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プロローグ ~異世界でもぼっちとかまじすか~

新連載です。よろしくお願いします。

 ぼっち。一言でそう言い表しても、様々なタイプがいる。好きで一人でいる奴。本当は嫌でも仕方なく一人でいる奴。誰にも相手にされない奴。


 私立遠野高等学校に通う俺、花垣薫は自然と一人になってしまうタイプのぼっちだ。クラスメイトと世間話はするが、自分が話の発端となる事はまず無い。成績は中の下、顔も中の下、もしくは下の上というところだろう。部活動も将棋部に所属していて、運動部ほど目立てる要素が一つも無かった。


 珍しく誰も遅刻する事無くクラスメイト全員が揃ったホームルーム中に、その事件は起こった。


「何なんだよこれ!」


 誰かが叫んだ。


 床に何やら紋様が浮かび上がり、激しく発光したのだ。


 誰もが混乱(パニック)に陥り、女子たちは悲鳴を上げ、扉に近い男子は必死に逃げようとした。しかし巨岩の様に固まった扉は一ミリ足りとも動かず、さらに混乱は加速した。


 そして次第に光が強まり、気が付く頃にはここに飛ばされていたのだ。


 周囲は見渡す限りの森で、伸びた枝によって陽射しが遮られる事の無い拓けた広間に集まっている。恰好は皆、教室でホームルームを受けていたと同様の制服のままだ。


「みんな、落ち着いて! まずは人数の確認をしよう!」


 ほとんどのクラスメイト達が今も混乱状態の中、クラス委員長である、涼宮ハルカが呼びかける。若干茶色掛かった髪は染めたわけでは無く、本人曰く地毛らしい。少し動くたびに揺れる豊満な双丘は誰にも手が届かない天上に咲く一輪の華としか表現できない。


 涼宮は誰にでも分け隔てなく接し、生徒会にも所属している。クラスメイト達からの人望も厚いため、誰も文句を言わずに従った。


「……16,17。嘘、これだけ……?」


 信じられないという表情で涼宮は唖然として呟いた。

担任である香坂レイネを含めると、クラスメイトは総勢36名。ここにいるのは半数にも満たないという事になる。


 状況的に考えるとあの光に呑み込まれた事でここに飛ばされた事は間違い無い。光の影響があの教室にいた面々だけだと仮定しても、半分は行方不明と言う事になるのだ。


「落ち着け、遥」

「っ、うん。ありがとう、空ちゃん」


 取り乱しかけた涼宮を立ち直らせたのは、他でもない彼女の唯一無二の親友である、神楽坂空乃だ。長い髪が黄色いリボンで後ろに一本に束ねられ、凛々しい顔立ちはまさに一本の刃の如く透き通っている。


 全国大会常連の剣道部主将で、噂では空手や柔道も全国級の腕前らしい。


 精神面で言えばクラスで誰よりも大人であり、人望厚い涼宮の親友はまさにベストポジションと言えた。


「……よし。みんな、今日はここで野営しよう」

「っ、はあ!? 野営って、道具も無いのにか!?」


 どこのグループに属しているわけでも無いが、どんな性格の奴が相手でも会話を盛り上げられる平凡を武器にした様な男、比良亮介が驚愕を露わにした。


「うん。山で遭難したら動かない方が良いって、聞いた事があるから。私達はここがどこかも分からず、何の装備も無いからこそ、ここに留まるべきなんだよ。森のさらに奥に近付かない様にね」

「だからって無謀だろ! せめてこんな森のど真ん中じゃなくて、川がある場所で野営するべきだ!」

「でも熊や猪だって川に集まるんだよ?」

「なっ……!」

「熊に襲われたら対抗手段なんて持ってないよね。それならみんなで一日、身体を休めて今後の方針を決めようよ。その時にみんなで方針を決めて、川を探すって事になればそうしようよ」


 少しの沈黙の後、比良は「分かったよ、そうしよう」と頷いた。照れ臭そうにしているのは完全に論破されてしまったからだろう。


「流石、遥」「涼宮さんに付いて行けば安心だね!」「比良、ちゃんと謝れよ~っ!」「うるせえ!」


 ワハハ、と笑いが起きる。


 この間、俺は一言も喋っていない。ぼっちは発言権すら持てず、輪から外れてひっそりと話を聞くしかなかったのだ。


 皆がまとまりかけた。しかし、ある馬鹿が豚の様な雄叫びを上げて森へ向かって走り出した。


「ク、クフフ……ッ! ここからワガハイの異世界転移チート無双が始まるのですぞおおおおおっ!」


 クラスではある意味目立っている、丸いぐるぐる眼鏡を掛けた生粋のオタク、前園コタロウである。彼は普段から持ち歩いていたラノベを物凄い勢いで捲りながら、全力疾走して森に駆け込んだ。


「ちょっ、前園氏~っ!」

「待つで候、候っ!」


 慌てて彼の後を追うのは、仲が良く同じグループに属している、ふくよかな体型の影響もあって少し動いただけで脂汗を浮かべてしまう、大前田フトシ。反対に筋肉がほとんど無いのではと心配になる、細川タケルの二人だ。


 体育の授業でも目立った運動能力を見せない三人だったが、この時ばかりは凄い速さで森へ消えて行った。


「……みんな、前園君たちを追おう!」


 皆が呆然とする中、最初に声を上げたのはやはり涼宮だった。


 先導して駆け出そうとした時、「待て」と比良が止めに入る。


「何? 早く前園君たちを追わないと、見失って……」

「お前、自分がこの場所を離れるのは危険だって言っておいて、その方針を自分で破るのかよ!」


 俺はすぐに前園が言わんとしている事に気が付く。恐らくは神楽坂も気付いたからこそ、口を噤んで成り行きを見守っているのだろう。


「アイツらは自分の意志で俺達から離れて、森の中に入って行ったんだぞ! それでも助ける気なのか!?」

「そんなの当たり前だよ! みんな一緒じゃないと何の意味も無いよ!」


 曇り無き眼でそう告げる涼宮。


 ああ、綺麗だな。


 純粋にそう思うと同時に薫は深々と溜息も吐いた。


 勿体ない。人望は高いがリーダーとしては、まだ子供も良いところだ。


「っ、そうかよ」


 比良は心底呆れた様に唾を吐き、涼宮を睨んだ。


 そこからは酷いもので、涼宮の理想論と比良の現実論の言い争いだ。


 前園達を追うか追わないか、そもそも涼宮をリーダーにして良いのか。時には罵詈雑言が飛び交っていたが、完全に蚊帳の外である俺はぼうっと周囲を警戒するしかやる事が無かった。


「ん?」


 言い争いの中で、薫は視界の隅に写り込んだ違和感に気が付き、しゃがみ込んで「それ」を目視した。


 視界がぼやけているのか、それとも幻覚を見ているのかと目を擦ってみたが何も変わらない。その草はゲームのバグの様に文字が浮かんでいたのである。



 雑草 品質F 詳細・・・何の価値も無い、ただの雑草。


 

 何だこれはという疑問が浮かぶと同時に報告しなければという使命感が浮かぶ。


「涼宮、これって……て、あれ?」


 直ちに振り返って涼宮の名を呼ぶが、そこには涼宮どころか、クラスメイトの誰一人としていなかった。


「……俺、異世界でもぼっちなのかよ」


 異世界生活一日目。スタート。


ぼっち。無双します。


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