5周目 強制力
「なんじゃぁわれぇ。いや、前のクソガキか」
「そうだ」
盗賊村に入ると頭に声をかけられたので答える。
「ようさん殺してくれたみたいやのう?えぇ?ガキ」
どうやら昨日のことを言っているらしい。
「だとしたら?」
「選ばせたるわ。今ここで腸引きずり出して無様に死にさらすか、生きたままバケモンに殺されるか選べや!」
はぁ………レベル差が分からないのだろうかこの盗賊は。
「時間がないんだよ。死にさらすのはお前だ」
「な、なんじゃと!こ、この魔力!」
俺が手を前に突き出すと魔力を感知できたのか呻く男。
「ま、待てや!謝る!その腕を下ろせや!」
「焼き尽くせ………インフェルノ」
「ぐぁあぁぁ!!!!!!!」
一瞬にして灰になる男。
「親分!」
「親分!しっかりしてくだせぇ!」
取り巻きが頭に向かって声をかけ始めた。
しかし帰ってくる言葉はない。
「無駄だ。地獄の炎インフェルノは全てを焼き尽くすまで消えることは無い。そして俺はまだこの魔法を連打可能だ。その意味が分かるよな?」
「このぉぉ!!!!親分の仇!!!!」
「殺せ!殺すのだ!あのガキを!!!!」
言葉も虚しく迫り来る盗賊達。
「インフェルノ」
その全てを殺すのに時間は必要なかった。
「馬鹿な………」
「何故我々が………」
「蟻を潰すのに苦労はいらない。それと同じだ」
そう告げると同時に炎は収束する。
全てを焼き尽くした炎はその役目を果たして自然と消えていった。
「………さて、帰るか」
※
「………フィア………」
目の前のベッドにはフィアが寝ていた。
いや、ただ眠っているだけではなかった。
「また………救えなかったのか。俺は」
その手を握る。
「どうやったら俺はこの運命を変えられるんだ?フィア………」
俺はメインヒロインとしか結ばれてはならないのか?
「俺は………あの女ローザと結婚するこの無限のループから抜け出せないのか?」
俺の人生は簡単だ。
俺はとある没落貴族の末っ子として生まれた。
だが俺には何の才能もなかった。
そのために穀潰しとなった俺を親父は追放した。
それから俺は魔物に追われて逃げてその先で倒れて俺は盗賊に捕まった。
それが盗賊村での事だ。
そしてそこがループの始まりだ。
「くそ………どこで間違った」
床を殴りつけてみても何も見えてこない。
「当たり前の話なんだけどなフィア。俺は何度もこの人生をループする内にな。お前達サブヒロイン………って言えばいいのかな。お前たちが欲しくなった」
瞳から涙が零れ落ちる。
「でも何で死んでいくんだ?この運命を俺は変えられないのか?」
何をしても死んでしまう。
俺が何をどうして足掻こうとフィア達は死んでしまう。
「別にローザは嫌いじゃない。でも俺が………本当に一緒に生きたいのはお前達なんだよ………あのさ。俺が初めてこの人生を生きた時こんな俺に優しくしてくれたフィアの事は本当に嬉しかったんだよ」
当たり前の話だ。
最後まで祈るだけ祈って何もしてくれなかった王女よりも俺のために尽くしてくれて俺を救うために尽力してくれて………死ぬ時すら何も言わずに何も告げずに俺を先に進ませようとする、お前達のほうが俺の中では大事になってたんだ。
当たり前だ。
苦楽を共にしたのは王女ではない。
「………お前達なんだよフィア………」
涙が零れた。
※
フィアが病に倒れて息を引き取って時間が経過した。
これで俺の始まりの村編は終わりだ。
「気をつけて行くのじゃぞルート」
「あぁ。世話になったな」
「フィアの事が心残りなのか?だがフィアはお主を」
「………天国から見守ってくれてるだろ?」
先に言葉を読んだ俺を驚いたような目で見てくる村長。
「………失うのは初めてじゃない」
だが何度経験しても慣れない。
でも………必ず救う。
俺はフィアを救う。
運命が何だ。
決まりが何だ?
フィアを選ぶのは正解じゃない?
そんなの分かりきってんだよ。
俺が魔王を倒さない限りこの人生は終わらない。
いくら待っても俺以外が魔王を倒せることは無かった。
その時に理解した。俺には魔王を倒す以外に出来ることは無い。役目はないってことを。
「少ないが持っていってほしい。ルート。これがお主の旅の助けになることをわしは信じている」
そう言って村長が渡してきたのは武器だ。
「………いらない」
こんな低レアな武器いらない。
邪魔になるだけだ。
「そうか」
「悪いな。先を急いでる」
俺は逃げるように始まりの村を後にする。
※
俺もそうだがそれこそ盗賊の頭もそうだ。
世界の強制力というものの中にはどうやっても抗えないというものがある。
俺は何千回も繰り返したこの人生で世界の強制力というものの存在を確信した。
何をしようと死ぬべき存在は死ぬ。
逆に死なない存在は何をしても殆どの場合で死なないのだ。
どうやっても特定のものはその結末を迎えたりイベントを迎えたりする状況に向かう、それを俺は世界の強制力とそう呼んでいる。
「それこそ俺とローザの結婚もそうだな」
俺がどれだけ嫌われるように動いてもローザの方は好意を抱いている。
そして王女という立場もあって俺は彼女からの求婚を拒めない。
そして虚しい気持ちのまま結婚生活を迎える。
それが俺のループの終着点であり次のループへ繋がる最後のイベント。
「待てよ………」
だが強制力というものだが何か引っかかる。
もし仮にだがこれがフィアを殺し続けているのだとしたら。
これに外部からアクションを起こすことで運命を変えることが出来れば運命を変えられる。
「いや、これ自体は前から試していた」
俺はこれを何度目かのループで悟りアクションを行ったりしていた。
それは覚えている。だがフィアが死ななかった世界というのは俺の死を意味していた。
そして俺が死なない世界ではフィアが死ぬ。
これは固定されていると半ば諦めかけていたが最近になって俺はまた抗い始めたのだ。
だが結末はやはり変わらない。
「フィアは死に続ける。そして俺が死ねば世界はまた次のループを始める」
一見詰みのように思うが何か何処か抜け道があるはすだ。
というより今はそれを見つけるしかない。
「とりあえず今回は終わらせよう。また何かいい案が思い浮かぶかもしれないしな」
だが待っていろ。フィア俺が必ず救う。