~序幕:日常~
大世界ワルキューレ・トリスは800年の年月を経て人間が文明を営むようになった。デュオン公国と新興勢力バラグーンの戦争は女神アヴェーヌと国家参謀にして英雄視されている冷血の紅姫、イザベル・ラベルスの活躍を以てデュオン公国の大勝利に終わった。
バラグーンは全滅したかのように思われたが、その残党のドックス・コリンは人里離れた荒野の地、北部ルーシアに逃れて態勢を立て直す事にした。
北部ルーシア地方は総人口が300万にも満たない小国が連なった地方であり、冬は絶望的な程にまで雪が降りしきり、吹雪と積雪で冬眠生活を余儀なくされる。
南西にあるレイジ地方にまで来れば多少はマシな生活圏が確保されるが……
青年イデオール・ネイマーロ・ジュニアはルーシアが最北部、モスラーヤにて生を受けて育った。モスラーヤには貧しい領民が僅かながらにいるぐらいの静寂たる沿岸国であった。イデオールの父は既に他界しており、母からもらった父の形見である螺子の首飾りをいつも身に着けて漁に出ていた。
少し前までは10人も満たない漁師仲間と漁に出ていたものだが、ここ最近になって漁師がたくさん増えてきた。今ではその組の数が3桁を超えるほどまでに。漁の縄張りを巡って血なまぐさい争いも増えた。どうもバラグーン出身の者達が新天地を求めてやってきたとか。魔法を駆使して漁で成果をあげる女漁師までも現れた。世界全土で行われている魔女狩りから逃げて此処にやってきたのだろう。
イデオールは静寂を好んだ。しかし彼の想いとは裏腹に物々しい土壌が地域の全体で育まれているように感じていた。
仕事を終えたイデオールは南方に聳えたつ大山、モスラを仰ぎ見る。その壮大なる山に陽が沈むのを見とどけるのが彼の習慣だった――
彼は家に帰ると母の看病に勤しむ。彼の母は物心ついた時から病に伏せており、ずっと寝たきりの生活をしていた。
その晩もいつものように母の食事介助を終え眠りに就こうとした。
しかしここから彼は彼が想像もしてなかった出来事に巻き込まれるのだ――
∀・)黒森冬炎さま主催の「螺子企画」に応募する作品です。そして拙作『嗚呼なんて素敵な女神様』の世界「ワルキューレ・トリス」を舞台にした番外編の作品にもなります。ですが、前出の作品を読まてもいいぐらい本作は前出の作品からちゃんと独立したモノになってますので御安心ください。また本作のプロットに関してはみんな大好き茂木多弥様が僕の活動報告で提案したものを採用しております。茂木さまにも敬意を。最後までお付き合いください☆☆☆彡