九死に一生
ホーク……ごめん、私、ここまでみたい……
思わず目をつむる。刹那――
ヒュッ――――ガッ!!
風を切って何かが飛来し、何かに衝突した音が聞こえた。
恐る恐る目を開ける。
そこには喉から鏃が飛び出し、そのまま絶命して前のめりに倒れ込んでくる降下猟兵の姿があった。
助かった……
安心感から脱力してしまう。
「怪我はないか?」
敵を矢で射抜いた主が手を差し伸べる。
その手をしっかりと握って立ち上がる。
お礼を言わなくては――と立ち上がって相手を”見下ろす”と、そこには見知った顔があった。
「――えっ、ベ、ベルトラン!?」
「怪我は――ないようだな。ジャン、露払いを……」
と、ベルトランが言い終わる前に、周囲にいた降下猟兵は糸目で色白な青年が全て斬り伏せていた。
「おや、チェスカ様ではありませんか。ご機嫌麗しく――」
ジャンが軽口で受ける間にもベルトランは率いている兵に指示し、いつの間にか下水の入り口前にはバリケードが出来上がっている。
「迅速な住民への避難指示、感謝する――大尉。」
今までに聞いたこともない丁寧な口調で接してくるベルトランにチェスカは戸惑いを隠せずにいた。
「あなた……ベ、ベルトラン……よね?」
「……この人数では心許ないな。ジャン、五名選べ」
チェスカの問には応えず、ベルトランはジャンに自分の隊から五名を引き抜いて拠点防衛の命令を与える。
「侵入を許したギガンテス共を潰さねばならない。我らはこれで失礼する。」
そう告げると、ベルトランはチェスカに背を向ける。
「嘘……なんか調子狂っちゃうな……」
チェスカはバツが悪そうに小声でつぶやく。
目の前にいる小男は本当に自分が知っている男だろうか、という疑問が湧く。堂々としている――のは昔からそうだったが、突然の魔族の襲撃に動じることもなく、冷静に部隊を指揮している。
少なくとも、自分は団長に叱られるまではパニック状態だったし、魔族との戦闘になってからも怖くて堪らなかった。
最後に会ったのは士官学校を卒業して少尉に任官された叙任式だった。あれから3年は経っている。
「あの――ベルトラン?」
チェスカが呼び止めるとベルトランは立ち止まった。
「……ありがとう!」
大きな声で感謝を伝える。ベルトランがいなかったら殺されていたかも知れない。
彼は後ろ姿のまま少しだけ頷くと、去っていった。
ジャンが何度も振り返ってこちらに大きく手を振っていたのとはまるで対象的に。
”《《いつも》》”と全く違うベルトランに戸惑いを隠せなかった。




