脱走計画
あのイケメンに騙された!
すぐにこの世界が自分のいた世界とは別の異世界であることには気づいた。
なぜならば、皆ファンタジーな世界の格好をしているからだ。ファンタジー……という表現が正しいかどうかは別として――、中世ヨーロッパ風の文化がこの世界には広がっていた。
中世というと、とても時間枠は広いのだけれど、十四世紀〜十六世紀にかけてのイタリアっぽい。
ヨーロッパにはママに連れられて何度か行ったことがある。
街の外観がイタリアのフィレンツェによく似ていると思った。
窓の奥に見える教会は巨大なドームがあり、フィレンツェの大聖堂(サンタ・マリア・デル・フィオーレ教会)と同じような外観をしている。
ガブリエルに連れられ、大きなお城のある街に来た。その後、ちっぽけな教会の一室に案内され、あとはこの有様。ガブリエルは毎日三度食事を運んでくるだけだ。
何を尋ねても『いずれお答えしますが、今はその時ではないのです。』と、微笑みで返されてしまう。
「今じゃないって、じゃぁ、いつ答えるのよ!今でしょ!!」
腹立ち紛れに枕を天蓋に向かって投げつける。まくらは跳ね返ると、当て付けの様に自分の顔面に命中した。
「もう嫌ぁーーーーーーーーっ!!」
雄叫びを上げて枕に噛みつき、歯で布を引き裂いた。
中には羽毛が詰まっていた。それを手で掴み出すと手当たり次第に放り投げる。
ゆっくりと羽が舞い、雪を散らす様な状態となった。
それだけでは飽き足らず、更に枕を引き裂く。
ビリビリという音ともに布が裂けて行く。
「はっ、これよ!」
その様子を見て、ひらめいた。
「ふっふーん、アタシってば、やっぱ天才。」
ベッドのシーツを剥ぎ取り、端に噛み付くとビリビリと割いていった。
上質なシルクで織られたシーツは柔らかく、切り込みを入れると面白い様に裂けた。
鼻歌交じりで作業に没頭する。
枕だった布を幾つかの帯に切り裂き、その端と端を固く結んでいく。出来上がったそれは両手を広げたほどの長さでしかなかった。
これでは足りない――と、シーツをベッドから引き剥がす。同様に歯で切り込みを入れると気持ちのいい音を立てて裂けていく。何本かに割いたあと、端と端を固く結び、枕で作った短いものも結んで、一本のロープに仕上げた。
「ふふん、やっぱ、アタシって天才。これを伝って窓から降りれば完璧ね。」
得意げにニヤニヤしながら、窓際にある猫脚のサイドテーブルにシーツを縛り付ける。
テーブルは大理石を彫り込んで作ったものであるらしく彼女の力では微動だにしない。これならロープにぶら下がって下に降りてもびくともしないだろう。
――いざ!
と、窓を大きく開いて身を乗り出したその時であった。
トントン、と軽いノックの後、ガチャリと錠の開く音が聞こえる。
ギギギ、と木製の重い扉が軋む音が部屋に響き、カチャカチャと鎧の擦れる音が聞こえた。
例のイケメンが部屋に入ってきたのであった。




