錬金術科の一年生-2
入学式の翌日から授業がはじまった。科目の数が多くて目がまわりそうだが、なんとかついていけそうだ。むろん今のところは、の話だが。
そんななか、しょっぱなからつまづいた課題があった。魔術学での魔力コントロールである。
正式名称を『錬金術における魔術学』という。錬金術でのものづくりに魔術は不要だが、魔術要素はある。魔術用の文字や模様、魔法陣、そして魔力だ。魔力をとおさないと加工ができない素材、使えない道具がある。
魔力コントロールなら親父どのやキーア=ネインに教わっていたからだいじょうぶだろう、と思ったのだが。
「……アンネール、バルフォア。不合格」
きょうもルカレリ先生の声が耳に冷たい。
この課題にはコントロール練習用に作られた特製の道具を使う。懐中電灯のような形で、魔力をこめると先端の石が光るのだ。こめる魔力量によって、赤・黄・緑・青・紫・白と光の色が変わる。少しずつ魔力をこめて順に光らせていったり、同じ色を光らせ続けたりするのだ。
……どうしても、最大量こめた色――白にしかできない。その手前の紫にすらできない。
「うぅ、ちょっとしか流してないつもりなのに……」
魔力を意識的にコントロールして使う、なんてことは日常生活には登場しない。学園に入学して初めてやった、というほうがほとんどだ。だからこの課題を一回で終わらせたのは一人もいないが、回数をかさねるにつれクリアしていく人数はふえていった。
そんななか、わたしともう一人、マティアス・バルフォアだけが合格できないでいる。二人とも魔力のコントロールがへたくそなのである。
自分の魔法を作ってたときに、それなりにコントロールできるようになった気でいたが、まだまださじ加減はガバガバだったようだ。
「なんで色が変わってしまうんだ……」
眉間にくっきりとしわをよせて、バルフォアは道具の光をにらんでいる。彼の場合、とめるべき段階の色をとおりこしてしまうらしい。
「何度も言うが、とくに水晶の粉砕で必要な技術だ。水晶が重要な素材であるのは理解しているな? これができねば基礎品目を作れない。つまり錬金術師になれないも同義だ」
なんのためにマリアースに来たんだかわからなくなってしまう。シャレにならん。
「アンネールとバルフォア、二人とも、しばらくは魔力コントロールの習練に集中しなさい」
「うへぇ……そーだよなぁ……」
「……それは……」
「案ずるな、なにも自己鍛錬で解決しろなどとは言わない。魔術科のサムウェル先生にみてもらえるよう頼んであるから、放課後に彼女の研究室をたずねなさい」
居残り訓練が決定した。
――そんなわけで放課後、バルフォアとともに魔術科の棟までやってきた。学科が違うと制服も違うため、えらくめだつ。魔術科の生徒たちにじろじろ見られながら探した研究室は、二階にあった。
サムウェル先生は、にこにこと歓迎してくれた。
「ええ、話は聞いていますよ。アンネールさん、バルフォアさん。よくあることですからね」
「よくあるんですか」
「だって魔力のコントロールなんて、普段の生活ではしないでしょう? つまづいてとうぜんですよ」
「……お手数をおかけします」
「バルフォアさん、よくあることだと言ったでしょう? 気にせず講義を受けてくださいね。では鍛錬場に移動しましょうか」
鍛錬場とは言葉どおり武術や魔術の実践をする場所で、なにかあっても被害がひろがらないようにできているのだそうだ。錬金術科では利用しないからなのか、入学式の日の校内ツアーでは来なかったな。
ついてみると、ぱっと見は普通の、高い壁で囲まれただだっ広い運動場だった。が、壁や柱に魔術文字が書かれていて、壁の補強がされ、結界ができているのが見えた。結界は上空にものびている。天井はないようだ。
自主練にはげむ生徒(上級生らしい)や監督しているらしい職員が何人もいて、にぎわっている。
そんなにぎわう鍛錬場のすみっこで、特訓がはじまった。まずは状況の確認ということで、課題用道具に魔力をこめてみせる。
先生はなるほど、うなずき、
「コントロールの問題といっても、それぞれ違いますね。まず、バルフォアさんは流した魔力をとめきれていないことが原因です。そのせいで必要量よりも多く魔力が流れてしまうのです」
「それは……自覚はあります。流すのをとめたつもりが、とまるまで時間がかかる……」
「水道のコックをきつくしめるイメージをもってください。きつすぎる、くらいでいいでしょう」
「はい」
そして、と先生はこちらを見ると、苦笑いをうかべた。
「アンネールさんはとにかく量の調整。流す、とめるの操作はそれなりにうまくいっていますが、ひと呼吸で多量の魔力が流れています。魔力の量を把握できていないのですね」
「自分ではちょこっとのつもりなんだがなー……」
というわけで、二つの鍛錬がわたしたちに提示された。
まず一つめが瞑想。自分の魔力をしっかりと感じとるのが目的だ。感度が高くなれば、的確なコントロールにつながる。
次に、とサムウェル先生が呪文を唱えながらひょいひょいっと杖をふるうと、空間がゆがんでポン、となにかが二つ出てきた。なんだろう?
「アンネールさん。これに先ほどと同じように魔力を流してみてください。両手で持って、中に水を満たすイメージを浮かべるのです」
渡されたのはみそ汁椀みたいな、木製のお椀だ。びっしりと魔術文字や模様が書かれているから、魔道具なのだろう。両手でささげるように持って、言われたように水を入れるイメージをしながら魔力を流す。すると文字や模様が反応し、
「うぉわーー!?」
ずもももも……とお椀から白い泡のようなものがあふれかえった。あっというまに足もとがうまる。水じゃないんかい!
「え? え? なんこれ!?」
濡れた感じがないから、雲かもしれん。いや雲は水蒸気のかたまりだから濡れるか。
「アンネールさん、魔力をとめて」
「っ、はい!」
流すのをとめると、雲(もくもくしているからそう呼ぶ)があふれるのもとまった。
「……魔力に反応して雲が出る魔道具……?」
「えぇバルフォアさん、そのとおりです。この魔道具を使って魔力のコントロールを練習しましょう」
「あー、目に見えるからわかりやすい……って、雲はこれいつ消えるんです?」
雲は半径一メートルちょっとくらいの範囲にひろがっている。まったくさわれないから幻のようだが、みょうに現実味もある。
「……魔力を流さなければすぐに消えるものなのですが……あなたの魔力は密度も高いようですね」
「はぁ」
よくわからん。
「たとえば、こぶし大の水晶を砕くならば、魔力はそのお椀に半分もいりません」
これぐらいです、と見本をしめしてくれた。
「少なっ!? え、これっぽち?」
「えぇ。あなたが体得すべきは、このさじ加減。このようすだと、かなりむずかしいようですが」
はなしているあいだにようやく雲が消えてきた。
「では次、バルフォアさん。やってごらんなさい」
「はい」
魔力を流すと雲がわく。それは同じなのだが、いきおいよくあふれてはこない。
「とめてください」
「はい」
彼が返事をしてから、ももも……とわく雲の動きがとまるまでややタイムラグがあった。とめたつもりが……ってのが視覚的にわかりやすい。
「……そうか……」
バルフォアはなっとくしたようにうなずいた。
ちなみに彼の雲はすぐに消えた。本来はこういうものらしい。
「おぼえられるまでその魔道具は貸し出します。危険もありませんから、ここでなくとも使用を許可しましょう。質問があったらいつでも訪ねてきてくださいね」
「はい、ありがとうございました!」
わたしとバルフォアはそろって頭をさげた。
練習内容がすごくわかりやすい。練習するのに寮の自室でもよし、というのもうれしい。
ぃよし! やるぜ自主練!




