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第四話 偽善者2

 五人が上がって来たのを確認して、俺は食事を購入する。調理済みの料理ばかりなので少々値が張るが、十分に採算は取れると判断した。


「す、凄いにゃあ! 御馳走にゃあ!」


 朝比奈が大きな瞳を輝かせて、喜びを露わにした。


 他の四人も朝比奈ほどじゃないが目を輝かせている。


 このままだと腹の虫が鳴り、女性の自尊心を傷つけかねないと思ったのでさっさと座る様に促す。


「「「「「「いただきます」」」」」」


 面倒な問答は後だ。


 今はただ、腹を満たすのが先決だ。


 余程腹が減っていたのか、皆が我こそはと水を飲み、飯を食らった。


「ジュースもあるけど、飲みたい奴はいるか?」


 水とお茶はピッチャーで食卓に置いている。ジュースなどは常温で飲んでも美味しく無いので、随時出す事になる。


「飲みたいにゃあ! オレンジジュース!」

「はいよ」


 オレンジジュースを購入する。少し大きめのジョッキで200コイン。どこのファミレスだよ、と法外な値段に腹が立つが、朝比奈の喜ぶ顔を見れば怒りは自然と消えて行った。


「ところで、花垣君。このパジャマって、その……」

「別に花垣の趣味を悪く言うつもりは無いけど」

「彼女に動物パジャマを着て欲しいのかにゃあ?」

「ぐっ、ごほっ……」


 怒涛の口撃。気遣って貰っているのが身に染みて分かり、一気に顔が熱を帯びる。

涼宮が羊、神楽坂が熊、真紀が犬、朝比奈が猫、柊がパンダという具合だ。もこもことした素材も相まって大変可愛らしい。


「しょ、しょうがないだろ。これしか買えなかったんだから」

「買う……? そう言えば、さっきも突然料理を出してたけど……」

「ああ。ここが魔物に襲われないのもこのスキルのおかげなんだ」

「すきる?」


 やはり、ここにいる面々はスキルについては初耳だったらしい。



涼宮遥 人間 女 17歳

レベル1

スキル 統率


神楽坂空乃 人間 女 17歳

レベル2

スキル 【絶対切断】、【神楽一刀流】、【神楽無刀流】、無想


九井真紀 人間 女 17歳

レベル1

スキル 裁縫、料理


朝比奈愛依 人間 女 17歳

レベル1

スキル 【変身(トランスフォーム)】、疾走


柊冬花 人間 女 17歳

レベル1

スキル 無し。



 【世界遊戯】が無ければ俺も見られなかったが、中々にスキル持ちも多い。何よりも神楽坂がレベル2になっている。この一週間で何があったのか知らないが、レベルアップが【世界遊戯】をさらに使い勝手良くするために必要なんだ。何としても聞き出したい。


「俺のスキル、【世界遊戯】はこの世界の見え方を変えてしまうんだ」

「見え方……?」

「そう。簡単に言うとゲームみたいな感じだ。パーティに入ったおかげなのか、今は涼宮達のステータスが見れる様になっている。ほとんどみんながスキルを持っているな」

「スキルを、私達が……」


 皆が驚愕して、自分の掌を見たり、ぐっぱーと握ったり開いたりを繰り返していた。

スキルは使おうとして使わないと使えないらしい。


「このスキルでコインを貯めて土地を買って、家を建てて、こうして食べ物を出しているんだ」

「そんなに貴重なコインで私達を……」

「ありがとう! 薫っち!」


 涼宮が若干潤んだ目でこちらを見て、朝比奈には満面の笑みで感謝された。


 ほとんどガチャで当てた金だとは言えず……。心が痛いからやめて欲しい。


 その後も軽い世間話をしながら食事は進む。


 一時間もしない内に食卓に上げられた料理は平らげられた。


「ふう、美味しかったにゃあ~っ!」

「御馳走様でした、花垣君」

「美味しかったよ、花垣」

「ごちそうさまでした」

「…………」

「楽しんでもらえて良かったよ」


 皆が満足そうにしているのを見て、深く頷いた。


 これで種蒔きは終わった。


「それでみんな。俺は今、君達を一瞬で外に放り捨てる手段を持っているんだ」

「えっ?」


 瞬間、時間が止まった。


 五人は俺が何を言っているのか分からないという表情で固まり、ただ俺の言葉に耳を傾けた。


「この土地には俺とそのパーティメンバーしか侵入できないんだ。ここで俺がパーティから外せば次の瞬間、魔物が徘徊する夜の森に放り出される」

「な、何を言って……」

「ただ俺が持つ手札について説明しているだけだよ。涼宮。俺はいつでもお前達を殺す事が出来る、っていうね」

「「「「っ!」」」」」


 この五人は夜の森を知っている。


 全身が泥と血に塗れて、疲れ切った顔をしてここまでやって来たのが良い証拠だ。


 ならば二度と、そんな地獄に戻りたくないはずだ。それも暖かい風呂に入り、魔物に襲われず、美味しいものを食べられる。そんな天国を味わった後なら、尚更……。


「―――っ。……何が目的、なの……」


 涼宮は何かを言おうとしたが、ハッとした様子で他の四人を横目で見て感情を鎮めた。


「これにサインしろ」

「っ、これって……」



契約書

以下、甲を花垣俺、乙を涼宮遥として記載する。

1,乙らは甲の土地で生活するのならば、以下の内容に従わなければならない。

2,乙らは甲に対して、不利益を働く事を禁ずる。

3,甲は乙らに対して暴力的な行為を禁ずる。

4,乙らは今後、外から来る来訪者をむやみに助け、その手を差し伸べて土地に招き入れる事を禁ずる。

5,如何なる理由があろうとも乙は独自の判断でコミュニティの調和を乱してはならない。あくまでも甲がこのコミュニティの全決定権を握る事を忘れてはならない。

6,ただし甲は乙らの意見を尊重し、同時にコミュニティに対して最も有益な判断をするとここに誓約しなければならない。



 ガチャで当てた契約書だ。双方の合意を現す欄には俺の血の拇印が押されている。後は乙である涼宮が血の拇印を押せば契約は成立する。


「なっ……」


 涼宮だけじゃない、神楽坂達も絶句して契約書の内容を呼んでいた。


 正直、契約書なんて書いた事が無いので分からないが、まあこんな感じだろう。


「先に宣誓しておくが、俺はお前達以外のクラスメイトと会っても、ここに招き入れるつもりは無い。特に男は絶対に、だ」

「そ、そんなの駄目だよ!」


 涼宮が机を強く叩いて、拒絶の意を示した。


 九井はいまだに呆然としていて、柊は成り行きを見守っている。


「委員長、いや、涼宮。お前は人の善意を信じ過ぎている」

「何を言って――――」


 まだ自覚が無い様だ。


 俺は涼宮は間違いなくリーダーに向いている人物だと思っている。


 だが人が善であると疑う事を知らない。そこだけが惜しい。


「災害現場、例えば大規模な地震などが起きた後、何が起きるか知っているか?」

「そんなの、みんなで協力して復興したり、人を助けたり……」

「違う。犯罪だ」

「っ!?」


 少し強い言葉を使うが、仕方が無い。


 今後のためにも、涼宮には人間の現実を見せないといけない。


「実際に災害後はそういった事件が多発するというデータがあるし、何年か前の時もそうだったと聞いているよ」

「そんな、だって、そんな話一度も……」

「ただテレビに流れる情報を見て、みんが頑張っているんだなって思っていただろ?」

「ッ、それは……」


 残念ながらこれが事実だ。


 少なくとも男なんて欲深い生き物だ。


 同じ男である俺が一番よく知っている。


 人格的に手放しで信頼できる神楽坂がいるこの五人以外に信用出来る奴らがいるとはとても思えない。


 それに容姿が優れているこの五人はレイプの恰好の的だ。甘えた考えで他の男を入れる事は絶対にしない。


「特にここは謎の世界だ。元々の世界では通用した法律や人権は通じない。そもそも他に人間がいるのか、文明があるのかすら怪しい。男から人気があった柊なんかは良い的だろうな」

「だって、一緒に勉強していたクラスメイトだよ!? そんな人がいるなんて、考えられないよ!」

「本気でそう考えているなら軽蔑するよ。涼宮」


 少し厳しめに声を低くして、涼宮を戒めた。


 何も言い返せない涼宮は、せめて表情だけでも強張らせる。


「お前は委員長で、その五人のリーダーなんだろ? 何かあってからじゃ遅いんだよ、四人の顔をよく見て考えて見ろ。四人がレイプされている姿を想像しろ。お前の甘い考えがそうさせてしまうんだぞ」


「私は、私は……」


 神楽坂は何も言わない。気付いていたんだ。リーダーとして、委員長としての涼宮の欠陥に。


 涼宮は誰にでも好かれる。誰にでも分け隔てなく接する、とても良い人だ。


 だから人気も高いが、同時に騙されやすい性格と言える。これまでは神楽坂が護ってくれたんだろうが、今後は違う。


 このサバイバル生活では、善意なんて簡単に揺らぐ。善意という虚像の仮面をつけて近付いてくる者もいるだろう。


 そうなった時、非力な柊や九井は何の抵抗も出来ずにやられてしまうんだ。


 ここは前の世界とは違う。


 法律なんて無い。


 ただ「性行為」を無理やりしようとしただけ。


 ただ殺したかっただけ。ただ盗みたかっただけ。


 そういう行為が行われても誰も咎めない。


 そういう世界だ。


「選べ。自分のプライドを折るのか、貫き通すのかを」

「…………ッ」

「遥」「遥っち」「遥さん」


 皆の視線が一身に集まる中、涼宮は隠しきれない汗を流した。




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