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幻想と冒険と青春 ~叢商のチャゴ~  作者: 霧間愁
街と秘学と陰謀と自由と、××××で

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三十九話

 つい数日前、旅行用品専門店“機工の小さな森”でチャゴは小さな荷車を買った。

 金貨五枚の代物で、受注生産品だ。製作は別の場所でされるらしく、届くのが遅くなるかもしれないとのことだったが、納入日に店に向かうと出来上がっていた。

 制作の課程を見学してみたかったチャゴは少し残念に思っていたが、店で出会ったその荷車をみて気持ちが晴れた。

 川も渡れるように本体は船を模して、一週間分の食料と交易できる程度の代物だ。小さいながら折りたたみの幌があり、道中雨に濡れずにすむ。御者席はなく荷車を引っ張る使役された獣の横で一緒に歩く仕様で、荷車自体は単独で自立する。

 購入前は手車と悩んでいたが、自分はそんな胆力はないとそうそうに諦めた。店員に薦められた驢馬(ウサギウマ)という小型の益獣を購入した。

 人なつっこく、すぐにチャゴに懐いた。カンタートは新しい仲間と思ったのか騎兵の様に跨がって格好をつけたが、驢馬(ウサギウマ)は動じる様子もなくチャゴが持つ干し草を咀嚼した。

 今は荷車と一緒に城壁の門近くの預かり場で預けている。


──森へ向かおう


 遠くで仰々しく読み上げる声が聞こえ、やじが飛んでいた。

 なんともしていないのに、耳に入ってくる言葉。

 その傭兵はレノというらしい。

 先触れの役人が、羊皮紙に書かれた事を読み上げている。声は遠くなかなか聞き取れないが、交代で何度も読み上げているためその内容は自然と理解できた。

 殺してしまった原因は、カルムロから金を借りていて、その返済に困って殺してしまった、ということらしい。

 チャゴがぼんやりと処刑台の方を見ていると、剣を携えた軍服姿の兵士が、群がる大衆の周りを歩いているのが目に入った。チャゴは兵士と目が合うと愛想笑いをする。

 大広場で聞こえてくる話と組合で聞いて回った話にそれほど違いはなかった。チャゴは大広場にいる人々が有象無象に見える。

──ここで出店すれば儲かるんだろうな。一人一卑銭だしてもらえれば、もう大金持ちだもんなぁ

 公の催し物──公開処刑や為政者の結婚など──がある場合は、大広場での商売は禁止とされていた。ただ少し路地にはいると、盛んに行われているのだが。

 そんな広場の端、チャゴはぽつりといた。

 ぢゅぢゅ。

「まー」

 しばらく待つと、アングイスを頭に乗せたカンタートが現れる。

「うん、おかえり」

 アングイスがチャゴの肩に飛び移ると、カンタートがチャゴの足に飛びついた。

 カンタートを頭巾越しに撫でてやると嬉しそうにする。

 ぢゅぅ。

──アンクの言うとおり、刑の執行が早すぎる…かぁ

 アングイスが簡潔に「レノという女傭兵は贖罪の山羊(いけにえ)にされた」という旨の思考が流れてくる。アングイスの考えにチャゴは思わず声が出そうになった。

 アングイスの尻尾がペチペチとチャゴの頭を叩く。

──いってぇ

 森鼠(イーター)アングイスは、不貞不貞しくチャゴの頭上に座る。潜入という作戦を終えた鼠は、満足そうだ。


 組合でカルムロ殺害の噂話を聞き回るという偽装を終えて宿に戻ってくると、アングイスが代官と補佐官の屋敷に潜入したいと提案してきた。

 チャゴが理由をきくと、一度チャゴの召喚の理由を探るべく潜入した時、不審な点があったからと伝えてきた。

 不貞不貞しい森鼠(イーター)は、続けて疑問をチャゴに投げかけてきた。

 殺人はこの街でも重罪だが、カルムロは貧民窟(スラム)で商売するような身分で、その犯人と思われる女傭兵レノも荒くれ事を商売にする下賎。そんな殺人事件に代官自ら沙汰を下すような事をするものだろうか。

──いや、そりゃ残忍な殺し方だったのかもしれない

 チャゴが反論をするとアングイスは嗤う。

 ぢゅぢゅ。

 チャゴが知らないだけで大衆が嫌悪するような殺人だったのかもしれない。そうなれば、早期に代官が直接手を出すということも考えられる。

 しかし、殺し方は公表されていない。そんな噂もない。

 アングイスは加えて疑問を投げる。

 森を出るときにあれだけ精神錯乱をしていたレノが、果たして徒歩で一週間かかる道のりを衰弱せずに帰ってこれたのか?

 いや帰ってきたところで、そんな状態でカルムロを殺せるか?

──確かに、疑問はごもっとも。じぶんから危険な目に会いに行く必要はないだろ

 アングイスは確証を得るために強く主張した。が、チャゴは自分に容疑がかかっている訳ではないので反対する。

──藪をつついて蛇をだす必要なない

 「藪に蛇がむかうんだよ」とアングイスが鳴いた。

 証拠品が必要な訳ではないので、森鼠(イーター)だけで潜入させたかったが、小邪鬼(ゴブリン)を連れて行くという。長々とした議論があったが、結局チャゴが折れた。


 アングイスとカンタートは、いくつかの確証を代官の屋敷で見つけてきいた。

 と、そこで群衆が大きなこえをあげる。処刑される囚人が連れてこられたのだ。チャゴの思考は刹那そちらに向いたが、思い至ったことに衝撃を受けていた。

──犯人は別にいるのだ

 カンタートが心配そうにチャゴを見上げている。

 チャゴは優しく頭を撫でてやった。

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