筋肉モリモリの人って絶対強いと思うんだけど、物語では雑魚キャラとして扱われがちだよね
ナンパものたちに教えてもらった方角へ進むと、この村でもひと際大きな小屋が見えてきた。他の小屋と比べて一回りほど大きく、作りも上部に見える。
ここでは、自分の住処は自分で確保する必要がある。頼まれて仕事をしてくれる業者がないのだ。誰も助けてくれない。助けてくれるのは自分だけ。人は勝手に助かるだけを地で行く村である。
しかし、この村最強の男は違う。その腕っぷしを存分に発揮し、村人たちを統一。自分が生活するための家を屈強な男たちに作らせた。荒くれ者が集うこの村で、それをやってのけるのは正しく偉業。村の中でも有数な戦士30人を相手に、1人で立ち向かい、1人も殺すことなく制圧してみせた。この村では逆らうものは誰もいない。とある凶暴な魔物軍が現れたとき、1人で殺戮の限りを尽くした姿は村人の記憶にも新しい。
「ここが村長の家?」
「んー、まぁ村長ってわけじゃないけどな。とりあえず、この村で一番強いやつさ」
「嬢ちゃん何の用事があるか知らないけど、気を付けた方がいいぜ。奴は、俺たちほど優しくない」
見るからにやんちゃ坊主な、道案内を務めてくれた両名。
普段は暴虐の限りを尽くす荒くれ者たちだが、穢れなきぽぽぽんの前では善良でいたいようだ。
「いやいや、ありがとー。連れてきてくれて助かったよ」
「そうか。まぁまた何かあったら声をかけてくれ。困っていることがあったら相談に乗ろうじゃないか」
「ほんと?ありがとー!」
満面の笑みを2人に向けるぽぽぽん。
その微笑みはまさに天使。
見ている人の心を強く撃ち抜く笑顔だ。
そのぽぽぽんの笑顔をみた2人はすっかり骨抜きにされてしまった様子。
大変満足そうにしてこの場を去って行った。
「ぽんって、天使よりは悪魔だよね。小悪魔的な意味で」
「ナギが何言っているのか、私にはわからないよ」
「とりあえず、せっかく居場所を教えてもらったわけだし、さっそく村長に挨拶をしに行こうか」
教えてもらった小屋に向かって足を進める。
他の小屋と比べれば大きな小屋だが、特に目立った特徴はない小屋である。
さほど緊張することなく、小屋の前にたどり着いた。
「とりあえず、ノックした方がいいよね?」
「うん。聞くまでもないよね」
扉をノックする。
あまり強く叩くと壊れてしまう気がする。
軽くこぶしをあてる程度の力で、トントン叩く。
「何奴」
扉の奥の方から、低い声が聞こえた。
大変短い返事である。
「あ、どうもー。ぽぽぽんっていいます。今日この村にきた旅人でーす。挨拶にきましたー」
「ふむ」
声の主が近づいてくる気配を感じる。
「どうやらちゃんと家に居てくれたみたいだね」
「そうだね。運がよかった」
「それで?何の用かな?」
するといきなり後ろから声が聞こえた。
振り返るとそこには、とんでもなく筋肉を盛り上げた大男がいた。
甲冑に身を包んだその男は、腕に大きな傷を作り、無駄な脂肪は一切ない。
まさに歴戦の勇者といった風体である。
「あれ?今小屋の中にいたんじゃないですか?」
「あぁ、そうだが?」
小屋の中から出てきて、ぽぽぽんとナギの後ろに一瞬で回り込んだわけである。
その大柄な身体からは想像できないくらい俊敏。
さすがのぽぽぽんもタ大変驚いた。
「す、すごいですねー!今どうやったんです?」
「ふっ、ただ普通に歩いてきただけだが?」
驚くぽぽぽんの姿をみて、どことなく嬉しそうな男。
大変得意気である。
(そんなに悪い人ではなさそうだね……。ちゃんと挨拶して仲良くなるんだよ?)
「あの!私の名前はぽぽぽんって言います!よかったらお兄さんの名前を教えてくれませんか?」
自分にできないことをできる人を素直に尊敬できる穢れなきぽぽぽん。
地面に足をつけて間もないぽぽぽんにとって、地上を目に負えない速さで動く筋肉の塊は、とても刺激的だった。こんなことで感動できる程度には簡単な女である。
「むぅ、この村には珍しくも丁寧なお嬢さんだ。私の名前はセロリ。元はこの国の騎士団長を務めていたものだ。よろしく頼む」