初めての敵だからって弱いとは限らないよね。
「……ねぇナギ、あれはなに?」
ぽぽぽんの目の前には、ぼんやりとが黒い靄が見える。
見えるといっても、靄というよりは空間が揺れているような印象だ。
だが、その揺らぎの大きさと、感じる質量はただ事ではない。
「んー……ちょっと良くないものかな」
体長はぽぽぽんと比較すると約2倍程度であろうか。
その身体は人には到底たどり着けないほど大きく、筋骨隆々という言葉がよく似合う。
その爪は人の腕ほどの長さがあり、岩をも切り裂けそうなほど鋭い。
その口は人の頭など簡単に砕けるであろう、人など丸のみできそうなほど大きい。
その瞳は血よりも赤く、人の心臓など簡単に止めてしまうであろう。
「grrrrrrrrrrraaaaaaaaaaa!!!!!!!」
「ひぃっ!?」
「これはちょっとまずいね」
「何あれ!?さっきまで靄見たいだったのに、なんかでかい狼になったけど!?」
「魔物って存在は、魔力の塊だからね。太陽が出ているうちは、神の加護のおかげで魔物は生まれないんだけど、夜になると魔力が濃い場所では魔物が生まれたりするんだ」
ガギィンッ!!
一瞬巨大な狼の姿がぶれたかと思えば、突如背後から轟音が鳴り響く。
「な、なに!?」
音のした方を振り返ると、狼が自分たちに向かって爪を振り下ろした後の光景だ。
狼の攻撃は、ぽぽぽんとナギの周りを包むドーム状の壁に遮られ、宙に浮いた形で止まっている。
「なにこれ!?ナギなんかした!?」
「うん。バリアを展開した。うーん……本当はぽんのチュートリアルもかねて最初の戦闘では手を出さないつもりだったけど」
「ナギはこの魔物のこと知ってるの?」
「バトルウルフだよ。人みたいに二足歩行で歩くことが特徴で、足のバネがすごく発達していて、近くでみると瞬間移動しているかと思うくらい足が速いんだ」
ナギが話している間も、バトルウルフは繰り返しこちらにその鋭い爪を使って攻撃を仕掛けている。その度にナギが展開するバリアは爪をレジスト。ヒビ1つ入らない。
ただ、周りの暗闇に溶け込み、断続的に攻撃を繰り返すバトルウルフに、ぽぽぽんはビビりまくり。
「うわわわ、ちょっとナギ、なんとかしてよこれ!!」
「うーん、どうしようかな」
「何が!?なんで迷うの!?どこに迷うことがあるの!?」
「まぁそんなに慌てないでよ。とりあえず私が護っている間は大丈夫だから」
「う、うん。それは安心できるけど……」
そうはいってもと、ぽぽぽんはもう一度周りを見てみる。
火花だろうか。今もバトルウルフの爪とバリアが触れ合う度に閃光が走っている。
しかも、その攻撃の間隔がとても短い。音だけ聞けばマシンガンだ。
安心とは程遠い現状である。
「ナギはこのバリア、いつまで張ることができるの?」
「このバリアを張るのに使ってる魔力は私の中に溜まっている魔力を使っている。そして、私たちがこの世界に来てからは、まだ数時間しか経っていない」
「つまり?」
「そうだなぁ、もって10分かな」
「えー!?ダメじゃんそれじゃ!!誰か助けて―!!」
「まぁそう慌てないで。ちょっとチュートリアルには手強い相手だけど、魔法をぽぽぽんに教えてあげるから」
「え、ほんと!?あのバトルウルフを倒せるような!?」
「それはぽぽぽんのやる気次第」
ahoooooooooooooooooooooooooooooo!!!!!!!!!!!!!!!!!
バトルウルフの雄叫びが暗闇に響く。
耳を劈くような雄叫び。
常人ならば、その声だけで心臓を止めてしまうだろう。
身体の奥深くに響く叫びだ。
「わああああんっ!!怖いよ!!ナギ何とかして―!」
「私は人を助けないよ。人が勝手に助かるだけさ」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょー!」
バトルウルフはいよいよ全力を出したようだ。
爪が信号機のように赤く光る。
信号機は人を守るための光だが、あの赤は人を殺す。
その爪から溢れる魔力は凄まじく、ひょっとしたらナギのバリアなど、紙のように簡単に切り裂いてしまうのではないか。
「な、ナギ!あれはさすがにやばそうな気配を感じるんだけど!」
赤い閃光が、ぽぽぽんたちを襲う。
空気を切り裂いて、音を置き去りにした光は、その軌跡に生物の存在を許さない。
「いや、問題ないよ」
しかし、その力はナギには届かなかった。
「この世界で私に傷つけれる魔物はいない」
ナギの展開したバリアはヒビひとつ入らない。
それは、この世の摂理を置き去りにした強度だ。
その光景は、ぽぽぽんに大きな安心感を与えた。
「え、何それ。それじゃこの旅ヌルゲーじゃーん」
「まぁもちろん、そんなことは神が許してくれないんだけど」