~最終幕:遺志~
ルーシアにはこんな伝記も残っている。ローズマリーの元を離れたイデオールはレイジ地方に移り住み、漁の仕事をする傍らで船作りにも精を出していた。
ある日、彼は「幻の島を見つけにいく!」と漁師仲間のマックス・バベルスに話して海へ出た。
「お前さん、冗談で言っているのか?」
「冗談じゃなくなるかも。そうなればマックスさん、僕と貴方が話を交わすのはコレが最後になるかもしれない」
「へ?」
「何か話しておきたい事はあるか? 僕に言っておきたいことでも」
「急に言われても……逆にアンタが言い残したい事はあるのかい?」
「言い残す事か……1つだけあるな」
「何だよ」
「人の夢は終わらねぇ!」
「あっはっは! 見事な遺言だ! 死ぬにしても惨めに死ぬなよ~」
イデオールはマックスに笑顔で手を振って出航した。長年で作り上げた船とはいえ、お粗末な小舟だ。それでもマックスは何故か彼が幻の島に到達してしまいそうな気がして仕方なかった。彼の首飾りが鮮明に碧く海を照らすようにして、光り輝いていたからだ――
そして彼はそのまま帰ってこなかった。
人々はそんな彼を笑いものにした。大海にでて帰ってこない者、あるいは水死体となって還ってくる者を「ネイマーロ・チャレンジ」と謳って、海の恐ろしさを後世に伝えていった。しかし彼らが「イデオール・チャレンジ」と言わないのは心のどこかで彼を讃えているからかもしれない。
マックスは今日も大きな魚を釣った。
「あ~、何だったっけ? カトロスと、マドロスと、なんたらロスだっけ?」
老人の瞳は輝いていた。
人の夢はきっと終わることがないのだろう――
∀・)読了ありがとうございました♪♪♪イデオールとレイジンの対比がテーマに直結した物語かもしれません。何を以てして「英雄」とするのか?それは真の自由を手に入れた者に対してなのか、それとも世を圧倒的な力で導く者に対してなのか。現代日本人の感覚だと前者だと思うんですけど、イデオールが結局どうなったか分からないのがミソなんですよね。そして螺子の首飾り(笑)でも螺子を大事な物として装飾物にさせちゃう感じ……我ながら好きでした。他にも色んなギミックを入れた作品になりました。本作の世界観に興味を持たれた方でまだ未読の御方はぜひ拙作『嗚呼なんて素敵な女神様』も併せて読んでみてください☆☆☆彡