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3周目 一人目のサブヒロイン

 盗賊村の頭が口を開く。


「こんなガキ1匹に手こずっとるのかあのボケ共は」

「んじゃあな」


 何か話しているが無視してそのまま逃げる。

 ちなみにこれは負けイベントだ。

 何をしても負けるようになっているので戦ってはいけない。


「待たんかい!ガキ!」

「待てと言われて待つ馬鹿がいるか?」


 そしてここは確実に逃げられるイベントだ。

 奴は力や防御こそ凄まじいがスピードがこの村の誰よりも遅い。

 初期値の速さでもなんの問題も無く逃げ切れるのだ。


「おい!待てや!この変態!おい!全裸で何処行くつもりやねん!」

「全裸で走りたくなることあるだろ?」

「あらへんわ!おい!戻ってこいや!クソガキ!」


 もうお互いの声が聞こえなくなるくらいまで走った。

 その辺の葉っぱを千切ると自分の下半身に巻き付ける。

 この近くに始まりの村があるのだが全裸で行くと通報され何故か処刑される。

 これでもいいので葉っぱを巻き付けることが大事だ。


「何者だ!」


 村の門に近づくと当たり前だが声をかけられてしまった。


「ルートという者だ。盗賊に襲われてな身ぐるみを剥がされてしまった」

「………なるほどな。それは災難だったな」


 同情してくれる兵士。

 いつもと同じだ。


「金ならある。どうか入れてもらえないだろうか?」

「葉っぱ1枚の不審者をか?」

「頼むよ」


 男に金を握らせる。


「こ、こんなに………?」


 目がくらんでいるらしい。


「あんたが許可を出せないなら村長を呼んでくれても構わない」


 というよりこいつが自分の意思で入れてくれたことは1度もない。

 何故なら今この村は大きな問題を抱えているからだ。

 そう簡単によそ者を入れられない理由がある。


「分かった。村長を呼んでくる。少し待っていてくれないか?」



「ルートとやら」


 ヨボヨボの爺さんが現れた。


「村長なのは知ってるから名乗らなくていいぞ」


 そう答えると目を見開いたがそれも一瞬。


「左様か。盗賊村での1件は大変じゃったらしいな」

「同情より村に入れてくれ。流石に葉っぱ1枚じゃ寒いのでな。それにこうして葉っぱを手で抑えるのも面倒なんだよ」

「それに関してはこれを持ってきた。履きなさい」

「気が利くじゃないか」


 爺さんが持ってきた下着を履く。

 世話になったな葉っぱよ。

 その辺に捨てておく。


「お主を村に入れてやっても構わないが条件がある」

「盗賊退治に協力してくれ、そんなところか?」

「何と………鋭いなお主」


 そう聞いたときのウィンドウが表示される。


【村長からの望みを聞きますか?】

【→YES/NO】


 鋭いも何も決まりきったパターンだから分かるだけだ。

 ここで断れば俺は村に入れない。


「勿論引き受ける。とりあえず中にいれてはくれないか?」

「分かった。こちらへ」


 村長に同行して村に入る。


「きゃー!!!!!」

「何なの!あの変態は!!!!きゃー!!!」


 女の子の歓声が聞こえる。

 そう叫ばないで欲しいものだ。


「後でワシからフォローしておく。気を悪くせんでくれ」

「別に構わないよ」


 元々パンツ一丁で歩いている奴がいたら当然の反応だろう。

 ちなみに村で秘伝の書を取らなかった場合はもう少しましな反応になるが、そうするだけの価値はない。

 どのみちこの村のために働けば評価は上がるのだから。


「今は諸事情でおらぬがSラングパーティの人がしばらくしたら来てくれてな。その人達を連れて一緒に盗賊を始末して欲しい」

「分かった」


 ちなみにそのSランクが到着することは無い。

 用事でこれなくなるからだ。

 俺が1人で行くのが毎度のパターンだ。


「宿はここだ。今日はゆっくり休まれよ旅人」



 宿屋に荷物を置き村長にもらった服を着ると外に出る。

 村長の言う通り休むと文句なしのバッドエンド直行だ。

 ここで必ずしなくてはならないことがある。


 俺は一人の少女に声をかける。

 ………にしても毎度心がしんどい。


「どなた?」

「ルートという旅の者だ。どうした?こんなところに座って」

「何でもないですよ。旅人さんはどうしてこの村に?」

「成り行きでな」

「そうなんですね。私はフィアと申します。どうぞよろしく」


 フィアと名乗った少女が手を差し出してくる。

 悩む。

 俺がこの手を取らなかった事は殆どない。

 でも取ると………


「あぁ。よろしくな」


 悩んだが結局取る事にした。


「あ、フィアー」


 その時別の方向からもう1人少女が近寄ってきた。

 だがその子は俺を見ると顔を顰める。


「この人変態だから関わらない方がいいよ」

「え?」


 戸惑うフィアを連れて去っていってしまう。

 いつもの事だ。

 だがここで契りは出来た。

 接点は作れたのだが………。


「あの子………死ぬんだよな」


 何度も守ろうとした。

 だって………見捨てられるわけないだろ。

 でも………何をどうしてもあの子を救えなかった。

 あの子を救うことに尽力すると絶対に村が滅び、約束を守れなかった俺は処刑されるのだから。

 



 今まで試してきたことを全て紙に書く。

 村を滅ぼさずにフィアも救う方法を探しているのだ。

 だが……… 


「ねぇよなぁ」


 背もたれに寄りかかって背中を伸ばす。

 存在しなかったのだ。彼女を救いながら村も救う方法なんて。


「………いっそのこと全部話すか?村人に?だが………信じてくれるか?こんなとんちんかんな話」


 というより過去に話したが誰も信じなかった。

 そんなことを考えていた時だった。


「こんばんわー」


 ノックした後にガチャりと扉が開かれる音。

 考え込んでいて忘れたな。

 そう言えばこの時間だった。


「あのー夕食作りすぎちゃったのでいりませんか?」


 そこにいたのはフィアだ。

 ちなみに作り過ぎたとは嘘だ。明らかに俺の分も考えて作ってくれている優しい子だ。

 1度気になって彼女の家を嗅ぎ回って見に行ったことがあるから間違いない。


「村長にここにいると聞いたので大変だったみたいですね盗賊に襲われてって」

「あー、大変だったよ」


 そう答えて机に座る。

 彼女にも座るように促した。

 そうしてフィアと共に今日は夜を一緒にすることになった。


 夕食も終わりお互いの話をすることになった。

 とは言え俺は向こうの話は全て知っているのだが。


「じゃあルートは勇者を目指してるんですね」

「あぁ。俺は全部救いたいって思ってる」

「それには私は含まれてますか?」


 いたずらっぽい笑みを浮かべる彼女。


「………あぁ。もちろん含まれてるよ」

「やった。嬉しいです。でもルートの両親は酷いですね。ルートを追放するなんて」

「別に。俺は何も出来なかったから仕方ない」


 俺はいわゆる没落貴族の子として生まれた。

 だが何の才能も無かった俺は家の金を使い潰すだけの存在と判断されて家から追い出された。

 そんな俺が何とかして生きようと思って辿り着いたのがこの勇者というジョブ。

 現時点では見習いだが。


「勇者になったら見返してあげましょうね!」

「そうだな」


 そう答えたらいつも通りのウィンドウが表れた。


【あなたの鍛え抜かれた神の如き目は彼女の涙の跡を見ました。理由を尋ねますか?】

「何で泣いてたんだ?」

「えっ?」

「目が赤い。泣いてたんだろ?」

「すみません。私生まれつき体が弱くて………もう余命が短いんです………」

「そうなのか」


無理やりな笑顔を浮かべる少女。


「もう諦めています。今はできるだけ楽しい話をしてくれませんか?ルートの話は私のとって一生縁のない話です。だからもっと聞いてみたいんです」

「そうか、なら~」


 その後はできるだけ下らない話をする。

 そうして時間はすぎていく。

 こうして深入りしない程度の話じゃないと後がきついからだ。


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