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幻想と冒険と青春 ~叢商のチャゴ~  作者: 霧間愁
森と女神と従魔と小邪鬼と、××××で
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十二話

 水妖馬(ケルピー)革の水筒を背負い、黙々と歩く。

 時より前方で鳴く声と遠方の薄明かり、チャゴ自身がつけた焚き火が頼りだ。

──これ、元の場所にたどり着けるのか?

 チャゴの心配をよそに森鼠(イーター)は進んでいく。

──別の場所に連れて行かれると思ったけど…

 たき火の明かりが強くなっていく。

 荷物がおいてある場所へたどり着く直前に、森鼠(イーター)がチャゴの下衣(ボトムズ)の裾を再び噛む。

「ちょ!なんだよ」

 チャゴの声とその物音が森の中に響きわたったのは同時だった。


 グゲフ。

 ゲェゲ。

 グゲゲ。


 小邪鬼(ゴブリン)だ。小邪鬼(ゴブリン)がいる。

 その声にチャゴの心は恐怖に染まっていく。慌ててしゃがみ込んで、ゆっくりと周囲を見渡した。

──逃げないと

 チャゴがいる場所から二匹以上いるのはわかった。

 思わず後ずさった。

 抱えて逃げようと森鼠(イーター)に手をのばすが、空をきる。

 見ると森鼠(イーター)小邪鬼(ゴブリン)たちに音もなく近づいてく。

「ちょ…!(オイ、どこ行く気だ?)」

 チャゴの制止に森鼠(イーター)は「ぢゅ」と短く鳴いた。

 チャゴにはそれが自信満々に「ついてこい」に感じる。まるで熟練の斥候(スカウト)のようだ。

──いいや、そっちには行かないぞ。どうする?このまま逃げるか

 チャゴは暗い森を向けるが、独りで行く自信はない。ここまで帰ってくるのにも森鼠(イーター)の鳴き声と誘導で助けてもらっていたのだ。

 暗闇の中をたいまつもなく、森鼠(イーター)もなく進む度胸はチャゴにはない。

──あぁ、ちくしょう

 心の中で悪態をつく。

 ぢゅ。

 悪態に反応するように森鼠(イーター)が鳴いた。


 近づくと焚き火の灯りで、小邪鬼(ゴブリン)の陰が揺れる。どうやら五匹いるのがわかった。

 昼間に追いかけてきた小邪鬼(ゴブリン)と同じ大きさの個体だ。本来、あれが普通の大きさらしい。

 チャゴは小邪鬼(ゴブリン)たち動きを観察する。

──くそ。浮かれやがって…

 商会の品の豆を貪っていたり地面に落ちた商品をかき集めていたり、樽に残った液体を啜っている。

 小邪鬼(ゴブリン)は腹の足しになるものに夢中で、周囲を警戒していないようだった。

──よし。朝になるまで森の中に隠れていよう。討伐されてから戻ってこればいい

 と、逃げる算段をして振り返る。一歩踏み出そうとして、チャゴは思う。

──あの森鼠(イーター)なしで?

 先程は抱き寄せようとして空振りしたことを思い出す。

──恩義は人間だろうが魔物だろうが一緒だ

 樹に隠れ小邪鬼(ゴブリン)の様子を気にしながら森鼠(イーター)をちらり見ると、先ほどまでいた場所に既にいなかった。

──ん?どこ行った?

 もう逃げたのかと森に眼をこらしたが、気配はない。

 ふいに騒ぐ小邪鬼(ゴブリン)たちの方に森鼠(イーター)の気配を感じ、様子を見ると小邪鬼(ゴブリン)のすぐ横、チャゴが整理した商品の木箱の上にいた。

「は?」

 森鼠(イーター)は木箱から、器用にそして静かに商品を盗っている。

 小邪鬼(ゴブリン)たちは、それに気づく様子はなく豆の樽を転がして出てくる豆を我先と貪っている。

 積んでいる木箱を利用して小邪鬼(ゴブリン)たちの死角に入り込んでいた。

 森鼠(イーター)は木箱の隙間から小邪鬼(ゴブリン)の様子を見ながら的確に品物を物色していく。

 上等な燧石(火打ち石)、赤い石の入った革小袋、厚手の布一斤。チャゴの両手で持てば収まるくらいの身体で、それらを何でもないように運んでくる。

 ぢゅぅ。

 その度にチャゴは森鼠(イーター)を捕まえようとしたが、何でもないようにチャゴをかわし、物を取りに行ってしまう。

 森鼠(イーター)は時より自分と同じくらいの石の陰や、背丈の高い草の陰で立ち止まり、小邪鬼(ゴブリン)の位置を確認しながら移動していた。


 ぢゅぅぢゅ。


 「待たせたな」と言わんばかりの森鼠(イーター)は、最後に運んできた厚手の布の上に鎮座した。

──いやいや、盗みだからな

 チャゴは心中で森鼠(イーター)に文句を言っておく。とりあえず、燧石(火打ち石)と赤い石の入った革小袋を、腰回りにつけた。

 背嚢が欲しくなるが、チャゴ自身の物は馬車の中だ。ないものは仕方ない。

 厚手の布は、手に持つことにする。

──(コレ)は、あとで外套代わりにしよう。はやく、ここから離れないと

 チャゴが森鼠(イーター)と厚手の布を抱えてゆっくりと立ち去ろうとしていた時、二匹の小邪鬼(ゴブリン)が二つ目の樽を持って逃げまどっていた。


 二匹の小邪鬼(ゴブリン)は、強奪する真似を巫山戯(ふざけ)ているようだった。

 別の小邪鬼(ゴブリン)が巫山戯て小石を投げるフリをして下品に笑っている。

 それほど大きい石ではなかった。

 もちろん当てる気などさらさらない、そんな投擲になるはずだった。

 小邪鬼(ゴブリン)の手から石が、()()にすっぽ抜けた。


 夜の宙に綺麗な放物線を描く石。


 そして、ただ()()に二匹の小邪鬼(ゴブリン)が掲げ持つ樽の(たが)に当たった。

 金属片が流れ落ちる音と小邪鬼(ゴブリン)の断末魔が森に響きわたる。

 小邪鬼ゴブリンたちに降り注ぐ釘。

 二匹は走り逃げようとして、足の裏に釘が突き刺さる。激痛にもんどりをうち倒れ、のたうち回り、身体中に釘が刺さっていく。

 他の小邪鬼(ゴブリン)が近づこうにも散らばった釘のせいで近寄れない。

 針鼠のようになった二匹の小邪鬼(ゴブリン)は、動かなくなった。

 石を投げた小邪鬼(ゴブリン)は、残った二匹に殴られはじめた。抵抗するが二対一では分が悪い。

 

 チャゴはその様子をしばらく見ていたが、おそらくあの小邪鬼(ゴブリン)は死ぬだろうと、その場から逃げ出した。

森鼠(イーター)のCVは、大塚明夫さん。

異論は認める。

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