開幕戦 岡山 ファーストアタック
富士での合同テストから二週間、SUPER GTが開幕した。富士でのテストで上々の結果を出し、マシン開発とセッティングの方向性は間違っていないと確信したチームの士気も高くタイトル争いも十分に可能だと確信していた。フリー走行は持ち込みのタイヤを確認しのぞみがマシンとタイヤのセットアップを確認し300との混走セッションを消化していった。
水野「タイヤとマシンのバランスはどう?」
のぞみ「ちょっとアンダー気味だけど問題ないよ。」
水野「OK。念の為調整するから持ち込みタイヤの皮剥き頼むよ。」
のぞみ「了解。」
のぞみはフリー走行のセッションを消化し総合で8番手タイム。500の占有走行とサーキットサファリはシオンがドライブする。
川村「いいか、マシンに慣れろ。タイヤを大事に使え。調子に乗るなよ!」
シオン「わかってるって!」
そう言いながらコースインして行く。シオンはかなりアグレッシブな走りを見せる。占有走行でなんとトップタイムを刻んでみせた。TARDのピットが活気付く中、監督の本島楓は表情を曇らせていた。ピットウォークを挟んで、予選Q1が始まる。ミーティングではシオンが楓に詰め寄った。「私がQ2を走る!何でノゾミがQ2
なの⁉︎絶対にポールを獲るから!」楓の表情は変わらずQ1を走れと言った。不満が残る。メカニックの森は「GTでは予選で使ったタイヤがスタートタイヤになるからその事も考えなきゃならない。」そうシオンに声を掛けるも明らかに不貞腐れた態度でヘルメットを被っていった。
予選が始まり300クラスのQ1が終わり10分前後のインターバルを挟み、500のQ1が始まる。全車タイヤの発動する気温を見極めコースインのタイミングを待つ。サーキットに独特の静けさが包み込む。先に出たのはNakashimaのNSX。ダンロップタイヤを慎重に温めアタックに入る。
P「シオン、出ろ!コースインだ!」
シオンはうなづきRI4Aのエキゾーストノートを轟かせる。1周目はタイヤをウォームアップさせ2周目にアタックラップに入る。モスSで縁石をフルに使いアトウッドカーブで軽いブレーキング。裏のストレートでフル加速させヘアピンでフルブレーキング。低速区間をマシンをスライド直前までコントロールしマイクナイトコーナーから最終コーナーを立ち上がりコントロールラインを通過。いきなり3番手タイムを記録した。ルーキーでいきなりトップタイムに匹敵するタイムを出し関係者を驚かせた。TARDはそのままQ2に進出。のぞみにP.Pを委ねる。
GT500予選Q2、静寂がサーキットを包む。残り5分、ウォームアップを終えたのぞみがアタックに入る。この温度域はブリヂストン有利だ最初のアタックでトップタイム。だか同じスペックのタイヤを履く37号車TIM’sにトップタイムを塗り替えられてしまう。もう1回アタックするも4番手タイム。GT-R勢はセッティングの苦労しているのか7番手タイムが最上位だった。
楓「お疲れ様。悪くないタイムだからピット戻って来て。」
のぞみ「タイヤはまだ余力があるから行かせてよ!」
あまり感情を表に出さないのぞみが熱くなっている。無理もない、今シーズンから100号車をドライブしF1でタイトルを取ったピーター・マクラウドにコンマ2秒遅れていた。のぞみはセパンのテストでもずっと彼に僅差で負けていた。だがタイヤを壊してしまえば元も子もない。そのままセッションが終了し、ポールポジションは37号車の瀬田勝人が獲った。TARDは4番手で明日の決勝を迎える。
ピットに戻りマネージャーからドリンクとチョコレートを受け取ったのぞみは無言のままトランスポーターの控え室にこもってしまい、キッズウォークまで姿を現さなかった。
一夜明けた決勝日朝のミーティングではかなり士気が上がっていた。決勝での好位置序盤にスタートダッシュを決めたかった。ピットウォークものぞみは落ち着いた表情でサインに応じていた。ウォームアップ走行でのぞみが最終チェックに入る。セッティングも問題なし。エンジンが軽く回る。スタートグリッドに着車しそのままグリッドウォークに入る。スタートドライバーはシオンだ。
地元警察のパレードラップを終えフォーメーションラップに入る。ピットの水野からシオンに無線が飛ぶ。
水野「この周予定通りスタートだ。燃料は85%入っている。無駄に使うな、後半ステイントの給油時間の短縮が狙いだ。タイヤはQ2で使ったミディアム、まだ余裕に使える。ピックアップ、フラットスポットなんか作るなよ!」
セーフティーカーがピットロードに入る。最終コーナーを抜けシグナルがグリーンになるタイミングを見計らう。シグナルがグリーンに変わる。GT500 15台の直4直噴ダーボが一斉に吠える。シオンは1コーナーの突っ込みで3番手まで浮上して見せた。そのまま1周を消化し2位のレアルに食いついていた。そこへ無線が飛ぶ。
水野「焦るな!タイヤと燃料を無駄に使うな!勝負所を見極めて使え!」
シオンは2位のレアルを攻め立てる。その瞬間だった。「チッ!真っ直ぐに走らない!」300クラスとの混走で路面には大量のタイヤカスが散乱。シオンはピックアップに直面していた。それを見逃さなかった後ろのNISNOの剣崎龍介は見逃さなかった。ダブルヘアピンでシオンをパス。再び4位に後退してしまった。シオンは完全に冷静さを失っていた。かなり強引なドライビングで300をパスしNISNOを追っていた。剣崎はGTとフォーミュラニッポンで2連覇を達成した百戦錬磨のドライバーだ。300の対処もシオンとは歴然だ。ついに苛立ちが募ったシオンは強引にマシンをねじ込ませたが300と絡みコースオフ。カナードを破損させ、ドライブスルーペナルティを受け11位まで後退した。楓はミニマム周回でのピットインを指示。シオンをピットに入れのぞみに交代した。
P「カナード取れちゃってマシンバランス悪いけどごめん、そのままで行って!」
のぞみはうなづきコースインした。「右フロントのダウンフォースが足りない。でも走れる。」のぞみは手負いのマシンにムチ打ってポジションアップを狙った。他車のピットインのタイミングでアタックし10位まで回復。なんとファステストを記録して見せた。のぞみの選んだタイヤはハード。タイヤライフは余裕がある。だが傷を負ったマシンでの無理は禁物だった。のぞみのフルアタックはファイナルラップまで続いた。
のぞみ「前とタイム差教えて!」
楓「前は16号車、5秒のギャップ。」
ファイルラップ、16号車を捉えたのぞみはダブルヘアピンで勝負をかけオーバーテイク。TARDは10位でフィニッシュ。貴重な1ポイントを持って帰った。
レース後、シオンは楓と水野の叱責を受けていた。「お前の速さがあるのは認めるよ、だけど速いだけじゃGTは勝てないんだよ!ここに来たからにはトヨタを背負って立つドライバーになるべきなんだよ!」シオンは涙を流していた。自分のやったことがどれだけ多くの人の迷惑を掛けたことが。次戦は富士500キロ。TRADの開幕戦はここから始まる。