表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

呪いの正体

 あなたは餓鬼を知っているだろうか。

 仏教でいう餓鬼道に堕ちた人々のことを言う。


 餓鬼は、三途・五趣(五道)・六趣(六道)の一つ。餓鬼は常に飢えと乾きに苦しみ、食物、また飲物でさえも手に取ると火に変わってしまうので、決して満たされることがないとされる。ただし、天部と同じように福楽を受ける種類もいるとされる 餓鬼 – Wikipedia

 みさきはあの日から食べ物を口に詰め込んでは吐く。という行動を繰り返すようになった。

 本人は過食が苦しくて泣きながら物を口に詰め込むのだ。

 彼女の母親は彼女を病院に連れて行った。


 診断は 摂食障害 過食


 と診断された。

 みさきの部屋には外から鍵をかけられ、出られないようにされたがそれでも部屋の中で暴れる。

 ということで隔離病棟に入院してしまった。

 みさきが過食になってからしばらくして、いじめっ子たちにも異変が起きた。

 みさきに取りついた餓鬼が約束した 復讐は みさきが知らないところで成されていたのだ。

 いじめっ子たちの体中に歯型が出るようになったのだ。

 朝起きると顔や腕や見える所を重点的に歯形が出る。それはどう見ても人間の歯である。

 本人たちの歯とは違う歯形が、顔にまで現れる異常事態。

 泣き叫び彼女たちも不登校になった。

 部屋の隅で体育座りをして日に日に歯形が増えていく顔で

「ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい」

と呟き続けている。

 親には

「呪われた・・・!みさきに呪われた・・・!」

と訴える。そしていじめっ子親はみさきの家に怒鳴り込んできた。

 自分の娘も壊れているみさきの家族はいじめっ子の親を怒鳴りつけて追い出した。


 一方、ここは宵闇月夜神社。黄昏時の西日が境内を照らしている。

 魔のモノが跋扈し始める時間に、神主は空を見上げた。

 神社を囲む木々の間に何か黒いものが群れになって飛び回っている。

 白蛇は賽銭箱の横できょろきょろとあたりを見回していた。

 宮司の頭の中に女の子の声が響く。

 白蛇が宮司をみてから、参道のほうを見た。

 丘の上にあるこの神社の参道は長い階段になっている。

 その階段を上ってくる気配があった。

 顔が現れた。息を切らせる中年女は階段を登り切って、そこでへたり込んた。

 肩を大きく上下させて荒い息を吐いている。

「参拝ですか?ご苦労様です」

 宮司が声をかけると、女は泣きそうな顔で宮司を見上げた。

「一週間ほど前にお電話した鹿原です・・・娘が・・・娘が・・・」

 食べ物を食べ続ける娘。その娘に「我が子が呪われた」と怒鳴り込んできた親の話を必死で語った電話の声と同じ声だった。

 この中年の女はやつれ切っていた。

「娘だけなら精神病だと納得することもできたのです」

 社務所の客間に通された女はソファに座って涙ながらに語った。

「でもみさきに呪われたなんて言われたらもうどうしていいのか・・・」

 白蛇は黙って宮司の横のソファで話を聞いている。

「みさきさんの髪の毛と事前にお送りした人型は持ってきてもらえましたか?」

「は・・・はい。これです」

 バッグから取り出されたのは髪の毛がひと房と、名前と生年月日の書かれた人型の紙だった。

「紙は言われた通り7夜みさきが寝ている布団の下に敷いておきました。」

 渡された紙と髪の毛をじっと見つめる宮司。

「みさきさんが生霊を送っているわけではありませんね。この紙にはとても強いにおいが残っています」

 紙をそっとテーブルの上に置いた。

「これは餓鬼です。餓鬼の食べるものは火に変わり、餓鬼は何も食べることができません。

 餓鬼は自らに捧げられた供物しか口にすることができないのです。そしてもう一つ餓鬼がものを食べる方法があります。

 人間の体を乗っ取ってその体で食べ物を口にする。

 もともとは仏教の餓鬼道に存在する者ですが、そこから逃げ出したのか、因果が生み出すのか。餓鬼は存在します。

 そしてみさきさんを乗っ取って、食べ物を食べているのです」

 中年女・・・みさきの母親はうつむいて話を聞いている。

「食べても食べても彼らは満たされることがないのです。みさきさんの心に付け込んで、みさきさんを乗っ取ってしまったのです」

「なんとかみさきを助けてください」

 頭を下げる母親に宮司は優しく話しかけた。

「お引き受けします。初穂料は事前にお話しした金額でお願いいたします」

 母親は「初穂料」と書かれた分厚いのし袋を取り出した。

「これで・・・これでお願いします」

 宮司はそれを受け取って、領収書を渡した。

「明日、明け方に行います。何か変わったことが起こるかもしれませんが、気を静めていてください。

 それと・・・」

 宮司は続ける。

「みさきさんはとても思い悩むことがあったようです。餓鬼を招き入れるほどつらかったようですよ。そちらのサポートお願いします」


 母親を見送った。宮司はスマホを取り出すと、ラインを送る。

「明日餓鬼を還すから、必ず来てね」

 あて先は紅葉。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ