第91話。目映い程の光と忍び寄る影~領主の悪巧みと草の根の働き
アルファ達が、スタングレネードと言う新兵器を手に入れたその日、
ドラカン集落に一番近い町、イーハンに激震が走った。
イーハンを含むこの地方の領主バップが、
昼過ぎに騎士団15人を連れ、
前触れも無くイーハンに現れたのだ。
領主バップが、イーハンを訪れる事など、これまでほとんど無い事であり、
それだけでも、町の者は動揺し、何の為に来たのかと噂話となるが、
事はそれだけでは済まなかった。
領主バップは、町に触れを出したのである。
・イーハン東村より東、山中にダンジョンが出来ていると報有り。
・そのダンジョンを潰す為、騎士団を従えて領主直々にイーハンに入った。
・明日、騎士団と共に東の地に向かい、ダンジョンを排除する。
大まかに、こう言った内容である。
イーハンの町の者は、
もう、15年ほど前の事ではあったが、
東山にダンジョンが出来ていた事を知っていた。
それだけでは無い。
そのダンジョンは、浅く小さなものであった事。
冒険者に依頼して、ダンジョンの排除に成功した事。
そのダンジョン跡に、タヌキ族の元冒険者が住み着き、
自然発生する魔物を駆除して、細々と生活している事。
町の者は皆、承知していたのだ。
その集落が出来てから、魔物が出る頻度が激減し、
ダンジョンはおろか、魔物の影におびえる事は無いと、
イーハンの者は、安心していたのである。
それでも、東山にダンジョンが出来ていたと言う。
それも、領主バップが、直々に騎士団を連れて、
現地に乗り込むほどのダンジョンが・・・。
イーハンの中は、この話題で持ちきりとなった。
イーハンには、騎士団とは違う、
地元出身者で構成される、自警団がある。
文字通り、町を自らで守る住民の集りだ。
自警団は、騎士団の下部組織とも言えるが、
その実態は、領主の命の下、タダ働き、下働きをさせられる、
町の者と言う事も出来る。
その自警団が、今回の件で異変を感じ取っていた。
明日のダンジョン排除に、自警団の同行を命じられなかったのである。
通常であれば、荷運びや戦闘員として、狩り出されるはずであった。
また、東山にダンジョンが出来ていると言う報が、
何処からもたらされた物であるのかも、謎である。
当の自分達、現地の自警団さえ掴んでいない情報だからであった。
自警団の一員が、その事を探るべく、
騎士団詰め所の屋根裏に潜伏し、内情を探る。
人払いをした、騎士団詰め所の一室で、
領主バップと、バップ直属の騎士団、分隊長ターハイが、
元々イーハンに派遣されている騎士団員10人に向けて、
事情説明を行い始めた。
騎士団分隊長ターハイが、騎士団員を前に小声で言う。
「今回の事は、色々と裏があってな・・・。
順を追って説明しなければならん」
領主バップは、奥の椅子に座り、黙ってそれを見ていた。
分隊長ターハイが、説明を続ける。
「事の起こりは、東村の先にダンジョンが隠されて居た事だ」
イーハンに派遣されていた騎士団員に、動揺が広がる。
ターハイは、手を動揺する騎士団員にかざし、話しを続ける。
「まぁ聞け。
この件は、ライツ教主戦派が、裏で糸を引いている。
ヤツらは、我ら神聖なるライツの地に、
ダンジョンを植え込みおったのだ」
それを聞く騎士団員に、更なる動揺が広がる中、
ターハイは続けた。
「それだけでは無い。
主戦派のタークは、そのダンジョン近くに、下賎なる獣人を住まわし、
その獣人が、事もあろうか、この神聖なるライツの地に、
獣神を生み出したと言う」
それを聞く騎士団員と、屋根裏の自警団員は、
あまりにも、急な話しに、動揺せずには居られなかった。
領主バップは、椅子から立ち、騎士団員に向かって進みながら言う。
「我らは、この神聖なるライツの地を、穢れから守らねばならん。
ダンジョンと言っても、この地に植え込まれたのだ。
浅く小さなもの、恐れるに足りぬ」
バップは、ターハイに並び、騎士団員達の近くで小声で言った。
「また、汚らわしき獣人共も、その獣神も、排除せねばならぬ。
ここは、我らが地、神聖なるライツ国である。
その準備は整えて来た。
貴公らは、明日我らと共に、獣人と獣神を排除に向かうのだ」
騎士団員は、領主バップから命を受け、片膝を着く。
それを見届けたバップは、横に居るターハイに向かって言った。
「後は任せたぞ、ターハイ」
分隊長ターハイは頷き、騎士団員に向かって小声で言った。
「細かい手はずは、これから伝える。
何、簡単な仕事だ。
獣人共を殺さず捕らえ、ダンジョンに閉じ込める。
それだけの事だ」
領主バップは部屋を出て、
連れて来た騎士団員を引き連れ、宿に向かった。
領主バップが去った、騎士団詰め所の一室では、
元々イーハンに派遣されていた騎士団員が、ターハイと話しを続ける。
屋根裏では、自警団員がその話を盗み聞きしていた。
分隊長ターハイが、崩れた口調で言った。
「閉じ込めた獣人共は、魔物が片付けてくれるってぇ訳だ」
嫌な門番、ダンザを槍で叩いたゴロンが、答える。
「へへ、攫った中には、女も居るでしょう?」
ターハイは、少しニヤリとし答えた。
「フッ、そこらはまぁ好きにしろ」
ゴロンが、周りの同僚に向かって言う。
「東のタヌキなんぞ、大した事無いわ。
10人居るかどうかだ。
元冒険者?ヘッ!何が冒険者だw
仲間を見捨てた卑怯者、生き残りの集まりだww」
周りの同僚も口々に言う。
「ダンジョンっても、10階も無いだろ?」
「前に出来てたのは、噂じゃ5階も無かったハズだ」
「攫って、魔物にくれてやれば、
俺達が殺した事には、ならんのだろ?」
「ああ、鑑定でも殺人とは出まいよ」
「タヌキ集落を襲うのは良いが、それでも元冒険者だろ?
殺さずに捕らえるとなると、面倒なんじゃないか?」
ターハイが、素の崩れた口調で言う。
「何、心配いらねぇよ。準備して来たって言ったろ?
痺れ毒と爆薬を、準備して来てんだよ」
ゴロンが、ターハイに向かって言う。
「痺れ薬ですかい、そいつぁいい。
爆薬は、何に使う手ハズですかい?」
ターハイが、悪い顔をして言う。
「ダンジョンはな、明日潰さねぇのさ。
縛り上げた獣人を閉じ込めて、入り口を爆破する計画だ」
ゴロンが、少し不安そうに言う。
「へ?そんな事したら、
ダンジョンが暴走するんじゃないすか?」
ターハイが、騎士団員全員に向かって言う。
「そうさ、溢れさすのさ。
そうなりゃ、隣村に被害も出るだろ。
その魔物から、この町を救うのが、俺達騎士団って事だ」
それを聞かされた騎士団員達に、動揺が走る。
それを見た、ターハイが、安心さす様に続けた。
「はは、浅いダンジョンだ、大した事にはならんさ。
被害を出したダンジョンを、
植え込み、隠していた、主戦派をおとしめ。
町を救った俺達の株が上がるって寸法だぁな」
ゴロンが、ターハイに尋ねる。
「事が終わるまで、ターハイ分隊長達が、
イーハンに居てくれるんすね?」
ターハイは、頷きながら言った。
「ああ、お前らも協力して貰うが、
まっ、雑魚が流れてきたら、この町で待ち構えて狩る。
溢れた雑魚が減ったら、ダンジョンを潰すって事だ」
屋根裏の自警団員の下では、
ターハイとゴロン達の会話が続けられていた。
話の内容は、要約すると・・・。
明日の昼、東山に向けて騎士団が出発。
夜を待ち、ドラカン集落を襲撃。
痺れ毒で、集落全員を殺さぬように捕らえ、縛り上げる。
翌朝、ゲンコツダンジョンの奥に、置き去りにする。
騎士団は来た道を戻り、ダンジョンの入り口を爆薬で破壊。
入り口が塞がれている間、ダンジョンが魔物を吐き出す前に、
イーハンに逃げ帰る。
こんなシナリオであった。
屋根裏で、全てを聞いた若い自警団員は、
どうしたら良いか判らなかった。
余りにも急な話、余りにも予想外な話であった。
それでも、下の部屋での話が終わり、人気が無くなると、
こっそりと屋根裏から出て、話の内容を知らせに走る。
走った先は、冒険者ギルドであった。
そこに居る男にまずは伝えるべき、一番頼りになるのは、
その男であると、若い自警団員は思っていた。
その男は、アルファを冒険者登録した、
無愛想な窓口のおじさんである。
名を、トーシと言う、見た目普通のおじさんであった。
トーシは、この町の生まれ、元冒険者であり、
自警団、元団長でもあった。
その後、冒険者ギルド職員となり、
この町に起こる面倒事を、
自警団などと共に、影で解決している男である。
トーシは、若い自警団員から話を聞き、判断を迫られた。
ダンジョン爆破による、町や隣村の被害を思えば、
このまま、放置して置く事は出来ない・・・。
しかし、どう、その計画を止めれば良いのか。
自警団や町の者が、領主や騎士団とぶつかる訳には行かない。
事の起こりが、話の通りならば、
ライツ教内部の権力争いとも言える。
東山に光臨した獣神と言うのも、トーシの手に余る話であった。
時間は無い、事が起こるのは明日の夜である。
トーシは決断した。
冒険者ギルド長バイロンと、その妻ダフリーに話を通し、
そこから、ターク神父にも話を持って行く、と。
バイロン、ダフリー、タークは、
若い頃から引退まで、PTを組んだ仲であり、高レベル冒険者だった。
特にタークは、この話の関係者、ライツ教実力派の神父であり、
自分達の植え付けたダンジョンから、町を守るべき立場である。
トーシの立場は、ライツ教内部の権力争いや、
獣人集落や獣神と、差別意識のあるライツ領主とのイザコザは、
酷い言い方だが、どうでも良い。
それどころか、危険なダンジョンをこの町近くに植え付けていた、
ターク神父一派に、怒りを覚えている。
トーシは、生まれ故郷であり、今も住むこの町、
イーハンの平穏が守られれば良いのだ。
トーシは、バイロンギルド長の居る部屋に向かって、歩き出していた。
さらっと、斜め読みでも、読んで貰って有り難いっす。
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星5やらw頂きたいっす。
反応無いと、便所の落書きだものねw
巨悪とスパイ!
かっちょいいw




