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第二話 【世界遊戯】2

 異世界生活 二日目。


 目覚めると簡単な食事を摂り、土地の外周に沿ってグルっと回った。


「ヒグマよりも大きい、よな……。多分」


 土地の周囲にはいくつかの爪痕が深々と地面に刻まれていた。


 俺は魔物の事をすっかりと忘れていたが、この世界には魔物が存在するらしい。


 しかし【世界遊戯】で購入した土地には他者を拒絶する事が出来る様だ。魔物の侵入を拒み、許可しなければ所有地に足を踏み入れる事も許されない。俺の安眠は護られた。


 そして周回していると一匹の魔物がまるで透明な板に遮られる様にして、侵入を遮られていた。



ゴブリン 危険度E-



 体格は小ぶりで貧弱そうな細腕をしているが、何故か腹だけは肥えて突き出ている。野生の獣の様な鋭い眼光で俺を見付けると、さらに激しく暴れ出した。青汁を思わせる濃緑色の皮膚をしているが、所々に青痣が出来たかの様に紫色に変色している。その外見はまさしく地獄絵に登場する醜い餓鬼だ。


 ゴブリンの名前は漫画やアニメに登場するから知っていたが、実際に目にするとここまで恐ろしい見た目をしているとは思わなかった。


 俺はアイテムボックスから鉄槍を取り出す。さらに網を購入してから投げ付けるとゴブリンの動きを封じた。


『ギィ! ギャギャァ!』


 必死に抵抗しているが、縄は動けば動くほどに絡みついて来る。俺でも解けない程、複雑に。


 俺の土地、その寸前で倒れたゴブリンの胸に目掛けて、鉄槍を突き出した。


 しかし思った様に急所を貫けず、余計に苦しませてしまった。再度突けば、今度は確実にその命を奪い取った。


「……なんか、呆気ないな」


 命を奪った。虫や魚とは違う、四足歩行で歩く生物を、だ。


 そんな経験は俺の生涯を遡っても記憶されていない。


 本来なら「命を奪った」という言葉に怯え、取り乱しても仕方が無いほどだ。


 だが俺は、絶命したゴブリンを前にして、淡々とこの後の事を考えるために脳を働かせていた。


 メニューから買い取りを選択し、ゴブリンの死体が消滅した。代わりに3万コインが入金されていた。


 買い取り相場はゴブリン一匹=3万コイン。


 この異世界での生活はコインの有無が物を言う。


 少し苦労してでも手に入れるに越した事はない。少なくとも雑草をちまちま集めるよりも効率的だ。


「……罠を設置するか」


 今の様に土地の外にいる魔物が俺を攻撃する事は出来ない。


 逆に俺は一方的に攻撃できる立ち位置にいるのだ。勝算しかない戦いに挑まない選択は無い。


 罠を購入する。とりあえず5mの深い落とし穴を三か所、くくり罠を二か所、箱罠を一か所設置した。生い茂った草を生やせば目立たないだろう。これらを設置した100坪を侵入無制限にして、魔物も入れる様にした。


 餌として安い肉を罠の近くに投げて置いた。ここまですでに50万コインが飛んで行った。しかし上手く行けば、一日で元が取れるかもしれない。






 異世界生活三日目。


 昨日、太陽が昇っている最中は魔物が土地に近付いて来る事は無かった。どうやら魔物は夜行性が多いらしい。


 罠が設置された場所はマップで確認出来るが、生い茂った草に足を絡めて転ばない様に注意しなければいけない。マップを開きながらまずは箱罠に近付く。


『グルァ!』


 中に入っていたのは大型犬ほどの大きさで、黒い体毛のコボルトだった。鋭い牙と爪で箱縄をこじ開けようとしているが、頑丈な造りの箱罠はビクともしない。


 鉄槍を突き刺して、その命を奪った。


 買い取り額は10万コイン。中々に高額だ。


 次はくくり縄の方に向かったが、一つ目は外れ。二つ目にはゴブリンが掛かっていた。


 そして落とし穴の中を覗くと、巨大な豚が掛かっていた。



 ワイルドボア 危険度D 



 体長は2m程だろうか。ボアとは猪の事だが、まあ似たようなものか。その巨躯で突進されれば俺など簡単に潰されてしまいそうだが、落とし穴に完全にはハマってしまって、身動きが取れずにいる。


 鉄槍を投擲するがワイルドボアの硬い頭蓋に阻まれて、弾かれる。


 二投目、弾かれた。


 仕方なしに鬼丸国綱を抜く。


 昨日、この紅色の刀を振るってみたが、手首がおかしくなりそうでやめた。


 刀すら振るえない自分には流石に呆れたが、このSランクの刀を何の術の無い自分が持つのは勿体ないと思う。


 例えば神楽坂が握れば鬼に金棒、弁慶に薙刀、虎に翼だ。


 いずれ再会出来たら、この刀をプレゼントするのも良いかもしれない。


 鬼丸国綱はワイルドボアに直接振るうわけでは無い。投げるとも違う、真っ直ぐに刃がワイルドボアに突き刺さる様に手放す。


 そうしてワイルドボアの頭蓋に触れた瞬間、すーーーっ。と、まるで刃が擦り抜けるかの様に突き刺さった。


 瞬間、絶命。鬼丸国綱を回収してからワイルドボアを売ると、30万コインの価値が付いた。

改めて鬼丸国綱、Sランクの武器の力を実感し、素人が使うものじゃないなと無暗に使う事をしないようにしようと決意する。


 二つ目の落とし穴は何も入っておらず、三つ目にはゴブリンが三匹入っていた。群れで行動するのだろうか。とりあえず鉄槍を放り投げて絶命させる。


 一日にして49万コインの稼ぎだ。この方法ならば安全で確実にコインを稼いで行ける。


 再び罠に餌を設置して俺は家に戻った。


 暖かい湯に浸かりながら、ぼうっとメニュー画面を眺めていた。



 所有地周辺に生息する低級の魔物の情報 10万コイン。


 

 高額だが金を払う価値がある情報だ。何かあってからじゃ遅い、近くにいる魔物くらいは知っておきたい。


 購入すると突然、目の前に一冊の本が現れた。中に情報が描かれているのかもしれない。そう思い開いた、次の瞬間。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

所有地周辺に生息する低級の魔物

1,ゴブリン。五歳児程度の知性を持つ、二足歩行の魔物。残虐な精神性を持ち、獲物を悪戯に弄ぶ事も多々ある。基本的に群れで行動し二十匹以上になると巨大な巣を生成する。


2,コボルト。魔狼。体躯は大型犬くらいだが、狼として群れで行動する事が多い。縄張り意識が高く、時には自分たちよりも強力な魔物を倒す事も多い。群れは五頭から六頭、多ければ何十匹もの群れに発展する。その足の速さも相まって非常に厄介な存在となる。


3,ワイルドボア。2mを超える巨大な豚。分厚い肉と骨に阻まれて、中々内臓に武器が通らない。弱点は脳だが叩くのではなく、殴打などで揺さぶる事で脳震盪を起こして倒すのが良いだろう。その肉は絶品。


4,オーク。豚の頭に肥満体の人間の体をくっつけた様な魔物。簡単な言語を話し、群れを組んで行動する。他種族の雌を使って繁殖する危険な魔物。数百年に一度、突然変異種であるオークロードが出現する。分厚い脂肪に覆われているが剣などで対応可能。


5,トレント。木に擬態して獲物を待ち伏せする魔物。巨体であるため動きは鈍いが、枝を伸ばしたり振り回したりして攻撃してくる。火で燃えやすいなど弱点が多いが、森の中で擬態されると見分けが付かない。森を歩く時は松明を持っていると怯えて襲い掛かって来る事も無い。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 一瞬にして夥しい量の情報が頭の中に流れ込んで来た。気が付けば手に持っていた本は消滅し、湯気で溜まった天井の水が、ぽちゃりと水面に落ちる水滴の音だけが浴室に響き渡る。


 この情報は値千金だ。十万コインの価値は十分にあった。


 まずトレントの存在を知れた事が大きい。何も知らずに森を歩いていれば、不意打ちを受けていたかもしれないからな。


 明日からのコイン集めもだいぶ楽になるぞ。


◇◇ ◇ ◇ ◇



 異世界生活 七日目。


 この世界に飛ばされてちょうど一週間が経過した。


 注いだばかりの牛乳を飲みながら、メニュー画面を睨めていた。


 一週間でこの生活にも大分慣れた。そろそろ探索に乗り出しても良いかもしれない。


 武器は色々とあるが「魔物除け」というアイテムを見付けた。ランクに差はあるが、一番高いもので品質A。100万コインと高額だが、持続時間は三時間程度続き、強力な魔物も近付かせない事が出来る様だ。


 マップを広げるという目的でも、土地周辺の探索はいずれしなければいけなかった。


 問題は魔物除けに購入回数制限がある事だろう。たった三度しか買えないそれを、今使うか。後で使うか。


 結論は決まっている。今、使うんだ。


 足止まって長く生活する事は誰だって出来る。


 だが、一人で永遠と生活するのは、どんなボッチにも不可能だ。精神が疲弊する。


 【世界遊戯】の使い方に慣れ、罠によりコイン稼ぎも上手く行き、今では500万コインも稼ぐ事が出来た。


 マップにピンを刺しておけば、いつでも帰って来られるんだ。


 意を決して森や山道に抗える装備を整え、所有地から出ようとした。その時――――。


「花垣、君……?」

「っ、委員長」


 久しぶりのクラスメイトの再会がそこにはあった。




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