ただ着陸する。それくらいはできて当然だよね?
神により穴から落とされたぽぽぽん。
しばらく視界はブラックだったが、時が経つと気が付いたら周りには青空が。
分厚い雲を突き抜けて、身体が摩擦によって加熱していく。
「熱い!身体が熱いよナギ!なにこれどうすればいいの!」
「まぁそんなに慌てないで。慌てて考えてもいいアイデアは思いつかないって。一休み一休み」
「そんなこと言ってる場合じゃないよー!なんとかしてよー!」
「私そんな便利な存在じゃないんだけど。人に人は助けられない。人は勝手に助かるだけって偉い人も言っていたよ?」
「偉い人って誰さ!そんなことはいいから!神様から説明を任されたのはナギでしょ!」
「んー、仕方ないなぁ」
そういうと、ナギはその小さな手を使い魔力を練りだす。
それを自分の身体に纏わせると、今までぽぽぽんと同様に加熱していたナギの身体がみるみる平温へと戻っていく。
「こうして摩擦と相殺させるために、魔力の力場を身体の周りに作るんだ。そうすると、このように上がっていた温度が平温に戻っていく。私たちが高温動物でよかったね」
「そんな難しいこと言われてもわかんないー!なぜか翼もどこか言ったし!」
冷静なナギと比べて、自分の相棒といっても過言じゃなかった翼を失ったぽぽぽんは平静を保てない。
今のぽぽぽんの身体は地上の人と同様の性能。
このまま落下して地上にぶつかれば潰れたトマト待ったなしだ。
「さて、この命の危険にさらされたぽんは無事に着陸できるでしょうか」
「そんなこと言ってる場合じゃないってー!!」
「実際そろそろなんとかしないと普通に死ぬから、助かり方を教えるを教えるかー」
「はい!それ!!早く教えて!!」
「それじゃ私が歌う歌を復唱して。『さぁさぁお手をお拝借。ここに集うは風の精。私の身体を受け止めて。ふわりふわりと受け止めて。』どうぞ。」
「さぁさぁお手をお拝借!ここに集うは風の精!私の身体を受け止めて!ふわりふわりと受け止めて!!」
ナギの歌った歌を復唱すると、ぽぽぽんの周りに突如突風が巻き起こる。
風の動きはまるで踊っているようで、やさしくぽぽぽんを包み込む。
すると、ぽぽぽんの身体が減速を始める。
内臓に影響が出ないよう、優しく、徐々に減速をしていく。
「おおー、なにこれ。すごい」
「この世界は魔力が満ちているからね、魔法を使えるんだ。そしてこの世界で魔法を使うには、言葉を通じて世界に意思を伝える必要がある」
「ふむふむ」
「そこで、ぽんが採用されたんだ。歌を利用した方が、より安易に世界に意思を伝えることができる。歌を司る天使であるぽんが、1番適任だったから今回選抜されたのさ」
「あーね」
軽く魔法について説明を受けながら、緩やかに地上へと向かうぽぽぽん。
ついに、偉大なる大天使ぽぽぽんが地上に降り立つ、歴史的瞬間である。
ぽぽぽんが世界を統一後、降り立った地は世界でも有数の名所として大変栄える予定である。
「ふう、やっと着いた。地面に足がついているのって安心するんだね。私知らなかったよ」
「まぁ普段はずっと宙に浮いているもんね。知らなくて当然だよ」
地面の硬さを足で確かめるぽぽぽん。
今まで天使として生きてきたぽぽぽんは、その翼によって常に宙に浮いて生活をしている。
天使とは空を母として崇める存在であるが、人類は大地を母として崇める。
大地など普段は意識しないがゆえに、大地に対する感謝の気持ちに目覚めるのであった。
だが、それは物語には何も影響はない。
「それで、今からはどうすればいいの?」
「神様は今最もぽんを必要としている土地に目掛けて私たちを落としたはず。だから、近くに街があると思うんだけど……」
周りを見渡しても、そこは大きな草原。
遠くに山は見えるが、街はみえない。
川らしきものもみえないため、街がある方向も予測不可能。
「何もないみたいだけど?」
「うーん、そうみたいだね。困ったなぁ、私は別にこの世界のナビゲーターじゃないから、街までの案内はできないよ」
どうすればいいのか、世界に到着してただちに途方に暮れてしまった両者。
果たしてどちらに進めばいいのか。この世界には羅針盤はない。
適当に思うがままに歩くしかないのか。
とりあえず止まっていても仕方がない。とりあえず歩き出そう。
そんなことを考え出した時、突如空から声が聞こえた。
「ふふふ、さっそくお困りのようやねぇ」