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その日から僕は、彼女とのデートのために努めた。
諦めるためのものとはいえ、今ある自分の魅力を最大限彼女に伝えたいと思ったからだった。
当日は思ったよりも早く来た。
「はじめくん、話聞いたよ。こんなこと言うのも変な気がするけれど、なんだか不思議な気持ち。はじめくん、私の事好きだったんだ。」
「うん、ごめんね。」
「むしろ私のほうこそごめんね。」
「別に、謝ることはなんかないよ。」
「私が、美人すぎたから。」
「え?」
「うん、私が美人過ぎてごめん。」
「いや、うん、いいよ。」
「ありがとう。ところで今日はどこへ行くつもりなの。」
「今日はね、映画を見に行こうと思うんだ。あのホラー映画。木島さんが前に言ってたやつ。」
「え!うれしい!それすごく見てみたかったの!」
「よかった、じゃあ乗って。」
そういって彼女を車に乗せた。
「木島さんは、どうして佐々木さんと付き合っているの?」
「うーん、なんでだろう、彼、やさしいからかな。」
「やさしいからか。確かにやさしい人だよね。それにイケメンだし。」
「そうだよね、やっぱり誰が見てもイケメンだよね。」
「木島さん、もしかして面食い?」
「そうかも。でも結局外見は内面とつながっているもの。」
「確かにそうだね。前にも、頑張る人はみんな美人だって言っていたもんね。」
たわいもない会話をしているうちに映画館についた。
上映時間まで少々時間があったため、昼食を取った。
フードコートの2人席には男女のペア、いわばカップルが多く、自分らもまさしくその通りで一人で浮かれてしまっていた。
映画は、怖かった。
しかし、僕は正直、映画よりも彼女の方が気になった。
「よかったね、面白かった。」
「そうね、あのシーンびっくりしたよね、車が衝突するシーン。」
「確かに。最後のナイフのシーンってよくわからなかったよね。」
「あれね。なんだかあそこだけおかしかったよね。」
軽く映画の感想を言い合ったあとは、帰宅するために車に乗った。
車内での会話は、ただ楽しかった。
その分、あと数時間で彼女とお別れするのは嫌だった。
いやだなぁ。諦めたくないなぁ。と悪い癖が出てしまった。僕は諦めが悪い性格なのだ。
そんなことを考えながら運転をしているものだから、会話は少なかった。
お互い会話がなくなることの気まずさを感じてるのだろうと予想はできても、結局は、僕は彼女と結ばれることはないのだということが頭から離れず悲しい気持ちになった。
でも、やっぱりここでしっかりと告白をすればよいのではないか。今、もし今勇気を振り絞って「好きだ」と言えたなら、彼女は僕の方に寝返ったりしないだろうか。
「はじめくん」
彼女が気を利かせて話しかけてくれたのだろうか。声はかろうじで聞き取れた。しかし僕には反応をする余裕はなかった。言うか言わぬかを考えすぎて他の言葉を聞き理解する余裕などなかったためである。
しかし、ダメなものはダメだ。悩んで悩み尽くした末に成功する事例は少ない。
余裕を持って、安全圏で勝負することが鉄則なのではないかと思い直した。
不注意だった。
気がつくと車は大きく左側に飛び出し、壁に衝突してしまった。
僕は事故を起こしてしまったのだった。