懇願
こいつは一体どういうことだ。
目の前が暗く、右頬に冷たい地面を感じる。
だが、左側は柔らかい。しかも、生暖かいときてる。
暗闇に目が慣れてきたのか、それともその暗闇が、布を被せられていただけだからなのか、自分の置かれた状況が次第に理解できてきた。
左頬の感触は、少し前に感じた覚えがある。
横目で見上げると、そこにはプリッとした肉付きの良い尻と、清潔感のある白い下着が見える。どうやらこの暗闇は……スカートの中か――
「おい、早くその重いケツを――」
「変態っ!!」
言い終わるより先にそれは素早く立ち上がると、俺の頭を踏みつけた。
「変態っ!!変態っ!!変態っ!!」
何度も、何度も、踏みつけられる。何故だ――納得できない。
ひとしきり踏みつけると気が済んだのか、裾の埃を払い、身だしなみを整えている。
目の前には先程俺を僧兵どもに売った少女が仁王立ちしていた。
「一日に二度もアタシのお尻に頬ずりして、気持ち悪いっ!」
こんなに理不尽なことはない……
「ちょっと待て!俺が悪いのか!?俺が何したんだ!?さっきも今も、お前が俺の上に降ってきたんだろ!!」
猛然と抗議したが、後ろ手に縛られており、なんとも無様な吠えっぷりだ。
俺を縛りつけていた柱は建物と一緒に倒壊したが、手は縛られたままだった。
どうやら、彼女は俺より上の階にいたようだ。建物が倒壊した際に落ちてきたらしい。しかし、一度ならず二度までも尻に敷くとは……何て女だ。
「悪いわよ!」
頬をぷっくりと膨らませると言い放った。
「こういう時はお姫様抱っこで受け止めるものでしょ!そしてこう言うの、『親方、空から女の子が!』って。」
「……なんの話だ……」
親方って誰だよ……そもそも、縛られてて抱きとめれねーよ。
「そして、空賊と一緒に空飛ぶ城を探しに行くのよっ!」
意味がわからないよ。
「……盛り上がってるところ申し訳ないんだが、この縄を解いちゃくれないか?」
俺は腹ばいで少女を見上げて懇願した。
「……。それが人にものを頼む態度かしら?」
この女――俺が哀れな蓑虫状態で這いつくばっているのを見て、自分が上位に立っていると確信したのだろう。随分と居丈高に言いやがる。
「……解いてください、お願いします。」
俺は精一杯の作り笑いで応じた。
「クリス様、どうかこの哀れな私の縄を解いてください、ね。」
このクソガキ、クリスという名前なのか……一体何様のつもりなのか。
腹は立つが、ここは自由になるのが優先だ。
「……クリス様、どうかこの哀れな私の縄を解いてください」
「ダメ、ダメ。やっぱ、謙虚さが足りないわね。アタシの靴にキスするの。そして、『何でも!!何でもいうこと聞くから!!』って言うの。」
大げさな身振りを加え、クリスは俺に服従を要求した。
このガキ……。
這いつくばって見上げる先には白いフリルスカート。それが弱い風にそよそよと泳いでいる。ガキが俺に近づきすぎたためか、時折、白い布が――
「お前、見せてるのか、そのお子様パン――」
言い終わる前に視界が暗くなる。
図らずも俺は少女の靴にキスをした。




