鳥は歌い、風たちは舞い踊る。死ぬにはいい日だ。
無人の野原を歩く1人と1匹。
空には燦々と輝く太陽。
この辺りには、水辺はないが草に溢れている。
そのせいか、太陽が照らしているのに過度に熱いことはない。
心地よい風も吹いており、絶好の旅日和だ。
「いい天気だねー。こういう日は散歩に限るねー」
「露頭に迷って、目的地が曖昧の状態の放浪を、散歩と呼ぶのかは微妙だけどね」
1人と1匹は歩く。
目に見えない目的地を目指して。
北にはきっと何かがある。
もなみの言葉を信じて、ただ前に進むのみである。
「しっかし、ほんと景色変わらないねー。本当に村とかあるのかなー」
「まぁこんなものじゃない?」
「そうかなー。でも暇だなー。なんかすることないのナギ―」
「ないよ何も」
「えー、そんなことないでしょー。何か出してよナギえもーん」
「なんだよナギえもんって……。それじゃしりとりでもする?」
「しりとりはいいや」
「わがままだな……」
とりとめのない会話をしながら、確実に歩みを進める。
ここは争いの絶えない死の世界。
しかし、日が高く昇る日中は魔物は行動しない。
神の力を宿す太陽の光に魔物は弱いのだ。
そのため、比較的安全に日中は旅をすることが可能である。
しかし、逆に言えば移動はできるだけ速やかにする必要がある。
夜になると、魔物の群に襲われる可能性があるからだ。
それでも、止まることなく歩み続ければ、いつかはゴールに辿りつく。
とくに中身のない話を続けながらがむしゃらに歩いていると、遠くに村が見えてきた。
「お、ナギ!みてみてー!あれじゃないかな!」
「んー、そうかも」
この世界に時計はない。
よって時刻はわからない。
夕方くらいであろうか。
日は落ちる寸前で、もう太陽は頭半分しか残っていない。
「うーん……まずいなぁ」
「どうしたのナギ?」
「この世界にいる魔物は夜行性なんだ。だから、早く村までいかないと、私たちが魔物に襲われてしまう」
「えー、でも魔物ってあれでしょ?スライムみたいな」
「その言い方だと、スライムが弱いみたいな言い方だけどまぁそうだよ」
「いやいや、スライムでしょー?そんなの強いわけないってー」
「なんかすごい雑に死亡フラグ貼ってくれているけど、この辺りでスライムは出ないから心配しなくても戦わないよ」
「あ、そうなんだ……」
「なんでちょっと残念そうなの?」
昼間は激しく照っていた太陽は文字通り見る影もない。
夜は魔物の時間。
夜が来る前に村に向かわねければ、死んでしまうかもしれない。
「ほら、ぽん急いで!早くしないと夜になっちゃうよ!」
「ち、ちょっと待ってよー!」
ぽぽぽんを置き去りに速度をあげるナギ。
それを全速力で追いかけるぽぽぽん。
天使の身体ではなくなってしまったぽぽぽんは、元々空を飛んで暮らしていたために走り方がわからない。
全力で走ることを要求されるが、その走り方はぎこちなく速度は上がらない。
このままでは夜が来てしまう……。
「grrrrrr……」
「……?」
ぴたりと動きを止めるぽぽぽん。
周りを伺う。
何やら、物音がした気がするのだが……。
「ぽん?どうしたの?」
「待って、ナギ。何か聞こえなかった?」
周りを見ると、すでに日は落ちていた。
電気がないこの世界では、周りの照らすのは月あかりのみ。
さっきまで風によって音を立てていた草木たちも、今は静かになっている。
「grrrrrrxsu」
聞こえるのはうめき声だけ。
周りを見ても姿は見えない。
不吉な感覚が胸をよぎる。
「聞こえるね……」
「ねぇナギ。ちょっと周りを照らすことはできるかな?」
「できなくはないけど……ちょっと様子をみようよ。何が起こっているのかわからないし」
明かりを照らせば、不要に位置を知らせることになってしまうかもしれない。
そういった理由付けもあれば、不吉な予感がやめておけと囁いている。
動いたら死ぬ。
感覚でそれがわかるのだ。
「ナギ―……」
「しっ……」
しばらく様子をみている2人。
ずっと続くんじゃないかと感じる。
しかし、何事にも永遠はない。
状況が動き出すのは早く、声が聞こえてから5分後だった。