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悪役令嬢の執事に転生  作者: junk
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第2話

 この世界は「剣と魔法の世界」である。

 男は剣を、女は魔法を覚える。

 魔力は誰にでも宿っているが、男は外に出すことは出来ない。代わりに体内で練り上げた魔力を、身体能力の向上に使える。

 代わりに女性は魔力を外には出せるが、体内では練られない。


「というわけでお嬢様、今からドレスに火を点けますね」

「どいうわけよ!?」


 魔法には属性がある。

 火・水・風・土の四つに、光と闇。

 前者は訓練次第で誰でも使えるが、後者は先天的なものだ。

 使おうと思えば誰でも使えるが、得意苦手がある。それは、イメージの差だ。魔法には強いイメージが必要になる。例えば農家は土に触り続けてきた経験から、土属性の魔法が得意になることが多い。逆に火は苦手な傾向が強かったりする。


 お嬢様が得意とされるのは火。

 主人公の水とは相性が悪い。しかも主人公は光と闇の魔法が同時に使える歴史上初の人物で、ぶっちゃけ火の魔法もお嬢様よりも上手い。


『そんなの卑怯よ! わたくしの苦手な水で、しかも光と闇まで! 正々堂々勝負なさい!』


 とかいう、わけの分からないことを言いながら勝負を挑み、同じ火の魔法でボコボコにされるのは有名なシーンだ。

 そうならないようにするのは簡単だろう。

 俺がお嬢様を止めればいい。


 しかし、それでいいのかとも思う。

 このままいけばお嬢様は、主人公に負け続ける人生だ。没落こそしないものの、顔がよくてで家柄のいいやつは全て主人公に奪われてしまっているから、ロクな男と結婚できないかもしれない。

 それは、果たして勝ちヒロインと言えるだろうか。


 否。

 そんなのは間違っている。


「なのでお嬢様、ドレスを燃やしますね」

「やめ、やめなさい! 淑女が半裸になって言い訳がないでしょう。それ以前の問題だけれど!」

「ですがお嬢様、このドレスを燃やさなければ、決闘に負けて泣きじゃくることになります」

「どういうことよ! わたくし、服を着ているだけなのだけれど!? それにわたくしが泣いていても、きっとジル様が慰めてくれるわ!」

「ジルクニフ様はお嬢様を軽蔑の眼差しで見た後『無様だな』とだけ仰るでしょう」

「ドレスを燃やされる方が無様だと思うのだけれど!」

「失礼ながら、無様というより命の危機かと」

「本当にね! 誰のせいかしら!?」

「お嬢様でございます」

「なんでよ!」


 正確に言うなら、未来のお嬢様が決闘を挑むから、だが。

 そこは些細な差である。


「いいですか、お嬢様。魔法とはイメージが大切なのです。自分が思い描いている心象風景を現実のものとする、それが魔法です。そして魔力とは、燃料。貴族であるお嬢様は魔力は多いですが、イメージする力が足りません」

「まあ、そうね。私が魔法を使うと、暴走してしまうことが多いわ」


 本当にね。

 その暴走が原因で主人公の服を焼いてしまい、颯爽と駆けつけた王子が自分の上着を羽織らせる、というイベントを作ってしまうくらい魔法音痴だ。


「なのでイメージ力を強めるために、服を焼こうと考えたのです」

「あなたが考えるべきは、常識とわたくしの安全ではなくて?」

「嫌味で返さないで下さい。負けに近づきます」

「普通のことを言ったと思うのだけれど……」

「はあ、ですが、仕方がありません。お嬢様がそこまで仰るなら、他の方法を使いますよ。……ふぅ」

「ねえ、ため息が多いのではなくて? わたくしは極々一般的な要望をして……」

「お嬢様!」

「ひゃ、ひゃい!」

「今日のお風呂に使う香油は何の香りにいたしましょう」

「今ぁ!? えっ、今それ聞きますの? 薔薇にいたしますが……」


 悪役令嬢は誰にでも務まるかと聞かれると、そうではない。

 先ず、それなりの身分が必要だ。

 平民上がりの主人公の対比となるために。

 次に、打たれ強さがなくてはならない。

 主人公にスペックの差を見せつけられ、攻略対象達にボロ雑巾の扱いを受けようとも、次の日にはこりもせずに「この平民上がりがッ!」と怒鳴るようなメンタルが必要不可欠なのだ。

 そして同じパターンでやられても新鮮なリアクションを出せる芸人力と、頭がよわよわなこと。


 お嬢様はその全てをクリアしてる。

 クリアしてるどころか、パーフェクト・ゲーム達成目前だ。

 今もこうして、無茶苦茶なことを言われても納得している。教育するこちら側としては、やりやすいことこの上ないのだが。


「ではお嬢様、今から暖炉に火を点けますので、その近くで読書でもなさってて下さい。目で見るだけでなく、音や温度もしっかり感じてくださいね」

「あるじゃない。普通の練習方法あるじゃない」

「左様でございますか。それはよろしゅうございましたね」

「びっくりするほど他人事だわ!」


 「なんて生意気な……」とか言いながらも、お嬢様はなんだかんだで火の近くで読書し始めた。

 お嬢様はアホアホであらせられので、基本的には身内に言われたことには従うのだ。

 これを続けていけば、お嬢様は火の魔法がうまく扱えるようになるだろう。


 ただなあ……主人公鬼のように強いんだよなあ。


 途中でお嬢様がうっかり蛮族に捕まるシーンがあるのだが、周りの人間が自業自得だと笑う中、主人公はそれを助けに行く。

 そして、ワンパン。

 主人公の水魔法は濁流のような雨を降らせ、平地に津波を引き起こす。お嬢様はどんぶらこっこと、波の上を木の板に乗って戻ってくることになる。めでたしめでたしだ。

 ちなみに主人公に助けられたお嬢様だが、自分が助かったのは神の助けだと信じて疑わず、それを吹聴したところ、真相を知る王子達に馬鹿にされる。


 まあ普通に考えて、あれが個人と仕業だとは思えない。

 仕方のない気もする。


「ところで、お嬢様」

「……なによ」

「明日は第一王子である、ジルクニフ様がいらっしゃいますよ」

「あら、そうなの。おもてなしの準備は万端でしょうね?」

「もちろんでございます」


 ジルクニフ様とは、この国の第一王子である。

 もちろん前世のゲームでは攻略対象だ。


 ウルスラお嬢様の婚約相手ではあるが、驚異的なほどお嬢様のことが嫌いである。恐らくは「主人公が登場するまでに何かあったのでは?」とプレイヤーに想像させない為の配慮だろう。


 正直に言ってまだライバルがいないお嬢様は、割と普通にジルクニフ様に接している。本編での「ジルクニフ様がご迷惑なさってるでしょう!? そんなことも分からないから平民上がりなんて蔑まれるのよこのクズ! ほら行きましょうジルクニフ様、私の愛しい婚約者様」とか怒鳴ったり目をハートにしたりする様子はまだない。


 しかしクッソ嫌われているのである。

 何を言っても無視されているのだ。

 理不尽過ぎてビックリする。


 心からお嬢様を敬愛し、そんな態度が全身から滲み出ている俺は、冷たい態度をお嬢様に取るジルクニフ様が好きではない。

 だが俺が粗相をしたら、益々お嬢様が嫌われてしまうかもしれない。

 くそっ! 相手が王子じゃなけりゃあ下駄箱に画鋲とか入れてやるのに!

 今は大人しく最高級の茶葉と好みのお菓子をご用意させていただくぜっ!

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