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機械姫と天の風  作者: ブラボー
機械のいる日々
8/18

機械少女フウ

「あ、あああ!あの!違うよ、おばさん!従者じゃなくて、この子は新しい師範代なんだよ!」

「あ!そう言えばそうですね!この前、陽助さんと仕合して師範代になったんでした!」


「陽助さんと?じゃあ、この子、陽助さんに勝ったのかい?」


「そ!そう!この子、少し珍しい独自の型の剣士でね!新しいウチの師範代なんだよ!行き倒れを拾ってね!」

「そうなのかい?」


フウの顔を見て、目で訴えてみる。

話を合わせろ!頼むから!頼みたくないけど頼むから!


「えぇ!えぇ!そうなのです!実は記憶喪失で、ほとんどを覚えていないのです!だから、名前を与えて命を救って下さった天風さんをマスターと呼び、忠義を尽くすことにしたのです!」


なんとか通じたらしい。


「そうなのかい?そりゃ、大変だねぇ!きっと、その腕も何かあるんだろう?天ちゃんは、こんなだから少し難しいところもあるけど、この子も大変なんだよ。支えてやっておくれよ!」

「はい!それはもう!」


「大福、オマケしておくから!ウチにお土産にする前に2人で仲良くお食べ!」

「ありがとうございます~!」


機械のクセに営業スマイルと話の回しは上手い。

なんかムカつく。

でも、1番ムカつくのは……………


「あ痛!もぅ、いきなり殴らなくても………」

「誤解を招くからやめてよ!」

「でも、これでどこでもマスター天風とラブラブできますよ?ダメですか?不満ですか?」

「ちょ!ラブラブとかふざけんな!」

「まぁまぁ、マスター天風!落ち着いて!」


憤慨する私に眼前で両手をひらひらと振りながら、呑気に笑うフウ。

落ち着いてられるか。発言には気をつけろと言いたい!


「まずはジョン・ティアーです!」

「………………。」


すっかり忘れていた。こいつに乗せられると色々と忘れてしまう。本当に調子の狂う奴だ。


「ではでは!オマケしてもらった大福を拝借して…………」


お土産用の大福4つとは別口に、オマケしてもらった大福は4つ。袋は別々にされている。おばさんはサービスがいいので、2人で2つ食べなさいと言う意味だろう。しかも、オマケしてもらった大福は何故か紅白大福だ。

フウは4つの紅白大福を両手に持ち、カラになった袋を足元に広げて置いた。


「あ、マスター天風は少し離れていて下さい」


そう言って私が離れると、その場で大福をジャグリングし始める。それはだんだんと回す輪が大きなものとなっていき、少しずつギャラリーが増えてくる。


「よっ!………はい!」


さらに体の動きを付け加え、ジャグリングしながら踊ってみたり、体を回転させてみたりするとギャラリーの数はかなりのものになる。曲芸だ。しかも見事な。しかし、何がしたいのだろうか?

少しばかりフウはジャグリングを繰り返し、ギャラリーが増えきってくると、1個だけ高く投げた。


他の3つは落下しながら腕をあげたフウの服の袖にすぽりと入っていく。


「マスター天風!上です!」

「は?」


何事かと思い、わずかに口を開けたまま上を向くと、先ほど天高く投げた紅い大福が顔面に落ちてきた。

ジャグリングされた大福はほどよく柔らかい状態で口元に落下し、くわえる格好になった。

フウがドレスのスカートの裾を両手で少し広げるようにつまんでキメると周囲からは「おぉ!」と歓声が漏れ、足元に置かれたカラの袋にはおひねりが投げられていった。


「ふぅ!なんとか成功しましたか!どうでし…………」


怒りでプルプルと震える私を見て、表情が固まる。

あの大福、もう少し口が大きく開いていたらノドに詰まるところだ!殺す気か!


「お、落ち着いて!マスター天風!ほ、ほら!こんなにおひねりが!」

「き、さ、まぁぁ~!!」


「あ……………」


怒る私を余所にフウは、おひねりの中から何かを取りだした。

指先くらいの小さな板のような何かだ。


「やはり、来ていましたか……………」

「………なにそれ」


「記憶媒体。恐らく映像か何かです。あの中にジョン・ティアーがいたかもしれません」

「な!?」


そんなバカな!

ジョン・ティアーは機械兵だと聞いた!しかし、あのギャラリーの中には外見からしてそんな見た目の奴はいなかった!

変装にしては秀逸すぎる!ジョン・ティアーは何者なのだ!


「とにかく、戻りましょう!きっとジョンか、その関係者からのものに違いありませんから!」

「なんで、そう思う…………」

「分かりませんが、なんとなく?ですよ!」


道場に戻ると門下生の半数以上は帰宅し、ガラさんや助平、陽助さん、龍治に勝虎らが残っていた。


「ドクター!ドクター・ガラヒ!」

「は?俺か?」


戻るや否やフウはガラさんを呼び出す。

ドクター・ガラヒってなんだ。後々、確認してみるとフウの中では自分を再起させたので、ガラさんは博士(ドクター)らしい。

街の電気屋さんが博士(ドクター)になった。


「記憶媒体を再生したいのです!」

「記憶媒体って…………こりゃ、チップじゃねぇか。流石にこんな高機能な旧文明はウチじゃ取り扱えねぇぞ」


「アレです!私の右手!」

「アレか?アレならウチに保管して………」

「すぐに!すぐにです!!」

「あぁ?すぐだぁ?しゃぁねぇなぁ!」


ガラさんが自宅に戻るや否やすぐに走って戻る。

ぶらりとした死骸のようなフウの右手を工具片手にフウと2人で道場内でガチャガチャといじくり始める。

それをみんなで見ていたが、正直、なんだか分からない。


「カーテンしめて!暗くして下さい!」


道場の中を可能な限り暗くして、またガチャガチャと手をいじくり始める。程なくして、道場の壁に光の張り紙のような何かが映し出される。


「よかった!まだ使えます!」

「中身は何が詰まってんのかねぇ………」


「わぁ!すごいね!おにいちゃん!」

「おぉ………。なんだろうな、これ」


「ところで助平、なんでアンタがいんの?」

「乙女のヒミツとか気になるじゃねぇすか!」

「変な事しないでよね」

「あらあら!マスター天風、そこまで私を………」

「うるさいよ!お前は!」


「みなさん、お静かに」


始まろうとする映像を前に興味半分だ。

陽助さんが促すと、壁に映像が映り始める。


━━━━━ガガ!

━━━━━…………ザ…………ザ………ザザ…………

━━━「ノーライフ聞こえるか!」「こちらクラウン。敵コア破壊。」「こちらプライド、防衛につとめる。」


様々な声と共に爆発音や銃撃音などが聞こえる。

視界なのか、目の前は真っ赤に染まった景色が映った。

燃える世界。そうとしか言えない深紅に燃えさかる景色。


━━━━ギィィィィィィ!! 


モーター音のような音が終始響き渡り、前方からは銃撃。

弾丸がかすめる音、空を裂く音が鳴り響く。

視界が回転すると、刃物が肉を切り裂く音がして視界がわずかに血に濡れる。


その映像を急に途絶えると、道化師の仮面をした人物が目の前に現れる。


「すまない。こんな事では赦されないとは知っている。私は自分の命、可愛さにキミを作ってしまった。戦争の道具だ。だが、私は道化師だ。子供達や街角をゆく暗い顔を明るい顔にするのが私の望み。」


「そうだよ。それが━━━━━だ。だから、キミは━━━涙。━━━の涙。ジョン・ティアー。キミにかけるマスターとしての願いがあるならそれは━━━」


「人々を笑わせなさい。」


━━━ザザ…………ザザザザ…………


それだけで映像は終わってしまった。

いまいち、何が伝えたいのか分からない。


「…………フウ、何か思い出した?」

「戦争…………。100日戦争。」


100日戦争…………。

遙か昔、まだ機械の文明の頃、機械による戦争が起きた。

機械により仕事を失い、何もかもが奪われたと嘆く民衆が軍事化し、これを鎮圧するために世界中の有数の機械兵が集まり、戦った。機械兵はわずか50。軍事化した民衆は5万を超えたらしいが100日で終結。結果は機械兵による鎮圧だった。

これは歴史的に100日虐殺とも言われている。5万を超えた民衆は(ことごと)くが殺され、機械兵は40体が破壊された。残ったのは10に満たない機械兵と100に満たない敗残兵だったとさえ言われる。


「………だめ!思い出せない!ジョン・ティアー!あなたは何故、私にこれを!100日戦争に参加したアナタは、どうして私にそんな悪剣を授けたのですか!!」


「落ち着け」


…………こんな時だが、本当にこいつは人間ではないかと錯覚してしまう。ユーミルは感情を作り出すと言うが、もしも人間に近いとして、フウはこんな戦争には耐えきれないだろう。

ならば、余計に分からない。ジョン・ティアーの差し金ならジョンはこれをフウに見せて何が伝えたいのか。


全ての映像が流れきると最後にメッセージが流れた。


「おつかれさまでした!なお、このチップは爆散します!グッドラック!ベイベー!」


ケタケタとピエロが笑い、映像が終わる。


「え?」

「ば、爆散!?」


「ばくさんってなんだ?」

「わかんないよぉ………」


「ど、どうしましょう!マスター天風!!」

「迷うな!!投げろ!!」


「はやくしろ!助平!戸を開けろ!」

「が、合点!ガラさん!」


キョトンとする龍治と勝虎を抱えて道場の隅に走り、ガラさんと助平が道場の戸を開ける!

突然で混乱したフウがあらぬ方向へ投げるので、それを刀の鞘で打ち付けると、空を舞う右手はパカリと開き、体よく庭先にチップだけが飛んでいく!


庭先に落下したチップはパン!と小気味良い音を立てて紙吹雪と共に「ひっかかったね☆」と書かれた極薄の紙がヒラリと舞った。


「…………………。」


一同、ただただ呆然とそれを眺めた。


「何すかコレ」

「ふざけた野郎だな………」

「心臓に悪いですね」


みんなで口々に感想を述べる中、フウは手を叩いた。


「あ」

「なに?何か思い出したの?」


何か思い出したらしい。


「ジョン・ティアーはセンスがありませんでした」

「なんの?」

「ギャグセンスです!別名・コールド。彼のギャグはサムくて凍るので…………あいた!?」


あまりに下らない情報で殴ってしまった。

なんだ、その情報は。


「もっとマシな情報を出してよ」

「そんな御無体なぁ~」


とにかく、ジョン・ティアーが何を言いたかったかは分からないが、100日戦争参加の機械兵だとは分かった。

だが、もしもジョン・ティアーが100日戦争の生き残りだとするなら彼はどんな機械兵なのか。

ふと、フウを見る。機械兵はみんなただ無慈悲に命令だけで殺戮するものだと思っていたが、こいつを見る限り、それは改めた方がいいのかもしれない。


「なんです?マスター天風」

「いや、アンタ変わってるな………って」

「恋しちゃいました!?」

「するかバカ」

「あ痛!?」


…………だとするなら、ジョン・ティアーはあの民衆のどれだったのか。

そしてジョン・ティアーは何を語り、何を想い、何を考えているのか。

唐突にそんな考えが浮かんでしまったのだった。

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