第七話。町、後編~ハーネ商会と買出しと教会での神との交信
商業ギルドも、何の問題も無かった。
シュンツ君が、全部やってくれたからだ。
窓口に向かい、ランク一番下、
露天商の手続き申込書を、シュンツ君が書いた。
場所を借りるのは別料金、
今年の年末までの、一年分の登録料だけで小銀貨一枚。
あとは、鑑定とペンダントヘッドに、
情報を刻み込む作業だ。
小銀貨が、いくらくらいの価値か、
シュンツ君に尋ねたところ、力仕事の日当くらいとの事。
さっき食べた昼食が、小銅貨六枚・・・、
千円足らずと言ったところか。
小銅貨十で大銅貨、
それが十枚で小銀貨、
十枚で大銀貨、
十枚で小金貨、
十枚で大金貨と続くっぽい。
小銅貨百円、
大銅貨千円、
小銀貨一万円、
大銀貨十万円、
小金貨百万円といった感じか。
大銅貨千円、小銀貨一万円と覚えておけばいいか。
登録が終わると、ペンダントヘッドと冊子を渡された。
ギルド証と商人心得と言ったところか。
用事は済んだな。
俺は、シュンツ君とハーネ商会に戻る事にした。
ハーネ商会に戻ると、倉庫脇の丸太が3つに切られていた。
いきなり大きな丸太が現れた事を隠す為、
シュンツ君が指示していた様だ。
事務所に向かったが、ハーネさんはまだ戻っていなかった。
もう少しハーネさんを待つ事として、
犬を連れ倉庫に戻り、
待っている間、シュンツ君がメモを片手に荷の査定を始めた。
果物、魚の燻製、イノシシとシカの燻製肉、ウサギ、イノシシ、
シカの毛皮、木炭、木の食器、陶器の食器や壷・・・丸太と魔石。
シュンツ君の査定が終わる前に、ハーネさんが戻って来た。
美しく品の良い中年女性である。
「シュンツ、こちらの方かしら?」
「はい、アルファさんです。
ドラカンさんからの手紙をお持ちのようです」
アルファはハーネに進みより、メモを出して言った。
「お初にお目に掛かります。
アルファと申します。
こちらがドラカンさんからのメモです」
メモを受け取りながらハーネは言った。
「初めまして、ハーネ商会のハーネです。
ドラカンさんから・・・」
しばらくメモを読み、アルファに話しかけるハーネ。
「アルファさんは、メモをお読みになりましたか?」
「いえ、ハーネさんへのメモとの事で読まなかったっす」
「ドラカンさんから、鑑定ウインドウを見せて貰えとの言伝ですが、
・・・私を鑑定して頂けますか?」
「はい」
アルファは、ウインドウを出してハーネを鑑定した。
ハーネ、商人、元冒険者、Lv22、40歳・・・。
アルファは、ハーネに鑑定ウインドウが見えるように、半身となった。
ハーネは、ウインドウを覗き込む。
「・・・確かに・・・詳しい鑑定のようですね・・・、
文字化けが凄い」
「はい、特殊鑑定っす」
査定が終わったのか、
シュンツもウインドウを覗き込み言った。
「大きなウインドウですね・・・
ほぼ読めませんが、凄く詳しい鑑定のようですね」
「アルファさん、ドラカンさんからのメモには、
山神様の使いかも知れない、とありました」
アルファは、ドラカンがハーネを信用していると踏んで、
正直に事情説明をした。
「はい、タヌキ族を盛り立てる様に、との事で、
今日、神様から使わされたっす」
シュンツが、驚きを隠せない顔で、ハーネに向かって言った。
「山神様からの使い・・・ですか。
異常な量のアイテム収納を見て、
普通ではないと思ってお待ち頂きましたが。
・・・文字化けする、大きな鑑定ウインドウまで見せられては・・・。
嘘とは言い切れないですね」
「シュンツ、良くお待ち頂きました。
あの丸太を運び、我々より詳しい鑑定が出来る・・・。
ドラカン集落だけでなく、
ハーネ商会にとっても、ありがたい方となって頂きましょう」
「はは、神の使いではあるんですが、
たいした力は頂けませんでしたので、
お役に立つかどうかは正直わからないっす」
シュンツが、ニコリとして言う。
「あの大木を収納できるだけでも、
大きな利益が期待できるのですよ」
シュンツが、続けてメモを差し出し言う。
「今回の荷ですが、この値でいかがでしょう」
品、数量、単価など、色々書いてある。
合計、大銀貨一枚、小銀貨七枚ちょっと、
たぶん十七万円くらいだ。
「相場が判りませんので、
外のドラカンさんに見て貰おうかな・・・
うーんいいか・・・シュンツさんを信用するっす」
「有難う御座います。
ドラカンさんも外にいらっしゃるなら、
そちらで確認したほうがいいですね。
本日のギルド登録費用は、当商会のサービスとさせて頂きます。」
「あ、売値から差し引いてください」
「いえいえ、アルファさんへの先行投資です。が・・・
その件も含めて、ドラカンさんと相談と致しましょう」
ハーネが、シュンツをうながす。
「ええ、それが良いわね。シュンツ行ってらっしゃい。
アルファさん、イーハンにお越しの際は、
またハーネ商会にお寄り下さいね」
「はい、また寄らせて頂きます」
「さぁ、アルファさん、南門の外ですね?」
俺は、空の荷車を、一つアイテム収納し、
空になったもう一つの荷車と犬を引き、
シュンツ君と南門へ向かった。
南門に、嫌な門番ゴロンは居なかった。
別の門番に、ギルド証を見せると、すんなりと出入りできる。
シュンツ君も居るし、出るからか?
獣人キャンプは、
南門を出て、西側にちょっと行った所にあった。
極東街道の商隊に、同伴する荷運びの人足や、
護衛のたまり場のようだが、人は少なかった。
夕方から朝まで賑わうのだろう。
キャンプには、ドラカンさん達が居た。
ダンザが倒れている・・・リリーとマメダに顔を扇がれている。
ドラカンが、アルファ達を見つけて手を挙げて笑顔で言う。
「バイロンさんに、しごかれてのびちまっただーw」
「こんにちわ、ドラカンさん」
「ハーネさんにメモ渡せました。
荷の売値が判らなかったので、
シュンツさんに出向いてもらったっす」
「おーそうだか、悪かっただね、シュンツ君」
シュンツが、ドラカンに、荷を査定したメモを差し出しながら言う。
「いえいえ、アルファさんをご紹介頂き有難う御座います」
メモに目を通しながら、ドラカンが答えた。
「ほほーう、丸太を高値で買ってくれるだな」
「はい、人足四人と馬二頭、一日分と計算しました」
アルファは、ギルド証であるペンダントを、
ドラカンに見せながら言う。
「両ギルド登録料、小銀貨二枚もサービスって言うんすよ」
シュンツが差し出す銀貨を受け取りながら、ドラカンが言った。
「ずいぶん見込まれたようだだな、
アルファ。まぁ有難く頂いて置くだ」
シュンツが、ニコリとしながらアルファに言う。
「ドラカンさんの承諾も得られましたし、
お受け取り下さい。先行投資です」
続けてシュンツが、ドラカンに向かって言った。
「他にイーハンに御用は御座いますか?」
「うーん、アルファの身の回りの物を揃えるだか」
ドラカンが、アルファに、
今受け取った銀貨を渡しながら言う。
「シュンツ君に付き合って貰って、買い物して来るだ。
靴、靴下、下着、シャツ、
革の上着、革の帽子、革手袋、杖・・・そんなもんだか」
「色々悪いっすね、シュンツさん。
付き合って貰っちゃっていいすか?」
「いえいえ、では買出しに向かいますか」
アルファとシュンツは、イーハンに買出しに戻る。
イーハン中央北西には、二十軒ほどの小さな商店街があった。
俺は、目に映るもの、片っ端から、
ウインドウ無しで商品を鑑定して行ったが、
忙しい・・・目が回る。
鑑定結果に値段は無かった。
大体の相場は鑑定出来たが、
値は確定じゃないようだ、当たり前か。
まぁシュンツ君が居るから、
ボられる心配は無いだろう。
まずは、シュンツ君お勧めの衣料品店からだ。
イーハンは、農産国の街道の宿場町とあって、
品は豊富で布製品は安いらしい。
ウインドウ無しで手当たり次第に鑑定してみたが、
どれも性能は変わらない、
衣料品に見所は無かった。
サイズの合う安めの物を、ささっと選ぶ。
靴下二足、下着二枚、長袖シャツ一枚で、
大銅貨七枚、七千円といったところだ。
大量生産、大量消費の世界じゃないのだから、
安いと言っても案外するものだな。
買ったものは、アイテム収納に入れたので手ぶらw
楽でいい。
すぐ隣の革製品の店に移った。
革製品は、布製品の二~三倍くらいが相場だそうだ。
こちらも手当たり次第に鑑定してみたが、
耐久度と防御力に少しばらつきがあった。
シュンツ君の鑑定では、
防御力は判るが耐久度は判らないそうだ。
防御力をメインに、
耐久度が高く、サイズが合うモノを選んだ。
革帽子、革上着、革手袋、革靴で、
小銀貨一枚と大銅貨九枚、
一万九千円といったところか。
結構高い様に感じるが、
シュンツ君の話では、やはり安いとの事。
サンダルをアイテム収納に入れ、
買った革製品はその場で装備した。
最後は、杖。
商店街の中にある、冒険者が使う武器の店に向かった。
さすがだ、色々な品物がある。
短剣、小剣、長剣、両手剣、
片手細ヤリ、両手ヤリ、
小弓、大弓、
・・・これらが数本ずつある。
片っ端から鑑定して行ったが、
結構な品揃えで目が回るw
シュンツ君は、ここらは平和で、武器の需要が少ない、
小さな店だと言うが、俺には中々の品揃えに見える。
店の奥の壁に、剣やヤリが数本飾ってあった。
鑑定してみると、追加効果が付いた特別なモノだった。
杖の需要は少なく、
たいした品揃えは無いとの事だったが、
二十数本の中から選ぶ事となった。
木製の杖が多いが、金属製の杖も五本あった。
金属製の杖は値が高い・・・。
木製と比べ値段が十倍はしたが、
性能が十倍という事は無かった。
シュンツ君いわく、耐久性に優れるし、金属は値が高い、
杖に限らず、金属製品は値が張るらしい。
片っ端から鑑定してみると、結構性能にバラツキがあった。
魔力の増幅、集中力が上がる、耐久力のバラツキ、
魔法属性と相性があるもの・・・。
悩む・・・これは悩む・・・。
全部装備させて貰い、悩みに悩んで、
木製二本にしぼったが、どうにも決められない・・・。
一本は、地面から俺のヘソほどの長さ、
土属性と相性が良いが、他の性能は標準的。
もう一本は、背丈ほどの長さ、
聖属性と相性が抜群な上、他の性能も相当良い。
土属性の方は安い・・・大銅貨六枚、六千円か。
聖属性の方は割高・・・小銀貨一枚と大銅貨五枚、一万五千円・・・。
シュンツ君がニコリと笑いながら言う。
「両方買われてはいかがですか?
他の物も含めた合計で小銀貨五枚弱、
小銀貨六~七枚ほどの材木の利益は超えませんから、
ドラカンさんも了承なさると思いますよ」
「うーん・・・二本ともか・・・」
「イーハンは、街道の宿場町です。
品物は、すぐ他の町に流れていきます。
今度買おうと思っても、たぶんもう買えませんよ」
俺は、思い切って二本とも買う事にした。
二本とも買うのだからと、
シュンツ君が、合計小銀貨二枚に値切ってくれるw
聖属性の長いほうをアイテム収納し、
土属性の短いほうを左手に装備した。
買い物を終え、南門へ向かうアルファとシュンツ。
中央広場に差し掛かった辺りで、
アルファが思い出したように言った。
「あ、教会に寄りたいっす。
神様に挨拶しといた方が良い様な気がするっす」
「そうですか、
では、礼拝堂に向かいましょう」
中央広場が、教会であり、学校であり、孤児院でもあった。
時刻は昼過ぎ、学校を終えた三十人ほどの子供達が、
中央広場で遊んでいた。
教会の前に、子供達を見守る、黒服の一人の老人が立っている。
シュンツが挨拶する。
「ターク神父。こんにちわ」
「やぁ、シュンツ君」
「こちらの方が、
礼拝したいそうなんですが宜しいですか?」
「アルファと申します。
こちらの信徒と言う訳ではないのですが、
礼拝させて貰っていいすかね?」
「はい、構いませんよ。
旅の冒険者が礼拝なさるのは感心な事です」
アルファは、ウインドウを出さずに、神父を鑑定した。
視界の鑑定結果をささっと、読んで行く。
ターク、62歳・・・ライツ教僧侶・・・
Lv66・・・元冒険者、クラスB・・・。
冒険者ギルド長、バイロンと同じくバケモノだ。
シュンツが、アルファを教会の中に先導する。
「では中に失礼します」
「失礼しますっす」
教会の中は、静まり返っていた。
奥のライツ像の前に、礼拝中の人が数人居る。
シュンツが像の前に進み、
賽銭箱のような物に大銅貨を一枚入れ、
片膝を着いて手を目の前に組んだ。
アルファもそれにならい、心の中で神に語りかけた。
「神様、タヌ神様・・・
転生して、順調にドラカンさん達と合流出来たっす。
有難う御座います」
アルファの頭の中に、声が聞こえる。
「うむ、来たか。
転生初日に礼拝に来るとは感心じゃのう」
「あ、管理職の神様ですね」
「うむ、そこはライツの窓口じゃが、
お前を送り込んだ責任上、わしが応答しておる」
「タヌ神様にも、お礼とご報告がしたいのですが、
いらっしゃらないっすか」
「おるんじゃがな、コレは下級神じゃ、
姿も名前も持っておらぬ。
人語をしゃべる事さえ、許可されておらん存在じゃ」
「『山神様』とドラカンさん達は言ってましたが、
それがタヌ神様で合ってるのでしょうか?」
「そうじゃ、お前の居る所より東の大山と、
周辺を管轄する土地神じゃ。
ドラカン達が住み着き始めたので、目をかけておったようじゃ」
「土地神・・・なるほど・・・、
タヌキの神様って訳じゃないんすね」
「そこじゃ、タヌキの神ではないが、
タヌキの神とする事が出来るぞ」
「ん?どういう事っすか?」
「姿と名前じゃ、姿と名を与え信仰すれば、
タヌキ族を守護する神ともなろう」
「ふーむ・・・土地神としての神は元々居るのだから、
姿と名前と信仰で、
タヌ族を守護してくれる存在になって貰えばいいんすね」
「土地神の側に拒否権もあるが、むしろ望んでおる。
目をかけるドラカン達の為じゃし、
姿と名と信徒を得れば、神格も上がる」
「判りました、山神様にお伝え下さい。
姿と名を準備し信仰しますので、
ドラカンさん達、タヌキ族を守護する神となって頂きたいと」
「お前に話しかけられぬだけで、
お前の思いは山神に伝わっておるよ。
アルファ、お前はワシと山神の使いじゃ。
タヌキ族を助け、盛り立ててやってくれ」
「はい、では、そろそろ失礼します。
色々有難う御座いました。また礼拝に来ます」
「うむ、見ておるぞ神の使いよ」
目を開けると、シュンツ君が横に立っていた。
「長い礼拝でしたね」
「神と交信してたと言っても、信用は出来ないっすよね?」
「うーん・・・保留としておきます」
「もしかしたら、
タヌキ族を守護する神が、生み出せるかも知れないっす」
「神を生み出す?・・・ですか」
「まぁ・・・保留としといて下さいw」
礼拝を終え、アルファとシュンツは、ドラカン達のもとへ向かった。
さらっと、斜め読みでも、読んで貰って有り難いっす。
いいねやら、感想やら、ブックマークやら、レビューやら、
星5やらw頂きたいっす。
反応無いと、便所の落書きだものねw
やっと町が終わる。