままの箱に入っていて、未使用だから安心しろと力強く言われたので、身につけていたものと交互に使っている。着用方法は箱の中にイラスト付きの説明書があった。とうぜん男性用だったので、アレンジは必要だったが。


 閑話休題。


 グラさんは日なたぼっこが好きらしい。わたしがあるていど動きまわれるようになってからというもの、日が出ているうちはたいてい洞窟の入り口に寝そべっている。

 ところがきょうは、体を起こしてどこかを見つめている。

「どしたの、グラさん?」

「友が来たようだ」

 いつだか連絡したっていう、エルフのお友達か。


 グラさんと同じ方向を見ていると、やがて曲がり角から巨大な荷物を背負った人が姿をみせた。そこそこ急な坂なのに荷物の大きさを感じさせない軽快な足取りで、さくさくとあがってくる。

 グラさんの姿を見たのか、軽く手をあげた。


 その人は広場に到着すると荷物をどさりと地面に置いて、

「久しぶりだね、グライエン。あんたから連絡が来ておどろいたよ! どういう風の吹きまわしさ? 料理とか服とかあんたらしくもない単語ばっかりで、どこかで幻覚の魔法にかかったんじゃないかって調べたくらいだ。ところがそんな痕跡はない。夢でもない。本当にあんたが服を依頼してきたのかって、現実とは思えなかったよ」

 えらいしゃべった。

 わたしもグラさんも口数はあっても長々とはしゃべらないので、とても新鮮だ。


「それで、さぁ理由を教えてもらおうか? むこう数十年の話のネタになるくらい、ただならないわけがあるんだろう? それだけを楽しみに遠路はるばる荷物を持ってきたんだからね」

「話のネタは困るが。ヒトの子供を拾った」

「はあっ?」


 グラさんがちょっと動いて、わたしは前に押し出された。急だったからおどろきつつ、ぺこりとあいさつする。

「どうも、こんにちは。小峰律……じゃない、リツ・コミネです」

「えぇえ? え、ヒューノス? いや……でもこれは。えぇ?」

 きれいな緑色の目をみひらいてまじまじとわたしを見るエルフ女性は、思いっきり混乱している。

「服と料理はこいつ用だ」

 混乱に追い打ちをかけるように説明をくわえているけど、はしょりすぎだと思う。っていうかもしかしてグラさん、事情をいっさい説明しないで呼びよせたのか?


「……リツ。こいつはキーア=ネイン。俺の友人だ」

「キーア=ネインさん? ネインさん?」

「あ……あぁ、キーア=ネインと呼んで。呼び捨てでいいから。本来もっと長い名前を呼び名用にちぢめているだけだからね。敬語もいいよ。遠慮はいらない。わたしもリツって呼ばせてもらうよ」

 切り替えが早いのか、キーア=ネインはにかっと笑って手をさしだしてくれた。

「じゃあキーア=ネイン、どうぞよろしく」


 わたしのエルフのイメージって一辺倒だったんだなぁ、と握手しながら彼女を見て思った。長い耳に長身という特徴はそのとおりだが、がっしりした体格をしている。線の細さなんてどこにもない。それにファッションもロック系だ。輝く金髪は編み込みでまとめているが、両サイドに剃り込みがはいっている。

 かっこいい。


「さてグライエン! すべて説明してもらおうか? いったいぜんたいなにがあったのか、どういうことなのか洗いざらいね。あんたが子供を、ヒトを拾うだなんて誰も夢にも思わないよ」

 定位置なのか、彼女はグラさんの前に無造作にすわった。わたしも手招きされて、となりにすわるようにうながされた。


 グラさん、どう説明するんだろう。異世界人だって言うのかな。わたし自身は、出会ったときのことはあやふやにしかおぼえていないから話せないし。なにしろ死にかけていたのだ。


 グラさんはしばらく考えて、おもむろに言った。

「リツは『渡り星』だ。ここより東の、乾いた平原で見つけた」

「なっ!?」

 ぐりんっとすごいいきおいでキーア=ネインがこっちをふりむいた。

「じゃあ、じゃあ……リツは異世界の人間!? と――いうことは、ウト・エワイだね、半年前か! あぁ確かに、めったに見ない規模の流星雨だった」

 そうかそうか、とうなずいている。


 たった一言でわたしの出身と、グラさんがわたしを見つけた日を特定した。なんだ、渡り星って。ウト・エワイって。

 きょとんとしているとキーア=ネインが説明してくれた。


 いわく、ウト・エワイとは数十年に一度おきる、エーテルの循環が多くなる日のこと。別名を『星の深呼吸』という。

 この日はいろんなものが世界を渡り、そのようすは流星雨現象として昼日中から観測できる。それが起こる原因は不明だが、世界と世界の境目が薄くなるからではと推測されている。渡ってくるものはたいていはエーテルみたいな形のないエネルギーだけど、たまに物質……水や岩石や植物もある。

 そうやってこの世界にやって来たものを『渡り星』と呼ぶ。


「でも異世界の物だからか、物質として存在している時間は短いって聞く。生き物は……わたしは聞いたことがないね。まして生きている人間なんてさ」

「短いって……え、グラさん。わたしこの先短いの!?」

 せっかく死にかけから回復したのに。

「いや。おまえはもう違う。なにごともなければそうとう長く生きるだろう」

「は? え、なんでさ?」

「俺がおまえを助けたからだ」

 とうぜん、みたいな調子で言われても意味がわからない。ドラゴンに助けられたら寿命が急激に伸びるのか? ドラゴンの魔法ってそういう追加効果があるのか?


 横でキーア=ネインが頭をかかえた。その姿勢のまま、彼女はうめくように言った。

「この子が妙な気配をしていると思ったら、そういうこと……! グライエンあんた、同意を得ているんだろうね、もちろん? この子がまったく理解していないのはどういうことさ。どういう状況だったんだい?」

「見つけたとき、こいつは死にかけていた。俺は生きたいかと問い、リツは是と答えた。だが治癒魔法だけでは『渡り星』であるリツはもちそうになかった。だから俺の血と魔力を与えた」

 輸血みたいなものだろうか。

「おまえは今純粋なヒト……ヒューノスではない。半分は竜人ドラゴニオスだ」

 ドラ……なんだって?


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