弟94話。聖地を捨てて
宿場町イーハンに、領主バップと騎士団が現れた日の夜、
ハーネと、バイロンとダフリーの孫娘、ラリーサは、
ドラカン集落に、襲撃の知らせを伝えに入った。
俺達は、ハーネさんから、集落入り口の詰め所で、
明日の夜、バップ率いる騎士団30名による、
ドラカン集落襲撃を知らされたのである。
ドラカンさん達、元冒険者とハーネさんが、その場で相談を始めた。
基本方針が、即決まる。
逃げだ。
ライツ国、獣人差別のあるこの国で、
領主とイザコザを起して、良い事など何も無いのだ。
俺達が、ここに居なければ、獣人差別被害を受ける事も無い。
ここに居なければならぬ理由も、大して有りはしない。
ここはシガラキ様の土地、東山の麓ではあるが、
俺達が暮らすのは、もう何処でも良いとも言えるのだ。
シガラキ様は、ここでなければ、
タヌキ族に御加護をして下さらないと言う事も無いだろう。
ダンジョンは、南のゼンツにもある。
シガラキ教神職を新たに生み出す為の、
リリーのレベル上げは、そこで行ってもいい。
それに、俺達が食べて行くだけなら、ダンジョンが無くたっていい。
水飴を作って売れば良いのだ。
基本方針は逃げ、これは絶対だ。
領主や騎士団と衝突して、ここに居座る事など何の得も無い。
危険なだけだ。
シガラキ教としては、リリーが生きていれば良い。
出来るなら、ドラカン集落全員が生き残る事こそが、
俺達、ひいてはタヌキ族全体の繁栄に繋がる。
それは、出来る。
逃げの一手だ。
とりあえず、ハーネさんラリーサを連れ、
俺達は詰め所から広間に戻った。
広間で、詰め所の様子をうかがっていた、トンバーさん達も含め、
細かい事情説明と、具体的にどうするのか、相談が始まる。
領主バップは、痺れ薬と、爆薬を用意して来ている事。
集落を襲い、俺達を生け捕りにして、ダンジョンに捨てる計画である事。
その後、ゲンコツダンジョンを爆破し刺激する事で、
スタンピートを起させようとしている事。
また、一連の計画を阻止する為、
ターク神父、バイロン夫妻、自警団のトーシが、
明日の昼には、ここに来る事が、ハーネさんの口から説明された。
ドラカン集落の広間には、
急な襲撃の話に、緊迫した空気が流れていた。
とりあえずの、こちらの計画が決まる。
明日の夕暮れまでに荷造りを終え、南西、陶芸小屋方向に非難する。
そこからなら、いつも使っている隣村ルートとは別ルートで、
イーハン街道に荷車を曳いて、どうにか抜けられるとの事。
ダンジョン爆破計画の阻止については、
明日、ターク神父達と合流してから、と言う事で話が決まった。
冷たいようだが、俺達は、ダンジョンが爆破されて、
その結果、ダンジョンから魔物が溢れても、別に構わないのだ。
それでも、ドラカンさん達は、ターク神父に恩がある。
どうにか暮らしていく為になった、種族的に向いていない冒険者。
そして、元冒険者となってしまった・・・PT壊滅の生き残りとして。
幼子を抱え、冒険者達の世界からも弾かれてしまった。
そんな時、ドラカンさん達を救ったのは、ターク神父だと言う。
騎士団と一戦交えるかは、明日のターク神父達との相談しだいだと、
ドラカンさん、オーラスさんは言った。
今相談できる事は終わり、各々明日への準備に入る。
明日への会議の間、
晩御飯を食べていないであろうハーネさんとラリーサに、
夕食の残りと、大学芋が出されていた。
ラリーサは、難しい話は判らない。
おじいちゃんとおばぁちゃんが、どうにかしてくれるわ、
と言って、ニコニコしながら、会議に関わらず、
美味しい美味しいと大学芋にパクついていた。
本当に、何の心配もしていない様子だ。
あのバイロン冒険者ギルド長のお孫さんか、
ガッツリ血を引いてるなw
猫族・・・見た目は、猫顔で黒髪、細身の可愛い子なんだが、
自身の運動能力を上げる魔法を持つ、ゼンツ教の神職。
レベルは俺達若手と同じ程度。
しかも双剣の才+か・・・そうは見えないな。
俺と同じくらいの背丈、女性にしては大柄だが、まぁ可愛い子猫ちゃんだ。
愛嬌のある能天気なお孫さんだな。
ラリーサの隣でリリーも、
私達にはシガラキ様と、二神様の使いアルファが居る。
お導きが無いと言う事が、大丈夫と言う証だと、
おチビ達に言い聞かせ、他の大人達にも笑顔を見せていた。
聖女としての顔か?
リリーは偉いな・・・ホントは不安だろうに。
面倒事は俺が背負うって言ったけど・・・俺はダメだなぁ。
おチビ達も、案外平気なようで、
明日の引越し、遠出を楽しみにしながらも、
荷造りにはあまり熱心では無かった。
祭壇のおもちゃは、そのまま置いて行くらしい。
ドラカンさん達は、子供達を寝かしつけ、
詰め所での番と荷造りを始めた。
その夜、俺達若手6人は、ダンジョンでMPを使っているから、
明日に備えて速く寝ろと、子供達同様、寝かせられた。
俺とダンザ、ハチム、シュンツは、
ダンザの部屋に集って、少し話し合った。
ダンザの話では、
たぶん、明日ドラカンさん、オーラスさんは、
俺達と一緒に、逃げないつもりだろうと言う。
ハチムもシュンツも言った。
この集落の女性陣と子供、若手の俺達を逃し、
ターク神父達と、領主と騎士団員を生け捕りにし、ダンジョンに葬る。
生け捕りに出来なくとも、ターク神父と共に、
騎士団と領主を殺すつもりだろうと。
鑑定で人殺しと出るようになれば、今まで以上の苦境だ。
冒険者の爪弾き、PTの生き残りどころの話ではない・・・。
今でさえ町に住んで無いのに、町に住むどころか、
鑑定される可能性がある限り、人前に出る事が出来ない。
そうなっても、ターク神父と、
その恩で暮らして来たドラカンさん達は、
騎士団と戦い、ダンジョン爆破、スタンピートを止めるだろうと・・・。
ダンザとハチムは、真剣な表情で俺に言った。
リリーを逃す、子供達や俺達を逃す事が、一番大事な事は判っていると。
それでも、もし、ドラカンさん達が、騎士団と戦う事になったなら、
ダンザとハチムは、ドラカンさん達と共に戦うつもりであると言う。
そして、俺にもシュンツにも協力して欲しいと、
ギリギリまで逃げずに、共に居て欲しいと。
シュンツは、承諾した。
俺は、明日の相談しだいだと言って、
判断を先延ばしにするしかなかった。
一方、その頃。
リリーとマメダ、そしてラリーサも、
リリーの部屋で話し合いをしていた。
大学芋を部屋に持ち込み、3人で摘みながらであった。
ラリーサは、何の心配も無い様子で言う。
「大丈夫よ。
おじいちゃんとおばぁちゃんが、居るんですもの」
リリーは、少し心配な顔で言った。
「子供達にはああ言ったけど、
襲われるとなると、やっぱり怖いわ」
マメダも、言う。
「そうね・・・でも、逃げればいいのよ。
何も私達が戦う事は無いわ」
リリーが、マメダに向かって言う。
「それでは、魔物が溢れて、
隣村や町を襲うかも知れないわ?」
ラリーサは、大学芋をパクつきながら言った。
「平気よ、もしそうなっても。
この辺りの魔物なんか、おばぁちゃん達が居れば何でも無いわ」
マメダが、少し呆れた様に言う。
「まぁ、冒険者ギルド長、バイロンさん達だものね。
それにしても、ラリーサちゃん?
アンタは何しに来たのよ」
ラリーサは、大学芋を飲み込みながら言った。
「それなのよ、
おばぁちゃんが、お嫁に行けって言うの」
リリーが、聞き返す。
「お嫁?」
ラリーサは、次の大学芋を口に入れながら言う。
「神のお使いの人と、アタシを結婚させて、縁を結びたいらしいの。
アルファさんでしょ?お使いの人。
困っちゃうわ、私は、おじいちゃんみたいな人がいいのに」
襲撃前夜のガールズトークは、あらぬほうに話が進んで行った。
翌朝を迎えたドラカン集落は、
早朝から集落を捨てる準備をしていた。
昼前には、4台の荷車に、衣類や日用品食料品、
武器防具、倉庫にあったポーションや貴重品等、
金目の物は全て積み込み、準備が整う。
もちろん、防御壁なんか、
木を切ればいくらでも作れるから捨てていく。
準備が整うと、俺が荷車ごと、丸々2t強のアイテム収納に入れ、
元冒険者の4人とハーネさんラリーサを集落に残して、
30分ほど先の、一時避難先に向けて出発した。
俺達若手PT6人は、一時避難先に着くと、
荷車と、おチビ達や犬達、トンバーさん達をそこに残し、
ドラカン集落に戻る。
おチビ達は、遠足気分で遠出を楽しんで居た。
なんだか、俺はそれを見て、気が楽になった。
そうさ、逃げればいい、他所に行くだけの話だ。
出来れば、ダンジョン爆破を防げれば良いが、
それは俺達には、本来関係が無い。
俺達若手6人PTが集落に戻ると、
タークさんバイロンさんダフリーさんが、集落に到着していた。
トーシさんは、騎士団の監視中らしい。
俺は、トンバーさんが早朝から準備した昼食をみんなに配り、
昼を取りながらの、ダンジョン爆破阻止会議が始まった。
その頃、イーハンでは、
領主バップと騎士団が、東村に向けて出発をしたところであった。
トーシの得た情報だと、騎士団はイーハン隣村に入り、
そこで早めに夕食を済ませ、夕刻にまた移動を始めるとの事であった。
騎士団の移動速度は遅い、極秘で作戦を遂行する為、
荷運びに自警団を同行させないからである。
騎士団自らが、3台の荷車を曳き山中に入る。
ドラカン集落までの道は、馬車が使えないのだ。
トーシは、騎士団に先行し、山中で監視を続ける。
夕刻前に、領主バップが率いる騎士団は、
イーハン隣村に到着した。
イーハン隣村の商人ニボガッツには、
昨日の夕刻に、領主バップが騎士団を連れ、
村に訪れるとの連絡があった。
東山にダンジョンがあり、
それを潰す為に、直々に領主が来たとの報である。
寝耳に水、一番近い自分達でさえ、掴んでいない情報であった。
東山にダンジョンがあると言う話に、
ニボガッツも村もザワついた。
しかも、バップと騎士団が、それに対応すると言う。
おかしいのだ、
前にダンジョンが発見された時は、
冒険者ギルドに排除を依頼した。
おかしいのは、それだけでは無い。
荷運びや戦闘員に自警団が狩りだされず、
騎士団だけの行動。
夕飯後に、ここを出発?
急ぎなのか?昼にイーハンから出発で?
荷車を見るに、持ち運ぶ食料は少ない、
何日も山に篭る訳でもなさそうだ。
ダンジョンは、村からそう遠く無い?
何もかもが、おかしい。
ニボガッツは、領主と騎士団の異常な動きに、不審を覚えていた。
とにかく、領主達の監視と、ドラカン集落への知らせを、
村の自警団に命ずる。
ニボガッツは、村を支える大きな産業、
この村唯一の酒造商人である。
村長を凌ぐ、村の実力者であった。
ニボガッツの命を受け、村の自警団の者が2人、
騎士団に悟られずに、東の山に入る。
ドラカン集落への使いと、
山中に潜伏し、領主達の動きを監視する者であった。
隠密行動を取る、村の自警団の2人は、
村よりそう遠く無い東の山中で、不意に声を掛けられる。
声を掛けたのは、元冒険者、現冒険者ギルド職員、
イーハンの自警団の要、トーシであった。
トーシは、ここまでの状況を2人に説明し、
1人を自分と同じく、この場に監視として残し、
もう1人を、今の状況をターク神父達に伝えるべく、集落に走らせた。
日は傾きつつあった。
領主バップと騎士団は、ドラカン集落を襲い、
ダンジョンを爆破せんと、
イーハン隣村を出発する準備に掛かっていた。
イーハンの東の地、山深い森の中で、
襲わんとする領主バップと騎士団。
護らんとするイーハン連合と、シガラキ教徒の衝突が、
始まろうとしていたのである。
さらっと、斜め読みでも、読んで貰って有り難いっす。
なんぞ、いいねやら、感想やら、ブックマークやら、
星5やらw頂きたいっす。
反応無いと、便所の落書きだものねw
逃げるか逃げざるべきか?
さて、どうなることやら。




