二十二話
チリチリと火が燻る匂いで目が覚めた。
うっすらと開けた眼に見えたのは、たき火が小さくなっていることだった。
──火をくべないと…、あぁ違うちがう
身をおこすと、ペポパとダスの二人は身支度をすでに整えていた。頭がまだ働かないながらもチャゴは頭を下げる。
「ありがとうございました」
照れくさいのだろうダスは頬を掻いている。
ペポパは、ゲゲと笑った。
「その大鼠との魔術回線の話は理解できたでヤンスか?」
照れ隠しにダスがチャゴに質問した。えっと、と苦笑いをするチャゴ。
「話半分ですが…。この子とは魔術回線があるから、私の近くにいるだけで、【強化】みたい…な魔術があるんですっけ?」
「全然違うでヤンスけど、…もう、それでいいでヤンス」
「すいません、どうにも頭が働いていなかったみたいで…」
「やはり」といった感じでダスが芝居がかったため息をつく。どうやら視線が料理に向かっていたのは、バレバレだったようだった。
魔術の話の肝心な部分は、ほとんど聞き逃している。
「気にすることないでありまするよ」
ゲゲと眼を細めながらペポパが合いの手のように助け船をだした。
そして、数枚の紙と石墨をチャゴに手渡す。
「小さな魔術師にして半人前の商人殿に、火と水の謝礼でありまする」
高価な物を差し出され「え?でも…」とチャゴが戸惑い固持しよとした。
「受け取って欲しいでヤンス」
「そうしないと今からの仕事に身が入らないでヤンス」からとダスがペポパを睨みながら言うので、チャゴは礼を言う。
──そうだった。この人たちは、“荒事”をするのだ
この二人はこれから小邪鬼を殺しに行くのだろう。
「増えた小邪鬼を屠るのは、骨が折れまする。まぁ、百五十人なら二日もかからないでありまする…多分」
曖昧な算段なのだろう、思案気にペポパは森の方を見渡しながら言った。
「早くしないと依頼料が減るでヤンス」
「はいはい、でありまする。貧乏暇なしでありまする。魔術は銭が、かかるでありまする」とペポパが返事をする。
「こうも多いのなら、暗い森じゃなくて小邪鬼の森に改名すべきでヤンス」
「神話的な地名の一つでありまする。不遜な発言はやめるでありまする」
二人は崖淵に歩きながら言い合う。
──この二人は、いつもこんな感じなんだろうな
ペポパが淵間際に振り返った。
「教えた呼吸法は毎日続けるでありまする。鍛錬は毎日して、身につくでありまする」
ゲゲっと笑った。
「またでヤンス」
二人は気軽にその崖から飛び降りる。
──は…
「はぁ!?」
チャゴがその高さを思い出して、変に声が上ずった。
アングイスと名付けた森鼠を抱き抱えて、崖を見に行く。
ぢゅ。
チャゴの心情を知ってか知らずか、しっぽを揺らしながら、ひと鳴き。
チャゴがのぞき込むが、そこに二人の魔術師の姿はなかった。煙の柱がたつ森が広がっている。
─突然現れて、突然に消える。やっぱり、魔術師だったぁ…
へたり込むチャゴ。
アングイスはチャゴの腕からするりと抜け出して、たき火の近くで屈む。
ぢゅぅ。
本来火を嫌う魔獣が、それに気持ちよさそうに当たるという光景は奇妙なのだが、おっさん臭い鳴き声に可笑しくなりチャゴは気がゆるんだ。
そのまま大の字に仰向けに寝ころぶ。
空は碧い。
雲が悠々として、風で木々の揺れる音がする。
──あぁ、いい天気ってだなぁ
そして、小邪鬼の断末魔がうっすらと聞こえてくる。
目をつむる。
深呼吸一つ。
教えてもらった呼吸を一回。
「…よし。森から出よう」
決意を口に出してみたチャゴに、アングイスは尻尾を揺らして応えた。
仰向けのまま見れば「回復したらな」と言わんばかりだ。チャゴは、ため息を一つ。
空は、碧い。




