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よく頑張った

 一体何が起こったのか‐。


 高見の姿が消えた瞬間、桜は迷わず引き金を引いた。だが次の瞬間、桜は腹を殴られ床に組み伏せられた。

「ふへへへへ」

 再び高見が姿を現した。

 彼は桜の腹を踏みつけ、首元にマシェトを突き付けていた。

「ふへへへ。どうだ? 見えなかっただろ? いいだろ? この力」

「このカメレオン野郎…!」

「カメレオンかあ。言い得て妙だなあ。でも俺はあんなトカゲみてえにゆっくりとしか動けねえわけじゃあねえからなあ」

 高見は上機嫌にべらべらと喋った。


「なんで透明になれんのよ…。わけわかんない」

 桜の言葉に、高見は嬉しそうに口の端を吊り上げた。

「いいだろお。俺はセカンドだからなあ。皮膚の色を自在に操れるんだなあ。服も同じように変化する素材でできてるんだなあ。こいつは他人の認識を阻害するんだよなあ。いいだろう、なあ。いいだろう?」

「セカンド?」

 桜の知らない言葉だった。高見の言っていることの半分ほども理解できなかった。

「あー‐」

「何をしている」

 高見が口を開こうとしたところで、別の男の声が聞こえた。

 桜が顔を横に向けると、扉の前に男が立っているのが見えた。


 扉の前の男は、高見と同じようにスーツを着ていた。だが高見と違い、ネクタイは赤く、シャツの上に紺色のベストを着ていた。

「高見。何だその女は」

 男が再び口を開いた。冷たい視線が桜を見下ろす。

「いやいや、勇敢な女性だったぞ。この俺に傷を負わせたんだあ。おもしろいからお前が戻ってくるまでお話ししてもらってたんだぜえ?」


 桜は二人の会話が全く頭に入ってきていなかった。男の両手から目が離せなくなっていた。男が両手に一つずつ持っているあれは。

「お前だって、その両手に持ってるもの、なんだよそれえ。いつの間に入ってきてたんだあ?」

「知らん。二階と三階で見つけた。騒ぎそうだったから殺した」

 男はそう言って、手に持っていたそれを放り投げた。

 八木と大川の首が、ボトンと床に落ちて転がった。もはや光のない瞳が桜を捉えた。


「うわああああああっ」

 桜は叫んだ。右手だけで拳銃を構える。

「高見。うるさい。早く殺せ」

 パァンパァンと二回続けて発砲する。だが弾丸はあさっての方向に飛んでいった。

「今殺すよ。じゃあねえ楽しかったねえ桜ちゃん」

 高見がマシェトを振りかぶった。

 桜は目を固く閉じた。



 窓の割れる音、ギィンっと金属同士がぶつかるような異音がほぼ同時に聞こえた。

「うぉっ?」

 続いて高見の驚く声。

 桜が目を開けると、高見がマシェトを取り落とす光景が瞳に映った。

 高見だけでなく、もう一人の男も怪訝な表情を見せていた。

「御堂っ伏せろお!」

 高見が叫ぶ。

「狙撃されてる!」

 次の瞬間、御堂の頭からガギンと音がした。御堂が勢い良く倒れこむ。


 桜はすかさず体を起こすと、屈んだまま再び銃を構えた。銃口は高見の胸を捉えた。

 当の高見は、部屋の隅で身を伏せていた。

「おいおい…。射撃音が全然聞こえねえ…。どんだけの距離から撃ってやがんだあ?」

 そして桜に視線を向けると、忌々し気に舌打ちした。

「ちっやっぱ管理人側の人間かあ?」

「武器を捨てて投降して」

「するわけねえだろお」


 廊下からパタパタと誰かが走ってくる音がする。

「御堂! 起きろ! スタート!」

 高見が叫んだ。

 頭を狙撃されたはずの御堂がぱちりと目を開けた。

「御堂。俺を担いで逃げろ! 緊急離脱だ!」

「了解」

 御堂が答えた次の瞬間、再び扉の前に人影が立った。

「伏せろ!」

 桜は咄嗟に床に転がった。

 直後ダダダダと機関銃を撃つような激しい音が部屋中に轟いた。窓が一斉に割れる。少女の悲鳴が聞こえた。それはあるいは桜のものかもしれなかった。


 音が止んだ。

 桜が恐る恐る体を起こすと、壮絶な破壊の痕跡がそこら中に刻まれていた。

「逃げられたか…」

 後からやってきた謎の二人組、その細いスーツを着た男の方がベランダから外を覗き込んで言った。

「まだいけるか?」

「追えってんなら無理だよ?」

 男の問いに、もう一人の女性の方が、眠そうに答えた。


 桜はただ茫然といていた。

 男が桜に目を向けた。

「君は? 警察官?」

「は、はい! 本庁の秋倉といいます!」

「三階に巡査の首なし死体が二つ転がってたけど、あれは知り合い?」

 女性が気だるげに尋ねる。

 桜は首を振った。

「いえ。今日初めて会いました。この屋敷の前で。それで応援が来るまで一緒にと思い…」

 そこで桜は声を詰まらせた。会って一時間も経っていなかったが、それでも‐。


「我々が来るまでよく頑張ったな」

 男は桜の肩を優しく叩いた。眉間にしわが寄っていたが、声はただ優しかった。

 桜はここでようやくほっと心の底から一息ついた。

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