表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

あの日見たそら

作者: だぁ。

3年前君は死にました。


私の前からもこの世からも君は消えました。


もう何をしたって君にこの声は届かない。


どんなに君の顔が見たくたってみることができない。


写真嫌いな君は死んでしまった後に


面影すら残してくれない。


君の顔この先ずっと覚えて行けるかな。


忘れるわけないけど忘れてしまうのかもしれなくて


とても恐い。


この先、生きていくことも。



























私の名前は佐藤未来(さとうみらい)


親は私が5歳の時に事故で死んでしまって


祖父母に育てられました。


君と初めて出会ったのは7歳の時。


私よりも背が小さくて


体つきも押したら倒れてしまうのではと思うほど弱々しい。


隣に越して来た君は少し元気がなかったね。


「はじめまして、君の名前は?」


と尋ねると


顔を赤らめた君は震えた声で


『飛田そら』


と言ってくれた。


最初はおはようと声をかけても


領くだけの君はどこか寂しげでやっぱり元気がない。


でも、日に日に君は私に心を開いてくれた。


『未来!明日一緒に駄菓子屋にいこうよ!』


学校帰りに君と何気ない話をして平凡に帰る、


そんな日常があるだけで温かかった。


子供の頃は夢がいっぱいでいろんな話をしたね。


近くの公園で長く生えた草を少しずつ踏んで


秘密基地をつくったり高い木に登ったり


君といるだけで夢が溢れた。


でもそんな夢はそう長く続かない。


小学校高学年になると男友達とサッカーを始めた君は


あまり遊んでくれなくなった。


隣の家だけど会うことも少なくなったね。


学校の登下校は7、8歩前を友達と歩く君。


たまに一緒に帰ってくれる日は私の特別な日。


カレンダーに印をつけて君との思い出を書き留めた。


ある日、君が私に聞いた


『なぁ、未来。』


「ん?」


『お前、友達いねぇのか?』


君と遊んできたせいか私はあまり女の子と気があわない。


でもそんなこと言って君を困らせたくない。


「いるよ!今日も遊ぶ約束してるし!」


初めて君に嘘をついた。


もうこの頃には夢なんてどこにもなかった。


中学生に上がると、君と会える日はもっと少なくなった。


お互いサッカー部とバレー部に入って


部活の日々で口数も減った。


中学生になって初めての冬、祖父が死んだ。


心臓の病気で発作が起きて倒れ


そのまま目を覚まさなかった。


なんだろう、とても悲しいのに涙がでない。


居て当たり前の存在だったから実感がわかない。


祖父の死に顔は寝ているようにしか見えない。


葬式には君もいた。


でもそんな事を考えてる暇はなかった。


祖母はとても泣いていて、


小さい小さい体を私はずっとさすっていた。


火葬の前に祖父の顔をもう一度見た。


肌を触るととても冷たかった。


あぁ、本当に死んだんだ。


これからどうなるのかな。


いつも部活から帰ると、


''未来おかえり''


その当たり前の言葉をもう聞くことはないんだな。


強がりな私は、ぐっと唇を噛んで感情を抑えた。


そらの親が私に言った。


"未来ちゃん、なんでも頼っていいからね"


越してきた頃からそらの親はとても優しかった。


私の祖父母も優しかった。


でもそこには何か違いを感じた。


葬式が終わりみんな帰っていく…


祖母はそらの親と先に家に戻った。


祖母も体が弱いのでいつ倒れてしまうのか心配だ。


私はふと小さい頃よく遊んだ公園に訪れた。


あの頃はあんなに伸びきっていた草が縞麗に刈られてる。


この広場でよく祖父と遊んだな。


そらとも遊んだ。


たくさん思い出が詰まってる。


そんな事を考えてると涙が溢れた。


もう戻ることのない時間…現実が私に深く刺さる。


ダメだ、涙が止まらない。


今まで我慢してきた分いろんな思いが立ち込めた。


その時、誰かが私の頭を優しく撫でた。


振り返るとそこにはそらがいた。


『我慢しなくていいんだよ。どんなことだって。』


不器用な君のこの言葉に私は救われた気がした。


そらは私を見てくれていた。


いつも祖父母の事を考え遠慮がちな私は、


あまりわがままを言わないようにしていた。


『泣きないだけ泣けばいいよ。』


そういってそらは私の頭を自分の胸元によせて


優しくて抱きしめてくれた。


君の腕の中は温かくて安心した。


























何日かたって祖母は入院することになった。


祖父の死と疲労が重なって体調を崩したのだ。


そらの親は


"うちにおいで"


と言っていたけど


「何かあった時にだけ頼ります。」


と言って誘いを断った。


これから先いろんなことがあるのに


このくらいでへこたれていられない。


家でテレビを見ていたらインターホンがなった。


そらだ。


『よ、母さんが持ってけって。』


私はタッパを受け取った。


中を見ると肉じゃががたくさんはいってた。


「ありがとう。」


と言うと


『うちに食いにくればいいのに。』


と優しい一言をかけてくれた。


「じゃあ、今度おじゃまさせてもらうね!」


『おう!』


と言ってそらは帰っていった。


もう少し話したかったな、


なんかそらといると安心する気がする。




























祖母が入院して2週間がたった頃、


私はそらが告白されている場に居合わせた。


そらは少し照れくさそうにしていて、


なんかもやっとした気持ちがした。


後で聞いて見たらそらも少し気になっていたらしい。


それを聞いて私の心の中に何かぽっかりと穴が空いた。


その子は意外と家が近くて


帰り道に一緒に帰っているのをよく見る。


なんでだろう。


どうしてこんなに変な気持ちがするの?


幼馴染の恋って応援したくなるはずなのに


私の気持ちは嫌な方に近い。


そらが笑ってる。


2人から見えない距離で薄暗い道を歩く。


私も恋とかしたら変わるのかな。


私は今でもあまり人とうまく関われない。


昔はあんなに楽観的だったんだけどな。


家帰ったら何をしよう。


そら今日も何か届けにきてくれないかな。


って、あれ、どうして今そらがでてきたんだろう。


そういえばふと気がつくとそらのことよく考えてたな。
























それからまた何日か日が経った。


相変わらず帰り道の前にはそらが歩いている。


もう1人でご飯を食べるのも慣れた頃、


またそらは家を訪ねてきた。


今回は魚の煮付けをもらった。


「ありがとう。」


もうそらには彼女もいるし、


あまり話さない方がいいよねいくら幼なじみだからって。


私は気持ちを押し殺してドアを閉めようとした。


すると、ガシッとドアを閉めるのをおさえられ


『なんか最近、元気なくねーか?』


心配そうな顔で私を見る。


私は喉まで出かけていた言葉を飲み込んで


君を見つめることしかできなかった。


久しぶりにじっくりと見た君は


私の印象とはガラッと変わっていた


あれ、こんなに体格良かったっけ。


身長だって私が少し見上げるほどになっていた。


あぁ、私の知らない間に君はこんなに成長していたんだね。


そんなことを思っても君にこの声は届きやしない。


私は声を振り絞って返事をする。


「そうかな?いつも通りだよ。」


私は君にいくつ嘘をついたかな。


君には心配かけたくないから。


あぁ、また自分でその場を濁してしまった…


























「気分はどう?」


久しぶりに私は祖母にあった。


少し痩せたみたい。


もともと小柄で細いのにさらに細くなってる。


"佐藤さんのお孫さんですか?"


と医者らしき人に尋ねられた。


"少しお話が…"


何か陰湿な空気が流れた。


"おばあさんのことなのですけど、


1ヶ月たっても改善の兆しが見られません。


辛いでしょうが、


少しその事を知っといてもらいたいです。


もってあと2週間というところでしょうか。"


こんなに祖母との別れが早いとは思わなかった。


私が社会人になったら


たくさん親孝行をしようって思ってたのに。


たくさん苦労をかけてごめんなさい、おばあちゃん。


その事を私は一応そらの親に伝えた。


すると、


"気をつけて帰ってね。"


と言葉をくれた。


もう夜の7時だ、さすがに暗いな。


深刻な事実を知った後の帰り道は


とても重苦しくていろんな事を考えた。


私、おばあちゃんもいなくなったらどうしよう。


親戚もいないし、1人で暮らすのかな。


これから、ずっと。


あれ、どうして涙が出てくるのかな。


今だって1人なのに…


その時の私はきっと、


この世から私を本当に思ってくれる人がいなくなることが


寂しかったのだろう。


私は止まらない涙を拭きながら思い出の公園を横切った。


『未来?』


聞いたことのある声だ。


その方に目をやると、そらとそらの彼女がそこにいた。


『どうしたんだ?』


そらが私に問いかける。


あ、私泣いてるんだった。


こんな所見られたくなかった。


彼女もいるのに。


たまらず私は、その場所から走って家に帰った。


『おい!待てよ!』


そらの声が聞こえる。


なんで涙が止まらないの?


あの2人をみたら涙がより一層でてきてしょうがない。


あぁ、私、そらの事を好きなんだ。


そんな事、今更きづいたって遅いのに。


すると、


『おい!待てって!』


とそらが私の手を引いた。


『なんかあったんだろ?』


「なんでもないよ、大丈夫。」


いいから、ほっといてほしい。


『泣いてるのに、なんでもないわけないだろ。』


だめだ。


そらに何か言われるたび、今の状況に、自分に、


腹がたってしょうがない。


「なんでもないって!ほっといて!」


そらの手を振り切って家の中に入った。


私はそのまま疲れて寝てしまった。

























朝、誰かがうちのインターホンを鳴らす。


きっとそらだ。私を心配して来てくれたのだろう。


でも今は会いたくない。


こんな顔じゃ。


しかも昨日のことだって。


しばらくするとそらはいなくなった。


今日は学校は休もう。


少し疲れたな。もう少しだけ今日は寝よう。


目を覚まし、時計を見ると午後6時くらいになっていて


コンビニに行こうと私は家をでた。


すると、


『サボりかよっ。』


と後ろから声が聞こえた。


『朝も返事しねぇしさ!』


少し怒ってる。


「ごめん。」


というと、その場が沈黙した


「今日は彼女と一緒じゃないの?」


と聞くと、


『ん、あぁ。』


っとそっけない返事をされた。


その場から立ち去ろうとすると


『未来!』


とまたそらが私を呼び止めた。


『俺の方こそごめんな。


母さんから聞いたよ。


気づいてやれなくてほんと、ごめん。』


なんでそらが謝るんだろう。


何も悪くないのに。


「いや、私の方がごめんだよ。


あの時は少し余裕がなかっただけだから、じゃあね。」


はやくここから逃げ出したい。


『明日は学校来るよな?』


「うん。」


『そっか、また明日な!』


そら、きみはいつも優しいね。


もっと早く気付けばよかった。




























それから2週間が経った。


祖母の寿命は続かなかった。


火葬の所へ運ばれる祖母から


私は目を離すことができなかった。


おばあちゃん、今までありがとう。


何日か経って私に1つの電話がきた。


祖父に兄がいたらしい。


初耳だか私はそっちに越すことになった。


ここからとても遠い場所らしい。


その時私の脳裏によぎったのは、


これからそらに会うことができなくなるということだ。


うちは借家だから家を出たら帰るところはない。


ここに戻る理由がない。


本当に面白い人生だ。


越す日も急で明後日には出なきゃいけない。


私はそらの親にそれを伝えた。


それと同時に、


「そらには言わないでほしい。」


と頼んだ。


きっと辛くてしょうがない。


だったら何も言わずにいなくなりたい。


だから私は一通の手紙を書いた。


長々と気持ちを伝えるのは苦手だ。


だから、私は


「いままでずっと君をみていました。


大好きでした。


ありがとう。」


そう書き残して私は家をでた。


最後に思い出の公園に立ち寄った。


縞麗にかられた草を見て、


「もう、秘密基地作れないね。」


と微笑みながら涙を流した。


もう私の世界には君はいない、


言い返すとなにも言わず居なくなったのは


私の方だったね。


いつもの癖だろうか、少し見上げると


きれいなそらが広がっていた。


あぁ、私は君の心の中で静かに消えていくのでしょうか。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ