施設長と時間つぶし1
最上階の一番奥にある重厚な扉をノックすると女性の声で「どうぞ」と言いながら扉が開かれる。中からはスーツに包まれた綺麗な女性が顔を覗かせ、いちなとルークを確認するととニコリと笑って引き続き扉を開けてもらえた。
その女性は、奥の大きくて立派な机の上でパソコンの相手と何か会話をした後、二人を確認するとすぐさまオンライン通話を終了させた。
そして、その男性も微笑みながらソファーの方までくると
「いらっしゃい、いちなちゃんとルーク殿。そんなところに立ってないでこちらに座ってよ」
人懐っこい笑顔で二人にソファーを勧めると
「松野、仕事を中断させて申し訳ないけど、お茶を入れてくれるかい?」
と先ほど扉を開けてくれた女性に声を掛ける
「施設長私は、一応秘書ですからね了承なんていらないですよ」
フフフと笑いながら奥の部屋に入っていった。簡易的な給湯室があるみたいだ。
施設長と呼ばれた男性は、30代後半だろうか、高級なスーツに身を包んでいた。体を鍛えていそうな感じで体幹もよさそうだった。
ルークは警戒を緩めない為にソファーに浅く腰を掛けている。
手元に武器はないが体術でも目の前の男性を拘束することぐらいはできると踏んでいた。
いちなは、かなりリラックスしているようすで、松野が持ってくるお茶を楽しそうに待機しながら施設長の部屋をキョロキョロと見ていた。
施設長は二人から話しかけてこないようだったので
「ところで、いちなちゃんは候補生に会う予定だった思うけどどうだった?」
施設長が二人に会って一番気になっていた内容を聞いてきた。
いちなは施設長の方を見ると
「あっうん。大丈夫だよ。二人とも素質あるから!って久城さんにも伝えたよ~」
お茶まだかな~とついでに付け加える。
少し呆れた施設長は「それは良かった」と答える。
すると、何かを思い出したいちなが
「あっ!そうそう!久城さんに膝を付かせるの辞めさせて欲しい!って言いに来たのよ!」
本題を思い出したいちなは施設長に訴えた。
「私は、そんなに偉くないしどちらかというとこっちの世界の感覚が近いから対応に困ります!」
いちなの考えに施設長は少し悩んだ後ルークに視線をやる
「ルーク殿は…どう思われますかね?」
ルークにお伺いを立てると
「そうだな…。私は特に何も思ないが確かにヒサシロ殿は私の臣下でも無い故そこまでかしこまらなくてもいいと思うぞ」
ルークの言葉を受け取った施設長はだったらいいかなと呟くと
「失礼します」
と松野がお茶とお菓子を持って戻ってきた。
三人にそれぞれ準備すると
「松野、しばらく席を外してくれないか?」
と施設長が言うと
「かしこまりました。何か御用があればいつでもお呼びください」
と言いながら、給湯室があった部屋とは逆の部屋に入っていった。
松野の後ろ姿を見送った後、施設長は出されたコーヒーを一口飲み
「では、いちなちゃんの提案通りに普通に対応するように伝えるよ。ルーク殿我々の対応に不備があった場合はどうかご了承ください」
そう言いながら施設長は頭を下げた。
「私は、いちなが心安らかに過ごせればそれだけで十分なのだから、シセツチョウもそのような対応をしなくてもよい」
と言いながら浅く座っていたソファに少し身を預けた。
ルークの警戒が少しとれたことに安堵した施設長は、美味しそうにお茶をしているいちなを見てから
「ところでいちなちゃん」
いちなは、食べていたお菓子を一度置いてから施設長を見ると
「僕にも魔法の付与ってできるのかな?」
施設長はなるべく緊張しているのを悟られないように微笑みながら質問をした。
※ ※ ※
仁と玲麗を除く13人は同窓会場に行く前に大型のモールで時間を潰すことにした。
二人がいないときは自然と維月と芙吹が皆をまとめる。
「二時間ぐらいあるから、このモールで時間を潰すことにしま~す」
芙吹が皆に伝える。
「頼むから迷子になるのは辞めてくれよ!時間に集合できなかったら店内放送で呼び出すからな!」
維月の提案に元クラスメイトが笑いながらブーイングを出す。
芙吹も「えっ」という表情をすると
「冗談だから!ちゃんとスマホで呼び出すから!」
その言葉を聞いて芙吹を始めとする全員が安心した
「じゃあ、一旦解散ね~!この後ご馳走だと思うからあんまり食べちゃ駄目だよ~」
芙吹の言葉に全員が「は~い」と言いながら複数のグループになってどこかに歩き出した。
その姿を維月と芙吹が見送る。
そして、一人だけその場に残っていた男性がいた。
その人に向かって芙吹が
「じゃあ、私達もお散歩しよっか」と言って芙吹、維月、もう一人の男性の三人で歩き出す。
「それにしてもなんかこの面子ってグループワークを思い出すわ~」
維月はしみじみと言い始める。
「そうだね~。でもすっごく楽しく色々な事したよね?」
それに答えるように芙吹も話しだす。
「ああ、皆真面目だから何をしても一番に終わっていたね~」
残りの一人の紫音もうんうんと頷きながら会話にはいった。
「でも、玲麗と維月はいつも喧嘩してたよね」
「まぁ~似たもの同士だからかな?」
「俺、玲麗と似てねぇ~し。それよりも芙吹もいつも珊瑚と言い合いばっかりしてたじゃん」
芙吹と紫音の会話を維月が否定した。
「あ~、そうそう。してたねぇ~」
「ふっふ~ん。維月君、紫音君。君たちは重大な間違いをしているのだよ」
芙吹は維月をからかうつもりが自分にブーメランが返ってきたので少しあせった。
「私と、珊瑚はあくまでもディスカッションですからね!お互いの意見をブラッシュアップさせるために仕方なく!」
芙吹の言い訳が始まったので維月がニヤニヤしながら
「そう言って、後で負けて悔しぃ~って玲麗に泣きついてたじゃんか!」
維月の隣でうわぁ~と言いながら
「維月、それ言っちゃうの?さすがにちょっとデリカシーがないと思うよ」
紫音が苦笑いをしながら芙吹のフォローをした。
「さすが”紫音君。優しいわぁ~。心に沁みるかもしんない」
芙吹は両手で目元を押さえながらえんえんと泣き真似をしだした。
維月は、そんな二人のやり取りをみながら
「そういえば、珊瑚は海外組だったよなぁ~。あっちで上手くやってるのかな」
維月は珊瑚を思い出しながら芙吹と紫音を見る。
「大丈夫だよ。私をいつも言い負かすぐらいだもん」
「そうだね。彼女の昔からの夢を追いかけているもんね」
三人で珊瑚を思い出しながら目的地もなくモールをブラブラと歩きはじめた。
玲麗班
零番 玲麗
一番 維月
二番 芙吹
三番 珊瑚(海外組)
四番 紫音
最後までお読みいただきありがとうございました。