二十一話
チャゴの言を聞いたペポパとダスは難しい顔をする。
──きっと捜索隊は、…こないだろうしなぁ…
二人を余所にチャゴは、捜索隊を諦める思考に至っていた。
──逃げ隠れまわっても、小邪鬼と鉢合わせしそうだし
森から生き残って、自力でこの森から出る確実に近い方法を考える。
現金なもので腹が満たされると落ち着いて考えれるのは、生きている証拠なのかもしれない。
小邪鬼跋扈している、そしてその小邪鬼を殲滅するために傭兵が投入され混乱すると判っているところに、好き好んで捜索隊を送る商人はいない。チャゴが商会長の立場なら送らないだろうと思った。
──この崖でじっとしてみる?
だが馬車を通常に走らせても今日の夕方に着くのだ、馬車を切り離し乗馬しても昼前には町に着いているだろう。そこから商人組合や傭兵組合に掛け合って、捜索隊や救援がくるのは、早くても明日の昼過ぎ。
──諦めるのは、まだ早いか?…いや、ここからは“最悪”を考えて動かないと
明日の昼過ぎまで隠れていれば街に帰れる、とチャゴは高をくくっていた。が、どうにも二人の会話を聞くに、そうも言ってられない。
挫けてしまいそうな状況だったが、チャゴは違った感想を持っていた。
──しかし、…森に取り残されてから、ついていないか…?
こんな森の中で遭難して、魔物と魔術師二人に出会えて助けてもらっているのが僥倖なのだ、とチャゴは思う。
──…あの夢は本当に…?いやいや、まさか
ペポパがダスに目配せをして、口を開いた。
「呼吸法を教えるでありまする」
いいことが続くとは思えないが、今は出来ることをしようと、チャゴがペポパの方を向きなおす。
「呼吸法ですか?」
「身体の中の魔力を感じるための、まぁ、手順でヤンスよ」
魔力を感じる方法は、他にも幾つかの方法があるらしい。片付けをしながら、ダスが補足をしてくれた。
──吸ってはくだけなら、まぁ簡単だよね
呼吸法はチャゴが思っているほど難しくなく、その呼吸は理解できた。
「やはり才能があるでありまする」
ペポパが自分のことの様にゲゲとドヤ顔で笑う。ダスが「若いから覚えが早いんでヤンスよ」と笑いながら、使った器具の片付けを終えていた。
「この呼吸法のいいところは、立っていようが座っていようが出来ると言うことでありまする。少年は筋がイイでありまする」
褒められて悪い気はしなかった。
すぐに調子にのったチャゴだったが、楽だったのは始めのだけで、繰り返すうちに段々と苦しくなって、呼吸がままならなくなっていく。
──なんじゃ、こりゃ?
「額、背中っといっても首の付け根くらいでありまする、鳩尾、両肩、両太股、踵、どこでもいいでありあまするが、熱を感じまするか?」
呼吸を崩そうとも、目の前に指導役と監視役の魔術師がいる状態ではチャゴにサボる発想には及ばない。
──これが、名前を付けるのと関係あるのか?
「…ぜ、んぜ、…ん…わかん、ない…」
呼吸を維持しながら、喋るのは辛く難しいし、ペポパの言う熱なぞこれっぽっちも感じない。
「その熱さを感じれたらそれに集中しながら、呼吸を続けるでありまする」
ペポパがチャゴを置いてけぼりに話しているが、呼吸をあらげるチャゴには理解できないでいた。頭がクラクラとしてくる。
「な、名まえ…を、つけ…るほ…う方を…、教えて…くださ…い」
チャゴの呼吸が荒くなって、本来の目的を問いただそうとした。頭の奥の方がズンズンと痛くなってきた。
「名を思い浮かべるでありまする」
唐突な苦痛に段々とペポパに腹立ちが募ってきていた。
──いや、だから…“アングイス”
と、思った刹那。
体の力がすっと抜ける感覚がチャゴを襲った。
何かがごっそりと抜き取られた感覚、自分の中にあったモノが無くなるという喪失感をチャゴは理解する。
そして思わず気を失いそうになったが、倒れると見越していたダスが支えた。
「頑張ったでありまするな、少年」
チャゴが身体が倦怠感にさらに増すのを感じる中、膝の上で鳴き声。
ぢゅ。
アングイスと名付けられた森鼠が、ごそりと動いた。
「あ、ありがとうございます…」
アングイスが動いたのを解るとチャゴは、完全に気を失った。




