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第八話 復讐鬼

 私は自分がリーダーに向いているとは思えなかった。


 小中高と学級委員長を任され、生徒会にまで勧誘されて来た。教師陣からは信頼されていつも仕事を任せられ、クラスメイト達からも頼られた。


 求めて貰えるのは純粋に嬉しかった。


 今思えばクラスメイトや家族も、みんなが良い人ばかりだったんだと思う。


 お婆ちゃんにも、お母さんたちにも「人に優しくすると貴女に返って来るのよ」と言い聞かされ、育てられてきた。


 自分の考えに間違いは無い、みんな私に付いて来てくれる。


 そう信じ込んいた頃、異世界に飛ばされた。


 最初は混乱した。


 どうしてこんな場所に?なんで?って。


 でも混乱しているのはみんなも同じ。


 なら、私がしっかりしないと。そう思って、声を上げた。


 テレビで見たうろ覚えの知識で、比良君の案を却下して。


 でも前園君たちが森に駆け出して、歯車が狂った。


 後を追おうとした私を、比良君が止めたんだ。


「アイツらは自分の意志で俺達から離れて、森の中に入って行ったんだぞ! それでも助ける気なのか!?」

「そんなの当たり前だよ! みんな一緒じゃないと何の意味も無いよ!」


 私は確かにそう言った。


 だって、そうじゃない。


 この世界に先生や他のクラスメイト達も飛ばされているかだってわからない。


 それなのに別れて行動するなんて、馬鹿らしいよ。


 みんなが無事じゃないと、意味もない。


「っ、そうかよ」


 でも、比良君は私と真反対の意見だった。


「お前、自分が決めた事も貫けないのか? 俺達みんなを危険にさらしてまでやることかよ! クラスの統率を乱しているのはお前じゃないか!」


 私は何も言い返せなかった。


 代わりに空乃が何か言い返してくれていたけど、何も覚えてない。


 気が付くと女子たちはみんな私に付いて来て、男子は何グループかに分断して森に入って行った。


 私は偽善者だ。綺麗事だけ並べて、自分の決定も貫けず、クラスメイト達ともこの非常時に別れてしまった。私は委員長失格だ。


 結局、気を失っている間に千景ちゃん達がどこに行ったかもわからなくなった。


 たまたま出会えた花垣君に助けられて、私は何もしていない。


 でも、花垣君は助けてくれた。


 確かに私はバカみたいな考えを持っていると思う。


 人の善意を信じるなんて、リーダーには向かない資質だと思う。


 それでも人を信じたい。


 クラスメイトを信頼したいんだ。


 花垣君が助けてくれた様に――――。



 

 夜。風呂から上がり、もう寝ようとしていた頃。


 慟哭が轟いた。あの、鬼のものだ。


 けど、それは良かった。良くないけど、良い。


 その場に蹲った真紀ちゃんを励ましている内に、小さな声が聞こえた気がした。


 助けて、って。千景ちゃんの叫びが。


 気が付いた時には駆け出していた。


 後ろから、制止の声が聞こえる。


 けど無視する。ここで走らないと、千景ちゃんが……。


「いやあああああああああっっ! イダイイダイイダイイダイ! やめて、やめてよオオオッ!」


 悲鳴。見えるのは、鬼。


 鬼は鋭い爪で千景ちゃんの柔肌を傷付け、悲鳴を上げさせていた。


 頭に血が昇る。冷静さなんて掻き消えて、怒りだけが沸き上がった。


「千景ちゃんを、解放しろおおおおお!!」


 鬼が嘲る。


 何かが軋む音が響いた。


「ァ」

「えっ?」


 飛び散る鮮血と臓物の破片。


 その飛沫は距離が開いている涼宮の頬にまで飛んだ。


 戦慄。混乱。恐怖。


 数舜遅れて、その肉塊になったものが大山だと気が付き、絶叫する。


(どうして? どうして!? どうしてなのっ!?)


 どうして私は誰も助けられないの!?


 自分に問いかける。


 返答なんて返って来ない。


 あるのはただ、情けない自分の姿。


 鬼がのそりと、暗闇から姿を現した。


 油が沁み込んで汚らしい漆黒の頭髪。獣の毛皮を使ったであろう腰布。盛り上がった筋肉を赤黒い肌。


 恐怖の象徴。


 鬼は雌を見付け、笑った。


 上質な肉だ。遊び飽きた肉を潰せば、その顔は絶望に染まった。


 楽しい。楽しい。楽しい! 


 この雌を味わいたい。弄びたい。喰らいたい!


 そして鬼は雌に手を伸ばす。


 だが、その巨腕が涼宮に届く事は無かった。


 小柄な影が凄まじい速度で眼前に現れたのだ。





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