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魔法香水は秘密の香り02

 ニールたちを見送り、ではヒオリも名前順に研究員を取り調べしようかと一同を見回した。

 すると視界のすみでヴェロニカがこちらに微笑みかけ、するりと近づいてくる様子が見えた。

 顔を彼女へ向けると、優雅な笑みを浮かべた美女はヒオリへ申し出る。


「……ヒオリさん、まず私を最初に聞き取りしてくださいませんこと?担当は貴女にお願いしたいわ?」

「え?」

「おい、ヴェロニカ、何を勝手なことを……!」


 途端に険しい顔をして声を張り上げたのは、残っていた男性職員の一人であった。

 彼ら以外にも敵意をむき出しにした職員たちが、今にも罵声を浴びせかからんばかりの表情でヴェロニカを睨みつけている。


 だがそのぴりりとした空気にもひるむことなく、赤毛の令嬢はちらりと彼らを見据える。

 極寒の土地かと思うほどの瞳だった。冷気に充てられたのか、すぐに職員たちの動きは固まる。


 ヴェロニカは冷たい眼差しのまま、唇に薄っすらとした笑みを浮かべ、惨さすら感じる優しい声で彼らに語り掛けた。


「リリアンさんがはじめに勝手を言いましたのよ。わたくしの順番を繰り上げてもらうくらい、別に構わないでしょう?」

「ぐっ……」

「ふふ。さあ、ヒオリさん、行きましょう」


 有無を言わせぬ態度で一同を黙らせ、ヴェロニカはヒオリの背を押して廊下へと歩き出した。

 ちらりと背後を見れば、リリアンを守るように立っていた連中は殺気をしまい、戸惑うように視線を彷徨わせている。


 何か文句をつけたいが、ヴェロニカにはかなわないと知っているのだろう。

 案外味方の少ない中に身を置こうと、この苛烈な博士は気にしていないのかもしれない……ひっそりとそう思った。


◆


 クロードが用意した別室は先ほどの会議室よりも小さく、詰め込まれた長机二つとパイプ椅子のせいかとても狭く見えた。

 薬学部門にもあるが、一対一のミーティングや面談などに使う部屋である。

 ヒオリは長机の一番手前の席に腰かけて、ヴェロニカにも座るようにうながした。


「さて、ヴェロニカ女史。私を指名したということは、何か話したいことがあったということですよね」

「ええ、そうですわ。貴女でなければならなかったの。しばらくはオフレコでよろしいかしら?」


 ヒオリの前に腰かけたヴェロニカは、唇に薄っすらとした笑みを浮かべたまま問いかける。

 記録されてはまずいことなのか?少しだけ眉間にしわを寄せてしまったが、「まあいいでしょう」と頷く。


 彼女は優雅に小首を傾げて「ありがとう」と礼を言うと、声を潜めて語り始めた。


「貴女はリリアンさんをどう思います?彼女について気付いたことを聞かせてくれないかしら?」

「……それは温室に生えていた植物と関係がある話ですか?」

「わたくしはそう考えていますわ。と言うのも、個人的にあの方を調べていて可能性を感じたのですけど」


 それだけ言って、彼女は唇を閉ざしてヒオリの目を見つめる。

 こちらの答えを待っている様子だった。

 どうやら会話をしなければヴェロニカの考えが外に出てくることはないと悟り、小さくため息をつきながら口を開く。


「不思議な方だと思います。いえ……正直に言えばかなり厄介な方かと。男女問わず職員を侍らせ、おまけにあの悲劇のヒロインのような仕草。明らかに研究に支障が出ています」

「ふふふ、歯に衣着せないわね。でもその通りだわ」


 にこにこしながら頷くヴェロニカは、ちょっと考えるように頬に手を当てた。

 少女のような仕草だったがどこか謎めいたものを感じ、ヒオリは警戒して考えながら質問を口にする。


「リリアン女史を調べていた、と言っていましたが、何か気になることがあったのですか?」

「あら、自分の婚約者にたかる悪い虫がいたら、追い払うために手を尽くすものではなくて?」


 確かにそうかもしれない。

 何となく納得して頷くと、ヴェロニカは艶っぽくため息をつきながら「ですが……」と悩まし気に首を振った。


「あの方は悪い虫でしたけど、同時に優秀な研究者でした。何とかこちらの損にならないよう飼いならしたかったのですけれど……」


 さらりと怖いことを言う人だ。

 この博士に飼いならされて人間がどうなるのか想像したくないな、などと考えながら、ヒオリは先を促す。


「調べていて妙なことを知ったんですの。ヒオリさん。こちらを見て下さる?」


 言って彼女が白衣のポケットから取り出したのは、携帯端末であった。

 それを簡単に操作してヴェロニカは、画面をこちらに向けて差し出す。映し出されていたのはどうやら家族写真のようだった。


「これは彼女の幼少期の写真ですの。これをどう思います?」


 問われ、その家族写真……両親と姉妹三人が映っているようだ、をヒオリはしばらく見つめる。

 母親は鳶色の髪の美女、父親はプラチナブロンドの美男。姉妹は父親の血を濃く引いているようで、全員プラチナブロンドだった。


 リリアン女史は三人姉妹と聞いていたから、別に何もおかしいところはないと思う。

 ───が、ふと気になることがあって、目を瞬かせた。


「あれ?もしかしてこの一番綺麗なワンピースを着ているのが、リリアン女史ですか?」


 思わず呟くと、ヴェロニカは妙に嬉しそうに「正解ですわ」と笑った。

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