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第三話 偽善者1

「花垣、君……?」

「っ、委員長」


 驚愕。


 表情には出さないまでも、内心は穏やかでいられなかった。 


 涼宮遥、神楽坂空乃を初めとして五人の女子がいたが、皆がぼろぼろだった。頬はやつれ、服は泥と血で汚れていた。


 あの神楽坂ですら疲弊を隠せずに、顔色を悪くしていたのだ。


「良かった、無事で……あれっ?」


 涼宮は安心した顔で俺に近付こうとしたが、許可されていない者の侵入を許すわけが無く、【世界遊戯】の制約に従って涼宮は弾かれた。


「俺の家に入るには、パーティに加入しないといけないんだ。大丈夫か?」

「ぱーてぃ? う、うん。大丈夫だと思うよ」

「おっけー」


 認証されて、パーティ登録画面に涼宮達の名前が表示された。全てをタッチして認証。これで五人は俺のパーティメンバーになった。


「よし、入って」

「わっ」

「俺にスキルの影響でここは安全だから安心してくれ」

「すきる?」


 明らかに涼宮は疲れているが、会話は出来ている。逆に他の面々は完全に疲れ果てていて、会話に混ざろうとする気力も無い様だ。精神力の高さは涼宮と神楽坂が抜きん出ているな。


 家に招き入れ、メニュー画面から女子用の部屋着を用意して、代表して涼宮に渡した。


「シャンプーとか石鹸とかは浴槽にあるけど、男用だから勘弁してくれ。スイッチを押せばお湯が溜まる様になっているし、洗濯物は適当に籠の中に投げ込んでおいてくれ」


 そう言って、五人を浴室に送り込んだ。


 何はともあれ身体の汚れを落として貰おう。あのままでいられても部屋が汚れるだけだからな。


 五人を見送った後、俺は食事と寝床の準備を始めた。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「はあぁぁ……っ」

「気持ちいい……」

「極楽だにゃあ……」


 それぞれ身体の汚れを落とし合い、湯に浸かる。まだ身体を洗っている柊以外、四人で身を寄せ合って湯に浸かっていた。この一週間を五人で生活していたせいで、離れられずにいるのは一種の依存なのだろう。


「千景ちゃんたち、無事だと良いね」

「大丈夫だにゃあ。あの怪物は私達が引き付けたし、きっと逃げきれているにゃあ」


 クラスメイトの身を案じる涼宮の呟きに、真っ先に朝比奈愛依が答えた。


 低身長ながらもメロンの様に豊満な胸、小さな頭によく合うショートボブが余計に小動物の様な可愛らしさが出ていた。天真爛漫な性格をしており、男女問わず可愛がられている。


「真紀っち、足は大丈夫にゃ?」

「う、うんっ。ありがとうございます、愛依さん」


 五人の中で比較的地味なのは、九井真紀だろう。今時珍しい眼鏡とおさげの髪型をしていて、いつも教室の隅で本を読んでいる。


 今は逃走中に転び、捻った足を擦りながら苦笑して朝比奈の言葉に返した。


「……」


 四人の輪には加わらず、ゆっくりと身体を歩いている金髪の少女、柊冬花。凹凸が少ないモデルの様な体型で、それを見た朝比奈はおお……、と鼻息を荒くした。


 同性である朝比奈でも見惚れる容姿をしているが、誰の告白も受け入れた事が無いらしく、孤高の存在となっていた。


「花垣君のおかげで助かったね、空乃」

「……うん。本当に」


 ちゃぷん。水面に顔を埋めて、神楽坂は頷いた。


 逃亡中の事について進んで口を開こうとは、誰もしない。


 ただあの「恐怖」を思い出さない様に別の事を話題にしているのだ。


「でもこの家、本当に凄いよね」

「薫っちが建てたのかにゃあ?」

「一週間じゃいくらなんでも時間が足りないな。多分、森にあったのを偶然見つけたんだと思う」

「で、でも、ぱーてぃとうろく?をしたり、何か操作していた様な……」


 四人はうーんと唸って首を傾げていると、柊が浴槽に足を入れた。四人でもきつきつだったが、五人も浴槽に入れば流石にぎゅうぎゅう詰めで肌が触れ合うほど密着していた。


「…………」


 柊は喋らない。だがほうっと息を吐いたのが神楽坂の肩に伝わり、リラックスしているのが分かった。


 過去に何があったにせよ。安心できる場所を見付けたのだ。


 五人は暖かな湯に浸かり、ただ疲れをとるのだった。


 ……。

「これ、薫っちの趣味なのかにゃ?」

「う、うーん……」


 風呂から上がった後、五人は目の前に並んだ少し特殊な、可愛らしい部屋着を前にして、薫の趣味を察して苦笑いを浮かべるのだった。




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