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前回の続きです。
「あ、そうだ。海のこと、佐々木先輩に聞いたよ。俺も行きたいって言ってた。」
「あ、ほんと?良かった。佐々木さんも一緒なんだね。」
「うん、私は大丈夫って言ったんだけどね、先輩が心配らしくて。むしろはじめ君は大丈夫?初対面の人と遊びに行くの気まずくない?」
「いやいや、ぜひ行こうよ。佐々木さんにも会ってみたいからね。」
「やった、私たちちょうど今週末はどこかへ行こうって話してたの。はじめくんが良ければ、その日に一緒にどうかな?」
「もちろんいくよ。」
2人ではないことはある程度しかたがないとしても、同行するのが佐々木さんなのは緊張を伴った。
佐々木さんとは、あの日にバスでとなりの席に座っていたあの佐々木さんで間違いない。佐々木さんは僕のことを覚えているだろうか。正直あまり気が進まなかった。しかし、この誘いを断れば佐々木さんが居るから行かないといっているようなものだ。それに自分から遊びに誘ったこともあり、断るとなんだか角が立ちそうで困った。
当日はよく晴れた。
僕は集合時間よりも30分近く早くに到着した。
本屋で時間をつぶしていると、2人が到着した。
話しかけたのは僕からだった。
「木島さん。」と控えめに声をかけると彼女は遠くから僕に気づき手を振った。
「お待たせ、長田くん着くの早いね。」
「たまたまね。」
「はじめまして。君が長田くんか。普段から咲良と仲良くしてくれてありがとね。あれ、どこかで会ったことがあるような。気のせいかな。」
彼は相変わらずのイケメンだった。このカップルはお互い顔がよく、正直お似合いだと感じてしまった。きっと持って生まれたものが違うのだ。そのように考えることにした。
海はとても綺麗だった。
大変に暑かったがそんなことは気にならないくらい楽しかったのだ。
明日には火傷のように赤くなっているんだろうと思うと背中が痛かった。
しばらくすると木島が「ちょっと御手洗」といって、席を外した。
そのため一時的に佐々木と2人になってしまった。
バスで話したことがあったとはいえ、少々気まずさを感じた。
まず、彼は僕のことをどう思っているんだろうか。
あまりよく思っていなかったらいやだと思う。
良いのか悪いのか彼は僕のことを覚えていない様子だったことが救いである。
なんでもよいから会話をしなければいけないと思った。
「佐々木さん、なにかスポーツでもしてましたか?」
「ん?スポーツ?高校までは野球やってたよ。」
「野球ですか。道理で体つきが良いと言いますか。」
「そうかい。ええとね。なんと言ったらいいんだろう。」
「はい。」
「…」
「…」
「君、いや、君なんて失礼か。はじめくん。」
「え、はい。」
「はじめくんは、咲良のことをどう思っているんだい?ずっと聞きたかったんだよ。」
会話の流れとしては到底おかしな流れだったため一瞬戸惑った。
しかし佐々木はハッキリと聞いてきた。どうしよう。まさかこんなこと聞かれるとは思っていなかったため驚いた。しかし、アタフタしてはいけない。あくまで冷静を装わなければならないのだ。その上で、いっその事彼女の事が好きだと言ってしまおうか。そしたらどうなる。でも咲良は俺のだからと言わんばかりの風貌を纏っている。それはすなわち僕の負けを意味する。とどのつまり、僕は、僕と彼との勝負に負けを宣告されることが嫌なのだ。しかし、ここで諦めて本当に良いのだろうか。行動を起こしてこそ善。当たって砕けた方が美しい。と自分に言い聞かせた。
「はい。好きでした。でも、最近まで佐々木さんと木島さんがお付き合いしているなんて知らなかったんです。」
「わかる。咲良、いいよね。美人だし、優しいしさ。はじめくんが咲良に惚れる理由はよく分かるよ。でも、本当にごめんね。俺は咲良を諦めることはできないよ。どうか、はじめくんが諦めてくれないかい?」
「はい、もう諦めましたよ。なんだかんだ親しくしてくれていたので残念です。」
「ごめんね、はじめくん。」
この返事には驚いた。
こんなに丁寧な言葉で返されるとは思っていなかったからだ。
「咲良は俺の女だから。」とか、「調子に乗るなガキ」くらいに言われてしまうかと思っていたため驚いた。
しかし、本当はここであきらめたくない。
ここは信念を曲げてはならないとこの直感が言っている。
何か行動をこの場で起こさなければならない。ここで負けを認めてはいけない。と切実に思ってしまったのだ。
佐々木は変な間合いに気まずさを感じたのか背を向けてジュースを買いに行こうとした。
僕は彼を呼び止めて、こう言った。
「佐々木さん。僕は木島さんが好きなんです。簡単には諦められません。だからせめて、彼女と1日だけでも、1日だけでもデートさせてもらえませんでしょうか。それで、それできっぱりと諦めますから。」
佐々木は一瞬戸惑ったような表情をした。
しかしすぐにいつもの穏やかな表情に戻り
「わかったよ。楽しんできてね。」
と言った。
次回から様子がおかしくなります。
どうぞよろしく。