第一話 【世界遊戯】1
ぼっちを嘆いても仕方が無い。どうせ、どこまで行ってもぼっちに変わりは無いのだ。と自身に言い聞かせ、俺は手に持った草に視線を向けた。
一見、何の変哲の無い雑草だ。直に触り匂いを確かめ、少し口に含んでみる。咥内に苦味が広がってすぐに吐き出した。
雑草 品質F 詳細・・・買い取り価値無し
再び雑草を視認すると、先ほどとは違う項目が追加されていた。
(買い取り価値無し……、俺が食べたからか?)
疑問に思い、適当な雑草を見て見たが今度は買い取り価値無しとは出なかった。
やはり食べた事によって価値が落ちたのだと結論付け、次は自分自身に目を向ける。
花垣薫 人間 17歳 男
レベル 1
スキル 【世界遊戯】、隠密
「【世界遊戯】、ね」
文字列――――ゲームのステータスの様な欄の中でも、「【世界遊戯】、隠密」のスキルだけが赤文字で書かれていた。タッチしてみるとさらにステータスが広がり、スキルの詳細が明らかとなった。
【世界遊戯】 ・・・ 世界に対して機械遊戯と同じ世界観を強制する。メニューを開くことで詳細が明らかとなる。
隠密 ・・・ 何者にも気配、足音すら悟られずに行動する事が可能。
「……メニュー?」
特に考える事無く、その言葉を告げた。
瞬間、眼前に広がる文字の羅列。
現時点では開けない項目も多いが、解放条件にレベルと数字が刻まれている事から推測するに、このスキルを使いこなすにはレベルアップが必須なのだろう。
今は開ける項目を見るしかない。
『売買』の項目をタッチすると買えるものの項目、そして手持ちの物品で売れるものの項目が広がった。試しに手に持っていた雑草を売ると、1コインで売り払う事が出来た。
手持ちは1000万1コインに増えて、このスキルでの売買にコインが必須である事が分かる。
しかし現実にコインを出現させようとしても現れないのは、この【世界遊戯】内部だけの通貨という事なのだろう。
次に購入可能なものの種類で、買えるものは道具、食品、生物、土地、情報と五種類だ。
大まかに見て回ったが、武器や衣類、卵に白米、建物なんてものも売っていた。かなり高額になるがコインを支払えば購入可能だ。
そして、この中で最も買う価値が高いのは情報だ。例えば家畜の飼育方法、農作物の育て方、そして魔物の情報。
スキルなんて言葉が出て来て薄々感づいていたが、魔物という言葉が出て来て確信した。やはりここは異世界らしい。
俺たちはクラス召喚された様だ。
しかしスキルがあるのは不幸中の幸いだろう。この調子ならば他の面々にもスキルは付与されていそうだし、皆が魔物にやられて死ぬ事は無いと信じたい。
【世界遊戯】について調べる事を再開したが、最も気になる項目を見付けた。ガチャだ。
初回限定11連ガチャ無料 Sランク確定
これを見て燃えない男はいないだろう、というぐらい魅力的な文字の羅列だった。何と言っても通常ならば1000万コインがかかるところ、今は無料なのだ。やらない手は無い。
いざ、尋常に。
鬼丸国綱 《Sランク》
1億コイン 《Sランク》
一軒家(1LDK) 《Aランク》
契約書 《Bランク》
鉄槍 《Dランク》
鉄槍 《Dランク》
石剣 《Eランク》
雑草 《Fランク》
石ころ 《Fランク》
たわし 《Fランク》
たわし 《Fランク》
「大勝利ぃいい! ……なのか?」
相場が分からないが、Sランクが二つも出れば大当たりだろう。
言わずもがな1億コインはありがたいし、一軒家は素直に嬉しい。土地を購入してから設置すれば住居を確保できそうだ。
ガチャで当たったものはアイテムボックスに収納されて行った。取り出しはメニューを介さなければ出来ないが、十分だろう。
ひとまずは全てアイテムボックスに容れておき、土地を探しに出るとしよう。どうせ置いて行かれたんだ。ここで待機していても、誰かが迎えに来てくれるとは限らない。
メニュー欄からマップを開きながら歩く。
衛星写真の様に詳細な地図は無いが、自分が歩いた近くが次々にマッピングされていく。ピンを刺したり、メモを取る事も可能だ。
そのマップを利用すれば迷う事も無く森を進み、数時間もせずに地震や大雨の後に土砂崩れをしなそうな傾斜も無く、平坦な土地を見付ける事が出来た。600坪余りの土地を購入し、8000万コインが吹き飛んだ。
残高は3000万、跳んで1コイン。
伐採した木々も売り払えばコインに変える事が出来るが、今はその労力が惜しい。伐採された木が全て消えてしまうが、10万コインを消費して土地を更地にする。その効果は凄まじく木々の根も綺麗さっぱり抜けて、木どころが雑草すら一本も生えていない土地となった。
一軒家(1LDK)をアイテムボックスから土地に出す。
600坪の土地は簡単に言ってしまえば、学校の体育館が三個あるくらいの広さだ。土地と比べて小さな家だが、入ってみると印象は一変する。
家に入った途端に、こんな森には似合わない木の香りが優しく漂う。玄関には土間があり、靴を脱ぐことが想定された日本様の造りの様だ。安心して土間で靴を脱ぎリビングに入ると、家具は揃ってないにしても広々としたリビングが迎えてくれる。
とても日本に住んでいた頃と同じレベルの建築レベルには達していないが、キッチンも付いている。リビングの隣には六畳ほどの小さな一室がある。こちらが寝室だろう。
風呂場を見に行けば、昔ながらの木製の浴槽が設置されている。お湯を出すには特殊な道具を購入しないといけない様だが、風呂に入れるならば惜しみなくコインを振るまおう。実際、銭湯などと比べると安いくらいだ。
「とりあえず、家具を買わないとな」
必要最低限の家具・日用品を購入する。
衣類やタオル、簡単な調理道具も購入したので100万コイン近くが飛んで行ったが、仕方が無いと諦める。
「あァーーーー」
木の浴槽に貯めた湯に一気に浸かると、次の瞬間には自然と深い溜息を吐いた。
こうして暖かいお湯に浸かっているだけで疲れが取れる。購入した水筒に冷水を飲み、身体の中に流れる冷たい水が体内から一気に熱を冷ます。
風呂から上がると購入した部屋着のスウェットに着替え、歯を磨いてさっさとベッドに飛び込んだ。家の中は温度が一定のままなので、非常に快適だ。
こんな世界に突然飛ばされた時はどうなるかと思ったが、このスキルのおかげで何とかなりそうだ。
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