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はじめまして
授業が終わって家に帰るところだった。
学校から最寄り駅には少々距離があるため、スクールバスを使うことが多かった、今日も例外ではなくそうだ。しかし、今日に限っては乗り合わせた学生が悪かった。最後列に座っている学生グループのマナーが大変に悪かったためだ。
飲食禁止のバス内で気にせず飲食をはじめ、大きな声で談笑をしている。それだけでは飽き足らず喫煙を始めた。僕は腹が立った。多くの学生が静かに座っている中、あのような行為をする学生たちが気に入らなかったからだ。マナーしらずの人は見ているだけでも不愉快だし、何よりバスの中は静かにするべきだ。
「あの、君たちさ。」
「なに、なんか用?」
「うん、君たちうるさいよ。マナー悪すぎ。もう大学生だろ、周りのことも考えなよ。」
「うざ」
そう言ってまた騒ぎ始めた。
イライラして彼らにもう一度何かを言ってやろうと考えていると
「君、ちょっと待ちなよ。」と隣の席に座っていた男に声をかけられた。
「ええと、僕ですか。」
「君さ、またあの子たちに何か言おうとしてるでしょ。意味ないよ。聞く耳持ってないってあの子たち。」
「ええ。そうですね、でもこのまま見逃せっていうんですか。仮にもこの学校って警察官になりたい人たちが集まる学校ですよね?あんな子たちが将来警察官になれるとは思えません。それに、我々だってそうでしょう?諸悪の根源は摘んでおくべきですよ。」
「そうかぁ、じゃあ彼らになんて言うの?」
「うるさいよ。って。」
「そのあとは?」
「そのあと、ですか。」
「そのあと、彼らは騒ぐのをやめるのかい?まぁやめないだろうね。それに君は実際さっき一度注意してるじゃないか。それであの調子じゃもう一回言ったところであんまり効果は見込めないと俺は思うけどなぁ。」
「それじゃあ、どうしろって言うんですか。我慢しろということですか。」
「まぁ、見てなって。」
すると男は立ち上がり、彼らのほうを向いて、すこし皮肉を交えた笑みを浮かべた後、これでもかというくらいの姿勢の良さで再度着席した。
すさまじい品の良さだった。また、彼の顔の良さがそれに拍車をかけていた。
最後列に座っていた学生グループは、彼の気品の良さに圧倒されたのか、もしくは皮肉に笑われたことに気を悪くしたのか、飲食や喫煙、会話をやめた。
彼は、言葉にすることなく、その行動でもって彼らを制したのだ。
「ふぅ、上手くいった。やっぱり先輩だからね、大人らしくスマートに解決しなきゃね。内心ドキドキだったけどさ。」
「すごいですね、あんな方法があったなんて、到底僕には思いつかない方法でした。」
「まぁ、これでも正義のお巡りさんの卵だからね。でも、さっき君が言っていたけど。きっと彼らも警察を目指している人たちなんだよね。うちの学校の格が落ちるからやめてくれないかなぁ。それにしても君はとっても勇敢なんだね。先輩感動しちゃった。」
「え、ああ、ありがとうございます。」
「俺、佐々木。2年生、君は?」
「長田です。1年生です。」
「よろしくね。」
「あの、佐々木さんはどうして警察官を目指すんですか。」
「ん-、忘れた。かっこいいからだったかな。」
「かっこいい、ですか。そうですね。かっこいいと思います。」
「だろ。」
バスが駅に到着しその日は彼と別れた。
僕は本気で彼をかっこいいと思った。
よろしくお願いします