ジークフリート再臨
「こ、今度は何なんだよ!?」
目の前には甲冑を着込んだ男が瓦礫に埋もれていた。
鎧はかなり高価なものを身につけている。百合の紋章があちらこちらに刻まれているから、聖教騎士団の騎士であることは一目瞭然だった。
「ガ、ガブリエル!?」
クリスが呼びかける。クリスの知り合いのようだ。
俺が僧兵に取り囲まれたときには見ていない顔だ。
「ひ、姫……様……、申し訳ありません、不覚を取りました……」
「また会ったね、お嬢ちゃん。いや、お姫様……と呼んだほうがいいかな?」
声がする方に振り向くと魔族の男がいた。宙に浮いている。翼が生え、ゆっくりと羽ばたいていた。
「さてと……お姫様にはボクと一緒に来てもらおうかな」
「魔族だ!討ち取れ!!」
周辺の僧兵が動く。先程俺たちを見逃した二人も駆け出していた。
「人間がボクに勝てるとでも?」
さっきまで宙に浮いていた魔族はいつの間にか俺たちの目の前に移動していた。
血飛沫が上がり、周囲の僧兵たちがバタバタと倒れる。
大鎌を悠然と構えるそいつは死神そのものに見えた。
「……ジ、ジークフリート……」
「嬉しいなぁ。お姫様、ボクの名前を覚えてくれていたんだね!」
無邪気な笑顔をこちらに向ける。その手には先程切りつけた僧兵の首があった。
それを無造作に地面へ投げ捨てる。
「……」
言葉が出ななかった。
俺はクリスをかばうように前に立ちはだかる。
「おかしいな。ボク、人間にも通じる言葉で喋ったよね?キミ、その子を守ってボクと戦うつもり?」
「……どうかな。俺は勝てない勝負はしない主義でね……」
恐怖……そんな生易しい感情ではない。”死”を意識させる何かが目の前にいる。
背後のクリスも同じものを感じているのか、言葉はない。
「クリス……お前の知り合いか?どうする……?あいつと一緒に行くのか?」
「……嫌。あいつとは行かない」
弱々しい答えが返ってきた。
「だそうだ。お引取り願えないかな?」
目の前の魔族を睨む。仄暗い瞳は全てを闇に吸い込むようだ。
「フフッ、キミも馬鹿だねぇ、生き残るチャンスをあげたのに……」
ガチン、と火花が散った。
俺の首を掻き切ろうとした刃はすんでのところで受け止められた。
剣を持つ右手がプルプルと震える。
なんて力だ。
「あれ、殺したと思ったのになぁ……」
力を下方向にいなし、敵の体制を崩すと横に一閃、一撃放つが空を切った。
「クリス……離れてろ。」
言いながらクリスが固定してくれた間に合せのギブスを外す。
固定されたままでは動きにくかった。
「へぇ、あくまでボクと戦るつもりなんだ?」
なんだよ、コイツ……楽しそうにしてやがる。
マジでムカつく……
ダッシュで一気に距離を詰めると下から切り上げる。
ガチリと大鎌の柄で防がれた。
剣撃の速度を早める。
何度も斬りつけるが全て余裕で弾かれていく。
片腕が使えないというのもあるが、コイツは化け物だ。勝てる気がしない。
何度目かの攻撃の後、大鎌が真横から襲ってきた。
体を捻って後ろに飛ぶ。
それを追って何度も切りつけられる。今度はこちらの番、そう言っているようだった。
目で追えないほどの斬撃。気配だけで受けきるのが精一杯だった。
早い……息ができない。
大ぶりで入れた一撃が空を切ると距離をおいてにらみ合う。
大きく肩で息を吸う。体中が酸素を欲している。
敵は平然としているのに対し、こちらは既にボロボロだ。
攻撃はすべて受け流したつもりだったが、身体中切り刻まれていた。
当然だ、防具を何もつけていない。
ゆっくりと死に近づいている……そう感じさせられた。




