6周目 光が見えた
始まりの村。
俺はその宿屋まで進んでいた。
そして1人で考える。
「問題は世界の強制力だな」
これを崩す方法について1つ思うことがある。
世界の強制力だがこれの強制力は大小がある。
例えば俺がこの時この場面で何を食べるか………そこまでは強制されない。
となると少なくとも変えられる運命というのは存在する。
フィアと仲良くなった場合に作り過ぎた料理が変わることは無いが、食べるか食べないかを選ぶこともできるし、そもそも彼女と仲良くなるか仲良くならないかは選ぶことが出来る。
「となると俺の行動が制限されない選択肢というものがやはり存在する」
今もそうだ。
俺は死ぬことを覚悟で今回はフィアとは仲良くなっていない。
「にしても盗賊になりきるとは思いもしなかったな」
俺は今回初めての試みをしていた。
今回は盗賊になりきっていた。
理由はある。フィアの死を見て壊れたわけじゃない。
「あぁ?始まりの村を襲撃する理由じゃと?」
「そうだ。何故襲撃するつもりなのか詳しくは聞いていない」
「ワシの言うことが聞けんと?」
「理由もないのに命をかけられない」
俺は今頭と話していた。
1つ思うことがある。
例えばの話だ。盗賊が襲撃してこないように仕向けることが出来れば俺はフィアを救うことに専念することが出来る。
ちなみに俺が何もせずにフィアを救うために尽力した場合、村は壊滅し村長との約束を果たせなかった俺はその後依頼が来ることもなくなり勇者になれずにバッドエンドを迎えることになる。
「そうじゃのう。若い女じゃ。がはははは」
「本当にそうなのか?」
「後は金じゃ!金!女!がはははは!!!!」
顔色を伺ってみたが別に嘘をついているようには見えない。
だがそれは今現在の話だ。
「俺としてはそんな理由で襲うなどというのは遠慮したいところだが」
「意に添えんか?」
頷く。
今現在の頭のステータスを表示する。
特には何も無い。
「悪いな。口答えして。これにて話は終わりにしておく」
※
どうするべきか。
特に考えることも無く俺は盗賊の村にある墓場までやってきていた。
今回の周回でいけるところは粗方いった。まだ来ていないのはここだ。
「ジェシー………どうして………」
そこで出会った1人の盗賊がそう口にしていた。
「あんなに良い奴だったのに………何で殺されなくちゃならなかったんだ」
ジェシーと言うなら俺が毎度殺している盗賊か。
何でもクソも俺を殺そうと殺そうとしてくるんだから当たり前の話だ。
「全部………あいつらのせいなのに」
「あいつら?」
しかしそいつが零したその言葉に疑問を覚えた。
「あいつらって?」
「お前は確か新人の………」
「そうだな。最近入ったばかりだから知らないんだが」
「黒服の奴らだよ。そいつらが俺達に金を要求してるんだ。お前も見つからないように気をつけた方がいいぜ」
「黒服?」
初めて聞いた単語だ。
「黒服の男はとにかくがめつい。直ぐに何かあると金を要求するんだよ。とは言え俺らもしょせんは盗賊だ。命が惜しければ渡すしかない」
「そうなのか」
何度も何度もループしてきたがそんなこと初めて聞いたし初めて知ったな。
「最近は特にな」
「その男はどこにいる?」
「え?」
「その男はどこにいるか教えてくれないか」
「どうするつもりだ?」
「消しに行く」
「消しに行くってお前………やめとけ。あいつには勝てない」
首を横に振る男。
「闇の住人だあれは。やめておけお前なんかが手を出して勝てる相手じゃない。それに俺は奴が何処にいるのか知らない。いつも急に現れるんだよ」
「………分かった」
※
そうして最後の夜を迎えた。
「ぐっ………がっ………!」
宿屋で1人呻く。
始まったようだ。
毒が回り始めた。
この毒の除去も何度か試したが無理なようだ。
毒というより最早呪いの類のもので今日ここで死ぬことが定められている。
「だが………次こそは………」
俺は今回のループで1つのことを理解した。
黒服だ。
あいつが全ての元凶らしい。
次のループではどうにかして黒服の奴らを止めることが出来れば………盗賊の襲撃を防ぐことが出来るはずだ。
しばらく盗賊村の様子を見て分かったことがある。
あの襲撃が行われる真の理由は黒服への上納金が足りないから行われる事だった。
「………ぐっ………ここまでか………」
胸が握り潰される。
心臓が………
「………くそ………」
視界が霞む。
「死にたくない………」
本当は死にたくなんてない。
苦しいし寒い。
でも………
「この死も次に繋がるなら………」
フィア………お前を必ず………。