1周目 9999回バッドエンドを迎えてました
運命は変えられない。
過去も未来も結局変えられない。
でもたまにいるのね、未来は変えられるって言うやつ。
実際にはそんなことないんだよ。
実際には変えられないんだ。
何故そんなこと分かるかって?
俺は9999回……いや、詳細な数なんてもう覚えていない。
それくらい同じ人生をループしてきたから分かる。
1度も運命が変わったことは無かった。
死ぬやつは死ぬし生きるやつは生きる。それだけだった。
「ぐ………まさか………最強の種族ドラゴンを砂をかけて倒すとは………」
俺の前で膝をつく魔王。
「今更だがいいか?」
そいつを前にいつもとは違う言葉をかけてやることにした。
「いつもなら『あぁ、そういうのいいから黙って昇天してくれ』と言うところだが今回は気が向いた」
「何を言っている?」
このループに気付いているのは俺だけだ。
当然の反応だろうな。
「率直に聞くが俺のことをどう思ってる?」
「良く思っているよ。私はお前のことをいつしかもっと知りたいとそう思うようになっていた」
「例えばの話だけどさ」
こんな事言ったことも無い。
でももう10000回近くこいつが死ぬところを見るとさすがに情というものも湧いてくるのだ。
「俺が………あんたを救えるとしてあんたは救われるつもりはあるだろうか?」
「私を………救う………?」
女の魔王の言葉に頷く。
「率直に言うが俺は腐っても女であるあんたを切り刻んで快感だぜわーいってキャラではない。分かるな?」
「それは分かっているつもりだ。だからこそ私はお前に好意を抱いた」
「これもまた本心からの言葉だが俺はあんたを傍に置きたいと思ってる」
「私を………か?」
「あーそうさ。俺もあんたもしょせんは与えられた役目を全うするだけの盤上の駒に過ぎない。俺は勇者。あんたは魔王をってなふうにな」
「………そんなこと考えたこともなかったな」
俺だって最初のうちは勇者だ、英雄だ、と持て囃されて気持ちよさを感じていたのは事実だ。
だが何百ループも繰り返しているうちに俺は気付いた。
「あのさぁ戦いってすげぇ虚しいの分かる?」
死人が出るだけで何もいいことなんてのはない。
「ひたすら数を削っていくのってつまらなくね?俺は魔王軍をあんたは人間軍を。虚しくなかったか?」
「そんなことは………感じなかったな」
「そうか」
こいつにはループの記憶が無いしこれが1度きりの人生だと理解しているからだろう。
魔王であることを気持ちよく思っているのかもしれない。
でも俺は違う。
「俺のステータス、見える?」
そう言って魔王は俺を見て目を細めた。
やがて馬鹿みたいに口を開ける魔王。
「な、何だ………このバカげた数値。力………魔力………速さ他全て数値99999………?」
ちなみに魔王のステータスはこの足元にも及ばない。
それだけのステータス差があると流石に魔王を倒すのも最早簡単すぎる。
「だからか………私が手も足も出せなかったのは」
「そうだ。はっきり言ってあんたを捻り潰すのと蟻を捻り潰すのと難易度に違いはない」
そろそろ本当に聞きたいことを聞いておこうか。
もう時間だ。
「なぁ、仮に来世というものがあったとして俺があんたに告白すればあんたはそれを受け入れるか?」
「こ、告白?!」
頷く。
出来ることは全てやりたい。
「分からない………どうだろうか。でも私は………そうだな。名前は伝えておく。私の名前はグランデーレだ」
「分かった。次は上手くいくように頑張るさ」
「次?悪いがよく分からない」
「あんたは分からなくていいんだよ」
そう答えて剣を抜き出すと切っ先を少女の首に向けた。
「………なぁ勇者」
「どうした?」
「死ぬのは………怖いな………」
「そりゃ怖いでしょうよ。それにしてもそれがあんたの本音か。聞けてよかったよ」
※
「勇者ルートと王女ローザの結婚式を執り行います!」
特に興味のない女と結婚するのもこれで9999回目か。
とは言え向こうは違うみたいだが。
「その、ルート様と一緒になれて凄く嬉しいです」
「そうなのか。それは有難いな」
「覚えていますか?あの日の誓いを」
「覚えてるよ」
そう答えてはいるが特に大したことはない俺が流れ上この人に永遠を誓ってしまっただけだ。
何より俺がここで結婚を断れば処刑されても文句は言えないかもしれない。
それに………もう全部終わりだ。
「ルート様。仲間達も見ておられますかね」
空を眺める彼女の隣に座りながら適当に返事をする。
「そうかもな。空から見守ってくれているかもな」
俺はまた今回も誰も救えなかった。
何が英雄なんだろうか。
俺は………
※
結婚式の後俺は与えられた自室で休んでいた。
「みんな………すまない」
いくら俺のパラメータだけ高くても仲間は違う。
世界に死ぬように定められているのだろう。
それに俺のパラメータが序盤からカンストしていても仲間はそれこそ2桁しかなかったりする。
そのため油断していたりどうしても仲間と落ち会えない時は平気でみんな死んでいってしまう。
「何で仲間はすぐ死ぬんだ?」
虚空を眺めて呟いてみた。
俺に何が足りない?
力はある。知識はある。
でも救えない命がある。
「だが、この力があれば本当はどうにかできるんじゃないのか?次は全員助ける」
そんなことを思いながら俺は眠りにつくのだった。
※
夢を見る。
いつも通りだった。
闇に浮かぶ自分の体、目の前にはウィンドウが表れ文字が表示される。
『クリアおめでとう!貴方はこの理不尽なゲームをクリアしました!』
何がクリアだよ。
何一つクリア出来てない。
仲間も何人も死んだ。
そして己の内の思いをさらけ出してくれた魔王も毎回死んでしまう。
何もクリア出来ていない。
『周回特典です。以下の特典が引き継げます』
・パラメータ
・お金
・周回数
・魔物の書
・特別なアイテム
・他1部のもの(詳細)
「はぁ………」
いつも通りの画面だ。
『引き継ぎますか?』
目の前に2つのボタンが浮かび上がってくる。
【→YES/NO】
「頼むぜ」
俺は躊躇なく左のボタンを殴るように押したのだった。
周回で重ねたストレスを全て発散するかのようにボタンを押した。
『以下の内容でよろしければ確認ボタンをお願いします。周回数:9999+ 難易度:【全てを照らす光】』
誰もいない前を向いて告げる。
「やってやるさ。なんでもこいよ。このクソッタレな運命を俺が━━━━変えてやるさ」