疑問と上層部
久城は「さてと」と言いながら
「この子たちは当分、学校に併設されているカフェでバイトをしてもらおうと思っているんだ。玲麗は立場的に遊びに行きやすいと思うからまめに顔を出してあげてね」
「はい。分かりました。」
「うん。今日の用事はこれだけだよ。次の面会時期は連絡するからよろしくね~」
そういうと、久城は仁から受付でもらった用紙を返却してもらい仁と玲麗は部屋を出ていった。
久城は二人の足音が聞こえなくなるのを確認した後、資料を机の上にそろえてから立ち上がりいちなに向かって膝をついた。
「いちな様、さきほど話していた二人ですがどうでしょうか?」
その資料を見ながらいちなは
「うん、二人とも素質があるよ。大丈夫。」
と頷きながら
「ねぇ~。久城さん、出席番号の付け方変わってるよね?この零番とJ番ってなに?」
玲麗の出席番号は『零番』仁の出席番号は『J番』と記入されていることを疑問に思い質問した。久城は少し悩んでから
「…それは、適応順でございます。このプロジェクトに置いて最適化されている生徒を上から順位付けしています」
その内容に興味を持ったルークが
「何の順位なのだ?」
と聞いてくる。
久城は愛想笑いをしながら
「申し訳ございません。それは機密になっておりまして、僕の現在の権限ではお教えすることができません」
久城は膝をついたまま頭を下げた。
いちなは困った表情で
「久城さん…。もうそのような対応は辞めてくださいよ!私かなり年下ですよ?」
いちなの発言に、久城は立ち上がった後
「ありがとうございます。ですが、上層部からの指示でして…。」
改めるのが厳しいという事を伝えると
「分かったわ。私からその上層部とやらに伝えとくから、本当に…もう。久城教官は私たちの面倒を見てくれる人なんでしょ?」
と嬉しそうに確認すると、
「申し訳ございません。彼らにはまだ貴方様たちのお立場を説明できる状況ではございませんのであのような説明になってしまいました」
いちなは首を横にふると
「本当に大丈夫だから、その辺りの事は久城さんにお任せしますよ。私たちはとりあえず、久城さんの元教え子全員に会えばいいんですよね?」
久城は姿勢を正し
「はい、そうです。そして、先ほどの様に適性があるか確認していただきたいです」
久城は少し迷ってから
「実は、私は何の『適正』の確認をしているのか知らされていないのですが」
いちなとルークに確認をする。
二人は目を合わせると
「久城さんが知らないって事は知る必要がないってことなんじゃないかな?」
ルークは再び眉間にしわを寄せると
「知らぬ方が良い事もあると思うぞ…。特にそなたはあの人たちの恩師なんだろう?」
二人の言葉が思いのほか真剣だったので久城は判断を間違えたと思った。
「申し訳ございませんでした。」
そして、再び頭を下げる。
「ごめん。言い方きつかったよね。このまま私達と付き合っていくといつか知るかもしれないけど今はまだ何も動いていないしこのまま面倒な生徒が二人増えたぐらいの感覚でいてもらえると私達も気が楽でうれしいです」
いちなは、エヘヘと笑った。
「私は、別に生徒と思わなくても大丈夫だ」
ルークはいちなの発言を軽く拒否した。
「ひど~い!いいじゃん。一緒に生徒になろうよ!」
「何も学ぶことなど無いわ!」
ルークのその一言でいちなはジト目をしながら
「だったら、これ使えるの~?」
とスマホを出しながらルークの目の前でブラブラと揺らす。
ルークはうっと唸った後
「ヒサシロ殿、当分はよろしく頼む」
気まずそうに久城にお願いをした。
久城は苦笑いをしながら
「これぐらいお安い御用ですよ」
と言いながら了承した。
その様子を一通り見た後
「じゃあ、私たちは早速上層部に行ってくるね~。久城さんとはここで一回お別れかな?次はバイトの時に案内してもらえるのかな?」
「はい、カフェでのバイトはもうしばらく時間がかかるようです。それまでは資料の確認をお願いします。何かあればこちらに連絡してください」
といちなの質問に久城は答え自分のスマホの連絡先を交換した。
「…イチナ、後でそのやり方を教えて欲しい」
「了解!部屋に戻ったら早速特訓だね!」
「う、うむ。がんばる」
ルークの年頃だとスマホの使い方を知らないなどありえないと思っていたが、もしかすると仁の言うとおり本物の王子様なのかもしれないなと久城も思ったのだった。
「では、僕はこれで失礼します」
久城はそういうと一足先に懇談室を後にした。
久城を見送ったいちなとルークはしばらくすると
「じゃあ、行こっか上層部?」
といちなが軽く指そうとルークは呆れた表情で
「イチナ、上層部の場所って知っているのか?」
「とりあえず、高い所にいそうじゃない?」
と短絡的な発想にかかわらず意気込んているいちなを見て思わず溜息が出るルークだった。
いちなとルークは施設内を自由に移動するために仁や玲麗が持っている手帳ではなくカード型の身分証明書を持っていた。
ルークが網膜認証に強い忌避感を持ったことも理由のひとつだった。
階が上がるにつれ豪華な設備になり、この施設の最上階ともなるとフカフカの絨毯の廊下が標準装備となっていた。
いちなとルークがその豪華な廊下を踏みつけながら
「あいかわらずこの階って無駄に豪華だよね?ルーク家でもこんなフロアーなかったよね?」
ルークは何かを思い出すように
「ふむ。そうだな…ここまで華美にする必要性がないし我らはどちらかというと質素な王族だったと思うぞ」
ルークの堂々と歩く姿はその華美な廊下に負けず劣らずの雰囲気を醸し出していた。
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