その名はクリス!
なんでアタシがこんな目に!
真紅の絨毯が敷き詰められ、天蓋のある豪華な寝台が据えられた部屋の中に閉じ込められて何日経っただろう。
他にすることもない。アタシに許されているのは部屋をぐるぐる歩き回ることだけ……
そうだ、もう一週間もこの部屋に監禁されているんだった。
食事は三食きっちり出してもらえているし、希望すれば建物内にある大きな庭園の中を散歩することもできる。
だけど、逆に自由はそれしか許されていない。
最初の二日位はお姫様になったようだと浮かれていたのだけど、段々と退屈になってきた。
退屈っていうか、死ぬ。
「何が、姫よ。意味わかんない!!」
アタシはベッドに突っ伏した。フカフカのシーツに身体が埋もれる。
アタシの世話をする人たちはみんな私を”姫”と呼んでいた。いつの間にか純白のドレスに着替えさせられ、周りからは姫、姫、と呼ばれるのだもの……いい気にもなるわよね。
自分が”姫”と呼ばれることに心当たりはなにもないけど、ちやほやされるのは悪い感じはしない。
だけど、今やもう姫って呼ばれるのもストレス以外の何物でもない。
「大体、ここが何処かもわかんないし……」
瞳がじわりと熱くなり、泣きそうになる。
気づいた時にはこの部屋に閉じ込められていた。
唯一の出入り口として、白い大きな扉があった。扉には様々な草木模様が透かし彫りにされ、金箔で縁取りされている、これまた豪華な逸品だった。しかし外から打ち付けられているかのようにピクリともしない。
実際に与えられている自由は、わずか十歩で端まで行けるこの世界――
「もぉーーーーーっ!!」
そのまま足をバタつかせて、暴れる。無駄だってわかってる。
静かな部屋にシーツ越しにくぐもった声が響くだけだった。
「おまけに、何のスキルもない……」
くるりと仰向けになる。天蓋の周りをカーテン上に覆う赤い布が目に入った。視界がやけに滲む。
「落ち着くの、落ち着くのよ、クリス……」
ゆっくりと目を瞑り、心を落ち着かせる。
何度、同じ作業をしたろうか。何日が過ぎたのだろうか、窓から入る外の光だけが、時の経過を告げていた。
「アタシの名前は……来栖クリス」
自慢じゃないけど、すらっと背が高く、しなやかに長く伸びた手脚は日本人離れしている。
髪はブロンドで、瞳は蒼い。ママがスウェーデン人、父親が日本人のハーフだから。
だが、この国……いや、この世界はどうやら私の知っている世界ではないらしい、ということだけはわかっている。
きっとこれは今流行りの(?)異世界転生モノ――
ということは、アタシはとんでもないスキルを持っていて、チート級の『オレツエー』を発揮し、異世界の英雄になって、美少年を集めた逆ハーレムが作れるはずよね?
そうじゃなかったら、素敵な王子様達が私を巡って争い、龍の首の玉や、蓬莱の玉の枝を貢物に求婚を迫るけど、元の世界に帰ってしまう――
最初はそんな妄想が妄想が膨らんでいた。前者はともかく、後者はかぐや姫よね……
でもね、現実は厳しかった。
スキルなんてものは発動しないし、現代の知識が役に立つシーンもない。
だいたい、現代の知識といったって、アタシ、普通の女子高生だし。
こんなことなら、火薬とか、鉄砲とか、爆弾の作り方をググっておくんだった!
しいたけ栽培とか、灌漑とか、農業スキル――いや、薬剤師ってのもアリよね?
スマホも手元にないから、元の世界の知識をググることなんてできないし、ネットスーパーで食材取り寄せて異世界ライフを満喫……なんてもってのほか。
もう、一週間は経っているのに、何で誰も助けてくれないの?
こんな窮屈な世界はもうイヤっ!




