強くてもチュートリアルはチュートリアル
先ほどの攻撃で体力を消費したのか、バトルウルフの動きが鈍くなった。
肩を大きく上下し、荒々しい呼吸の音が聞こえる。
その瞳も気づけば虚ろとなっている気がする。
要するところ、隙だらけである。
「ほら、ぽん。バトルウルフが混乱しているうちにさっさと殺すよ」
「言い方が穏やかじゃないよ!まぁこの危機を乗り越えるにはそれしかないけど!」
「相手は闇の力を司る魔物のバトルウルフ。その弱点属性は光と炎。どちらの魔法がぽんは好みかな?」
「えっ、弱点属性とかあるんだ」
「まぁ一応ね。目安みたいなものだけど」
この世界の魔法には属性がある。
それは、よくある魔法の設定と同様に、大別すると以下のように分かれる。
炎、水、木、風、土、金、闇、光。
相性の相関図は今この場では語らない。(まぁおそらくイメージ通りであろう。)
生物的弱点と、相互干渉的弱点と、2つの弱点がある。
バトルウルフの属性は闇であるため、相互干渉的弱点は光だ。
また、生物的弱点として、炎も弱点としてあげられる。
まぁ、正直生物の弱点はだいたい炎である。
困ったら炎の魔法を覚えておけば間違いはない。
「それじゃ、光の魔法にしようかな。ほら、私天使だし」
「了解、光の魔法ね。それじゃとっとと片付けよう。バトルウルフが正常に戻っちゃう前に。呪文を教えるよ。私の後に続いてね」
――さぁさぁおいでなさい。其の力はすべてを照らす。白より清らかなものはない。白とは無の象徴です。この世のすべてを無に帰すのです。さぁ歌声に乗せて、すべてを滅ぼさん。ホーリーレイ――
その言葉は滅びの言葉。
全ての闇を明るく照らす。
闇に潜むものを盤上へと導きだす。
それは闇の者にとっては死の宣告。
魔物は隠れていたのに、神に見つかってしまうのだ。
闇に包まれていたと思えば、ぽぽぽんを中心に眩いほどの光で周りが満たされる。
その光が通った後に闇はない。
その光を遮ることは何者にもできない。
光に照らされるように、バトルウルフの身体が消滅していく。
慌てて逃げようとするバトルウルフ。
しかし、光の速度に勝てる生物はこの世に存在しない。
間もなく全身が照らされ、その後には何も残らなかった。
「うわぁ、なんかすごく眩しかったけど、さっきの狼どこいったん?」
「ぽん、お疲れ様。もちろん滅したよ。ぽん、君がやったのさ」
「何急に罪悪感を刺激しようとしてるのさ。さっきのが光の魔法?なんか確かに眩しかったけど、それで狼が消えた理由がわからないんだけど」
「何って、レーザービームだよ。超高熱の圧縮された光を照射して、対象のすべてを燃やしつくのさ。知っているかい?熱って白が一番熱いんだぜ?」
「何それこっわ!気軽に使えないよそんな魔法!!」
「まぁ最終兵器みたいなところあるよね。鏡とか水面とかあると反射して自分が焼かれるから注意が必要だよ。それ以外の物体はだいたい焼き尽くすから大丈夫」
「何が大丈夫なんだよもー!光の魔法っていうからもっと優しいものを想像していたのに!」
「そういうのはまた今度ね」
襲い掛かったバトルウルフという恐怖。
しかし、終わってしまえばあまりにも呆気ない結末。
バトルウルフは人間の街に行けば危険度A判定とされる怪物。
熟練の冒険者が3人で相手にするレベルだ。
それも世界の救世主ぽぽぽんに任せれば一瞬で葬り去ることができる。
村を救う前哨戦と思えば十分な成果である。
「さ、それじゃそろそろ移動するよ」
「あのさ、周りが暗くて道がみえないんだけど、光の魔法使って道を明るく照らすことはできないかな?」
「そんなことのために魔法を使うのはもったいないよ。魔力も無限にあるわけじゃないんだから。ほら、歩いた歩いた」
「ち、ちょっと待って!足元が見えない!怖いよ!こんな道歩けない!」
元々草原を歩いていたぽぽぽん達。
くらい夜道を歩いたところで何にぶつかるわけでもないのだが。
しかし、地面を歩くといった行動に慣れていないぽぽぽんにとっては、慈愛に溢れた地面でも崖っぷちと大差はない。
そのあと、ごねにごねたぽぽぽんに負けたナギと一緒に野宿をとることになる。
その後、新しい魔物が誕生することはなかった。
魔物を構築する魔力も有限である。
バトルウルフほどの怪物を生み出した今、空気中の魔力はほとんど残っていないのだ。
その後、朝目が覚めたから歩くこと数時間。
「ナギ!!みて!!やっと見えてきたよ!!」
「おぉ、本当にこっちに村があった」
ついに、村が見えてきた。
チュートリアルは終わり、人を救う偉業が始まる。
その村に待ち受けている悲劇はいったいなんなのだろうか。