~弐幕:慟哭~
魔法陣の中に入り数分後、彼の身体中にあった傷はみるみる癒えた。彼女に話を聞くと敵の軍勢はバラグーン残党コリン・アーミーの一味だろうとの事だ。コリンズは北部へバラグーン派の人民らを率いただけでなく、元々いる原住民も巻き込んでバラグーン勢の巻き直しを図っているのだと話す。
「お婆さん……あなたは……」
「生まれも育ちもこのモスラさ。ここで誰にも見つからず、ひっそりと暮らしているババァだよ。イデアは元々ここで生まれて育った。私は彼女の姉のような者。話せば長くなるが、どうだい? ここでアンタもひっそりと生きてかないかね? おっと、どこへいくのだい?」
「家の様子をみにいく。母さんがどうなっているのか心配だ」
「やめなさい。行ったって悲しくなるだけだぞ!」
「離してくれ! それでも僕の家と僕の家族だ! 確認ぐらいさせてくれ!」
イデオールは老婆の優しく掴む手を振り解いた。
そして村に戻った彼は目にする。無惨に破壊された家と母の遺体を。
その被害は彼の漁師仲間達にも及ぶ。なんと彼の村そのものが破壊されたのだ――
彼は大声で泣き叫んだ。そして亡き友の亡骸の手を掴み、その焼け跡の黒炭を目に覆わせた。そして彼の目には一生消える事のない影をつける事となる。
「どうするのだい?」
「お婆さん……ついてきていたのか……」
「ついていかないと、勝手な事をするのだろう?」
「僕に何かさせないつもりだったのか?」
「逆に聞きたいさ。何かするつもりなのか?」
「父の形見を……首飾りを取り戻す……」
「ああ、そうだね。私はそれがないことが1番気になっていた」
「お婆さん……アンタ……最初からあの螺子の事を知って……」
「アンタが取り戻したい理由と私が取り戻したい理由はきっと違うのだろうよ。でも、いずれにせよアンタ自身の為さ。力を貸そう」
「お婆さん……名前を教えてくれないか……」
「ローズマリー・ラベルス。ラベルス家の生き残りさ」
「イザベル・ラベルスの家系!?」
「彼女は私が殺されたと想っているのだろうがね。話せば長くなる。魔法は生まれつき魔女の女にしか使えない。しかしアンタを強くする事はできるよ」
泣き崩れたイデオールはローズマリーの手をとって立ちあがった。
ここから数か月後、ルーシアは想像を絶する脅威に脅かされる事になる――